フェーズ1の名曲で描く現実の厳しさ
いくつものフェーズを越えて飛躍を続けるバンド・Mrs. GREEN APPLEの魅力といえば、ポップな曲調に乗せながら人間の弱さや痛みにフォーカスしている点が挙げられるでしょう。誰しも抱える、言葉にできない苦しみにそっと寄り添い、前向きな気持ちにしてくれるようなメッセージが、幅広い世代のリスナーから支持されています。
『Hug』は、メジャーデビューを果たした翌年の2016年にリリースされた1stアルバム『TWELVE』の収録曲です。
美しく繊細なハイトーンボイスが際立つミディアムテンポのバラードナンバーで、初期の名曲のひとつに数えられます。
多くのリスナーを力づけている『Hug』の歌詞の意味を考察していきましょう。
----------------
寂しくなった。
誰か ワタシを温めてと
朝になれば 星達が
塵になっていく
≪Hug 歌詞より抜粋≫
----------------
1番冒頭は「寂しくなった。」というフレーズから始まり、主人公の状況が直接的に表現されています。
「誰か ワタシを温めて」と願うほど、主人公は孤独を感じていることがわかるでしょう。
ここで、寂しさと温度が紐づけられている点に注目できます。
人の温もりは安心感を与えますが、互いの距離が近づかなければ温もりは感じられません。
どれほど多くの人と会って笑って話していたとしても、心の距離が近づかなければ、心は寒いままで孤独を埋められないでしょう。
深い人間関係を築くのが難しくなってきた現代では、知り合いや友達は多くても、言いようのない孤独を感じている人は少なくありません。
この主人公は、そうした現代に生きる一人ひとりの姿を投影しているのではないでしょうか。
「朝になれば 星達が 塵になっていく」というフレーズは、生きにくい社会の様子を表しているようです。
夜の暗い空を輝かせる星々も、朝になれば太陽の光に埋もれて見えなくなってしまうように、自分の心を温めてくれていた存在を見失ってしまうことがあるでしょう。
ただ見えないというだけでなく「塵になっていく」と表現することで、希望が現実に打ちのめされて、価値を失ってしまう状態が示されています。
あまりに現実が強烈で、心の拠り所を持ち続けることすら難しい現状が伝わってきますね。
ワタシをハグする「私」とは?

----------------
おはよう
また今日が始まったね
おやすみを云うまでの辛抱だ
ひどく疲れてるんだ 潤してよ
アナタと私だけのハグをしよう
アナタと私だけのハグにしよう
≪Hug 歌詞より抜粋≫
----------------
朝を迎えることは前向きなイメージで用いられる場合が多いですが、ここでは「おやすみを云うまでの辛抱だ」と続いています。
主人公にとって新しい一日の始まりは、苦痛な時間の始まりです。
眠りに就くまで耐えなければならず、眠ればまた次の日の苦痛が始まります。
「ひどく疲れてるんだ 潤してよ」という言葉から、心の渇きを感じていることも読み取れます。
言葉だけの乾いた癒しではなく、心の奥深くに染み込むような癒しを求めているのでしょう。
そして、最後に「アナタと私だけのハグをしよう アナタと私だけのハグにしよう」と続きます。
「ワタシ」と「アナタ」が同じくカタカナ表記になっていることから、これは同一人物であると考えられます。
そして新しく出てきた一人称も、表記が違うとはいえ「私(ワタシ)」であることをふまえると、やはり同じ人を表しているのではないでしょうか。
そう考えると、孤独に苦しむ「ワタシ」を主人公の本質的な部分である「私」が抱きしめて癒してあげたい、と思っている構図が見えてきます。
主人公は他者の温もりを求めていましたが、まず自分自身が弱さを受け入れ認めてあげることが大切だと気づいたのでしょう。
ほかの誰も入り込まず、決して傷つけられることのないその関係は、何があっても見失うことのない希望といえます。
始まりには終わりがある

----------------
悲しくなった。
誰か ワタシを慰めてと
夜になれば お日様が
裏切って去っていく
≪Hug 歌詞より抜粋≫
----------------
主人公は悲しさも抱えていて、慰めを必要としているようです。
1番では夜になることを待っていたのに、2番では「夜になれば お日様が 裏切って去っていく」とあります。
もしかしたら毎日苦しい思いをしながらも、そのなかで少なからず温もりや希望を見出していたのかもしれません。
しかしその気持ちは裏切られ、絶望が押し寄せます。
朝と夜が必ず繰り返されることから、主人公に心が安らぐ瞬間はないことがわかります。
あなたも、朝が来ないでほしいけれど夜が来るのも怖い、と感じたことがあるかもしれません。
そのように毎日積み重なっていく孤独や不安が表現されています。
1番の星から、2番の太陽へと光源が大きくなっているため、より喪失感が大きく深い悲しみに襲われていると解釈できるでしょう。
----------------
おはよう
また今日が始まったね
おやすみが云えるだけ有りにしよう
ひどく考えんだ 狂わしてよ
アナタと私だけの街にしよう
≪Hug 歌詞より抜粋≫
----------------
始まりには必ず終わりがあるものです。
また始まってしまった今日を嘆くより、今日の苦しみも必ず終わるから「おやすみが云えるだけ有り」と思おうと優しく語りかけてきます。
「ひどく考えんだ」主人公は、「狂わしてよ」と気持ちを吐露します。
真面目で誠実な人ほど悩みを抱えてしまいがちです。
いっそ狂ってしまえば、今感じている苦しみとまともに向き合って悩むこともなくなるでしょう。
そう思うくらい追い込まれていることが読み取れますね。
続く「アナタと私だけの街にしよう」のフレーズでは、自分の世界が小さいながらも広がっている様子が垣間見えます。
実際の街には人が多く行き交うため、さまざまな不和が生じて問題が尽きません。
一方、自分と内なる自分だけが住む街なら問題は生まれず、いつも寄り添って平和に暮らせます。
狭いところでハグしているだけだった主人公が視野を広げ、繰り返す朝と夜を生き抜いていくための方法を考えていることが読み取れます。
誰かへの愛に傷つくくらいなら傷ついた自分自身を愛して

----------------
心の恋はノミだらけ
もう血だらけの 愛を立候補
その正体 衣だらけ
この血だらけの 愛は一等賞?
≪Hug 歌詞より抜粋≫
----------------
ノミはごく小さな虫ですが、皮膚に穴を開けて血を吸い、強いかゆみを引き起こす厄介な寄生虫です。
「心の恋はノミだらけ」という表現は、美しく純粋に見える恋に潜む、不快感や煩わしさを表しているように思えます。
その不快感を和らげたかったのか、搔きむしって傷が広がった愛は「もう血だらけ」。
負傷しながらも「立候補」していることから、誰かに愛を捧げたい、誰かにその愛を認めてもらいたいという気持ちがあるのでしょう。
しかし、その愛の正体が「衣だらけ」ともあります。
誰でも、体面を保つために自分の気持ちに嘘をついて装ったり、良く見られるために猫を被ったりすることがあるはずです。
それをいくつも重ねているうちに、愛という人間の本質すらも、どのような形をしていたかわからないものになってはいないでしょうか。
傷=努力の証なら、血だらけの愛は「一等賞」なのかもしれません。
とはいえ、それほどまでに傷つかなければならなかった現状に違和感を覚えるべきです。
最後の疑問符が、自分が傷つくばかりの愛にどれほどの価値があるのかと問いかけてきます。
----------------
おはよう
また今日が始まったね
お星様に礼を言うばかりだ
「ひどく疲れてんだ 潤してよ」
私と私だけのハグをしよう
私と私だけのハグにしよう
≪Hug 歌詞より抜粋≫
----------------
そうしてまた「今日」が始まりました。
いつもと変わらず苦しい朝のはずですが、ここでは「お星様に礼を言うばかりだ」と歌っています。
朝を迎える度に塵のように無価値になる星は、また夜が来れば夜空に煌めきます。
現状を劇的に変えてはくれなくても、小さな希望を与え続けてくれる存在があることに気づくと、少し心が軽くなるでしょう。
無価値だと言いながらそこに希望を見出そうとする矛盾した気持ちに、人の複雑な想いが表現されています。
1番で出てきた「ひどく疲れてんだ 潤してよ」のフレーズが、引用符をつけて再登場しているのも印象的です。
自分の言葉としてではなく客観的に思い返すことで、自分自身の心の状態を確かめて、何を求めているのかを理解しようとしているのかもしれません。
自分のことを本当に理解できるのは自分だけです。
だから傷ついている部分を弱いと切り捨てず、自分の大切な一部として守るべき存在と見てハグしてあげる。
他者を愛する以上に自分自身を愛して尊ぶことにより、苦しい毎日に小さな温もりと癒しを与え、ほっと安らげる瞬間を大切にしようと語りかけてくれているように感じます。
一日の終わりに聴きたいメッセージソング
Mrs. GREEN APPLEの『Hug』は、毎日を必死で生きて傷ついている一人ひとりをハグするような温かさを感じる楽曲です。問題や悩みに振り回されると自分に優しくできなくなることがありますが、自分の頑張りは自分が一番よく知っています。
ぜひ眠る前に聴いて一日頑張った自分を認め、翌朝起き上がるための力をもらってくださいね。
【Mrs. GREEN APPLE PROFILE】 大森元貴 (Vo/Gt) 若井滉斗 (Gt) 藤澤涼架 (Key) 2013年結成。2015年EMI Recordsからミニアルバム「Variety」でメジャーデビュー。 以来、毎年1枚のオリジナルアルバムリリースと着実なライブ活動を続け、2019年12月から行われた初の全国アリーナツアー「エデ···