「サイボーグ009」の新たな主題歌
globeは、90年代にとにかく売れたグループです。
90年代半ばというのは、音楽プロデューサー小室哲哉の全盛期。小室作曲の楽曲が何曲もヒットチャートにランクインするという現象が起きていました。その小室哲哉本人が参加したユニットがglobeです。デビューアルバムは400万枚売れました。
2001年発売のシングル『genesis of next』は、アニメ「サイボーグ009」平成リメイク版のエンディングテーマだった曲です。
当時は、すでにこのグループの全盛期は過ぎていた頃です。この曲も主題歌として必ずしも歓迎されたわけではありません。
かつて放送されていた元祖「サイボーグ009」は『誰がために』という人気の主題歌がありました。この渋い名曲と比較され、なんで主題歌が小室なんだ!と批判されたのです。
genesis of next
globeの曲としても、一般的にはあまり有名ではありません。しかし、この曲は「次の創世記」を表すタイトルどおりに、次の世代へ009をつなげ、次世代へ音楽をつなげました。
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赤い 空を 自由に 飛ぶ 鳥が
羽を 休め キミの 側に 眠る
夢の 中で キミを 探し 見つけ
愛しい lonely planet
≪genesis of next 歌詞より抜粋≫
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「赤い空を自由に飛ぶ鳥が」赤いコスチュームのサイボーグ戦士と空を飛ぶジェットを連想させる歌詞。「夢の中で キミを 探し 見つけ」という歌詞も島村ジョーとフランソワの関係を連想させます。
この曲で頻繁に出てくるフレーズ「lonely planet」。孤独な星とは、サイボーグ戦士たちが戦う地球のこと。サイボーグ戦士たちは人知れず孤独に戦います。地球規模の戦いが多いこともこのフレーズで象徴されているのです。
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また覗いた いつものカギ穴
闇にうっすら 自分の影だけ
残ったキズ ボクは癒せず
そこは lonely planet
見つめ合う瞬間 時が止まった
じゃれあう言葉 全てあのまま
時のイタズラ 抱き合いながら
扉を閉めず 飛び出した…
≪genesis of next 歌詞より抜粋≫
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この一連のフレーズ。ここは、009の名作エピソード「結晶時間」を反映しています。
島村ジョーの加速装置が故障し、1人で加速し続けるこのエピソード。とてつもない速さで動く島村ジョーにとって、周囲は時が止まったかのようにゆっくりに見えるのです。
「自分の影だけ」「時が止まった」「全てあのまま」「時のイタズラ」こういったフレーズは、1人で別の時間を生きる島村ジョーの孤独の表現。この加速状態で物体に触れると、あまりの速さのためにモノは燃えてしまいます。
「扉を閉めず 飛び出した…」は、こういった周囲のモノに触ることもできず、あわてて街に飛び出す島村ジョーの状況を表しています。
未来を予知したかのような歌詞
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逃げてお願い もし今何もかも崩れて
救い求めるシグナルでさえも
私の吐息さえも 届かなくても
明日を消さずに 生きれるかな 生きれるかな…
≪genesis of next 歌詞より抜粋≫
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この曲はまた、globeの先を予見した曲でもあります。「救い求めるシグナルでさえも 私の吐息さえも 届かなくても」この歌詞は、くしくも実際のボーカルKEIKOの状況に重なったのです。
2011年にくも膜下出血で倒れたKEIKOは、会話も難しい状況になりました。「明日を消さずに 生きれるかな」という歌詞どおり生きるか死ぬかの瀬戸際まできました。
現在は回復しつつあるようですが、いまだにライブで復帰できてはいません。それでも曲は活き続けています。苦しい現実がありつつも、曲が励ましているのです。
小室哲哉がこの曲を作った当時は、009の内容も自身のグループのこの先も予見はできなかったでしょう。時が経つにつれ、曲に徐々に意味が加えられていったのです。
小室哲哉はこの曲で、文字通り、日本におけるEDMの流れの創世記を作りました。この曲は、シングルとしてはかなり長いという挑戦的な部分も含め面白い曲です。
そして、glove=地球という意味を持つグループの楽曲の中では一般的にはあまり知られていないという「lonely planet」な事実もふくめ、魅力的なのです。
TEXT 改訂木魚(じゃぶけん東京本部)