Mrs. GREEN APPLE「本と彗星」は6thアルバム『POPS』収録曲
「本と彗星」は、2026年9月30日発売の6thオリジナルフルアルバム『POPS』に収録されている楽曲です。アルバムでは「共犯」「シンデレラ」に続く4曲目に置かれています。
タイトルに並ぶのは、「本」と「彗星」という一見まったく関係のない2つの言葉です。
何度でも読み返すことができ、時を超えて残り続ける本。
夜空に一瞬だけ光の尾を引いて消えていく彗星。
「残り続けるもの」と「過ぎ去るもの」という対照的なイメージが、この曲では恋の記憶と重ね合わされていきます。
ここからは歌詞の意味を読み解いていきます。
過ぎ去った甘くて切ない日々と、恋を愛してしまった僕

----------------
他愛もない
甘くて切ない
日々が過ぎ去ったよ
意味はあったんだろうか
そんな事ばかり
口から衝いて出るけど
未来の過去で
過去の未来で
≪本と彗星 歌詞より抜粋≫
----------------
曲は、他愛もなくて、甘くて切ない日々が過ぎ去った、という振り返りから始まります。
その日々の意味を問う言葉ばかりが口からこぼれます。
恋が終わったあと、楽しかった時間ほど「あれは何だったのか」と問い直してしまう。
そんな心の動きが、素直に描かれていますね。
印象的なのは、パートの最後に置かれた、未来の過去、過去の未来、という言葉の反転です。
いつか振り返ったときに「過去」になる今と、かつて思い描いていた「未来」としての今。
時間を行き来するような言葉の組み合わせからは、過ぎた日々を今もさまざまな角度から見つめ直している姿が浮かびます。
----------------
滴り落ちてゆく実像は
当たり前を培っている
それは水の色に似たような
軽さを孕んでる
いつだって そうだ
僕らはね
そんな
嘘みたいな日常だけを
ただ過ごしている
≪本と彗星 歌詞より抜粋≫
----------------
ここでは水の色に似た軽さを帯びた実像が、当たり前の日常を育てている、と歌われます。
水の色とは、つまり透明で、色のないものです。
二人で過ごした日々は特別な色を持たない、何気ない時間の積み重ねだった。
けれど、その軽さこそが当たり前の日常をつくっていたのでしょう。
僕らはいつも、嘘みたいな日常をただ過ごしていた、と続きます。
「嘘みたい」という言葉には、夢のように幸せだったという意味と、いつ消えてもおかしくない不確かなものだったという意味、両方が込められているように読めます。
----------------
他愛もない
甘くて切ない
話で笑わせてよ
ただいっそ愛してよ
尚一層、愛してくれよ
触れれば壊れると知っていても
もう目は瞑れないよ
ただ恋を愛してる
ただ愛に恋しているんだな
≪本と彗星 歌詞より抜粋≫
----------------
1回目のサビでは、他愛もない甘くて切ない話で笑わせてほしい、と願います。
そして、いっそ愛してほしい、もっと愛してくれ、と想いを募らせていきます。
触れれば壊れてしまうとわかっていても、もう目を閉じることはできない。
危ういと知りながら、踏みとどまれない恋の衝動が伝わってきます。
そして最後に、恋を愛している、愛に恋している、という言葉が並びます。
「恋」と「愛」を入れ替えたこの言い回しは、相手そのものよりも、恋をしている状態に夢中になっている主人公の姿を表しているようです。
自分は相手を愛していたのか、それとも恋をしている自分を愛していたのか。
その境目がわからなくなっている揺らぎが、この言葉遊びに込められているのかもしれません。
西の窓から差し込む残像、学ばずに傷つき合う僕と君

----------------
揺蕩って昇るは残像だ
西の窓から透き通っている
それはいつの日にか見たような
虹はもう壊れてる
いつだって そうだ
僕と君は
そんな
学ぶ事なく傷つくだけを
ただ繰り返してる
≪本と彗星 歌詞より抜粋≫
----------------
ここでは、揺らめきながら昇っていく残像が描かれます。
その残像は、西の窓から透けて見えています。
注目したいのは、1番との対比です。
1番では「実像」が滴り落ちていきましたが、ここでは「残像」が昇っていきます。
落ちていく現実と、昇っていく記憶。
実体は失われても、その面影だけがふわりと浮かび上がってくるような描写です。
また西の窓という言葉も印象的ですよね。
西は日が沈む方角。
夕暮れの光のなかで、終わりを迎えた恋を思い返している情景が浮かびます。
いつか見たような虹は、もう壊れている、とも歌われます。
二人の間に架かっていた希望の象徴が、すでに失われてしまったことを示しているのでしょう。
後半では、1番の「僕ら」が「僕と君」に変わります。
二人は学ぶこともなく、ただ傷つけ合うことを繰り返していた。
ひとつだった「僕ら」が、「僕」と「君」という別々の存在として見えるようになってしまった。
この呼び方の変化には、関係の終わりがにじんでいます。
永遠を綴る本と、一瞬を瞬く彗星

----------------
抱きしめたいよ
忘れてしまいたいよ
忘れてしまえたら
僕の「好き」が困るかな
≪本と彗星 歌詞より抜粋≫
----------------
抱きしめたい、でも忘れてしまいたい。
正反対の気持ちが、同時に主人公の心を占めています。
そして、もし忘れてしまえたら僕の「好き」が困ってしまうだろうか、と続きます。
自分の「好き」という気持ちを、まるで一人の人物のように扱うユニークな表現です。
忘れたくても、行き場を失った「好き」をどうしていいかわからない。
そんな未練が、どこかかわいらしく描かれています。
----------------
いつか また話そうよ
恋について疑おうよ
どうかどうか元気で
永遠を記す本と
一瞬を瞬く彗星
自然と知性
変化と文明
厄災も照れ臭いも
この銀河の分岐地点
≪本と彗星 歌詞より抜粋≫
----------------
このパートは、いつかまた話そう、恋について疑ってみよう、という呼びかけから始まります。
そして、どうか元気で、と別れの言葉が添えられます。
ここで登場するのが、タイトルの本と彗星です。
永遠を書き記す本と、一瞬だけ瞬く彗星。
いつまでも残り続けるものと、一瞬で過ぎ去るもの。
二人の恋は、そのどちらでもあったのかもしれません。
彗星は一瞬で消えていくように見えますが、なかには長い周期で何度も地球の近くに戻ってくるものがあります。
一瞬で終わった恋も、本のように心に記録され、いつかまた思い出としてめぐってくる。
タイトルには、そんな意味も込められているのかもしれません。
さらに、自然と知性、変化と文明、災いと照れくささ、と対になる言葉が次々と並びます。
壮大なものと、ささやかな感情が同じ重さで置かれ、それらすべてが銀河の分岐点にあると歌われます。
二人の恋の終わりは、宇宙規模で見ればほんの小さな出来事です。
けれど当事者にとっては、世界が分かれてしまうほど大きな分岐点だった。
スケールの大きな言葉選びが、恋の重さを際立たせています。
----------------
他愛もない
甘くて切ない
話は終わったよ
ならいっそ離してよ
もういっそ離してくれよ
触れれば壊れると知っていても
知ってるだけじゃ駄目だよ
ただ恋を愛してる
ただ愛に恋してる
ならきっと
≪本と彗星 歌詞より抜粋≫
----------------
ならきっと
ラストのサビは、1回目のサビと対になっています。
1回目で笑わせてほしいと願っていた他愛もない話は、ここではもう終わってしまいました。
そして、いっそ愛してほしい、と願っていた言葉は、いっそ離してほしい、に変わります。
「あいして」と「はなして」。
響きの似た言葉を入れ替えることで、関係の変化がはっきりと示されています。
触れれば壊れると知っていても、知っているだけでは駄目なのだ、とも歌われます。
1回目のサビでは、危うさを知りながら目を閉じられずにいました。
ここでは、知っているだけでは何も変わらないと気づいています。
それでも最後には、恋を愛している、愛に恋している、と1回目と同じ言葉を繰り返し、まだきっと覚えている、と続けます。
そして、ならきっと、という言葉で途切れるように終わります。
その続きは語られません。
けれど、まだ覚えているのなら、いつかまた。
そんなかすかな希望を残した、余韻のある結びです。
----------------
渦巻いた因子の果てへ
原則が渦巻いた
委ねるは粒子の波へ
夜の隙間に心ゆくまで
≪本と彗星 歌詞より抜粋≫
----------------
曲の終盤は渦巻く因子、原則、粒子の波といった、科学を思わせる言葉が並ぶのが特徴的です。
粒子と波という言葉からは、光が粒子の性質と波の性質の両方を持つという物理学の考え方が連想されます。
恋という、理屈では割り切れない現象。
それを宇宙や物理の言葉で包み込み、夜の隙間で心ゆくまで身を委ねる。
自分の手には負えない大きな流れに、恋心ごと任せてしまおうとする姿のようにも読めますね。
Mrs. GREEN APPLE「本と彗星」が描く、一瞬の恋が永遠に残る理由

Mrs. GREEN APPLE「本と彗星」は、終わってしまった恋を振り返りながら、恋そのものを愛してしまう心の揺らぎを描いた一曲です。
一瞬で過ぎ去った日々も、本のように心に刻まれて残り続ける。
甘くて切ない記憶を抱えたまま、また前へ進んでいく。
そんな背中をそっと押してくれる一曲を、ぜひじっくり味わってみてください。
【Mrs. GREEN APPLE PROFILE】 大森元貴 (Vo/Gt) 若井滉斗 (Gt) 藤澤涼架 (Key) 2013年結成。2015年EMI Recordsからミニアルバム「Variety」でメジャーデビュー。 以来、毎年1枚のオリジナルアルバムリリースと着実なライブ活動を続け、2019年12月から行われた初の全国アリーナツアー「エデ···
