大切な記憶を歌に込めて
globeは、小室哲哉本人が参加しているユニットであり、90年代の小室プロデュース全盛期を象徴するグループです。
90年代当時、小室哲哉がプロデュースした楽曲はミリオンヒットを連発し、「プロデュース」という言葉までも広く世の中に浸透させるきっかけを作りました。
そんなglobeの楽曲の一つ『Precious Memories』。この曲は、400万枚売れたこのグループのデビューアルバムに収録されているアルバム曲です。大事な・大切な・貴重な思い出・記憶を意味するタイトル。
Precious Memories
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学生の頃のはなし
カウンターで 足を組み
カクテル
少しピッチ速くて
いろいろ 話題が飛ぶ
≪Precious Memories 歌詞より抜粋≫
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序盤は静かに曲がスタートします。この出だしが良いですね。
「学生の頃のはなし」ときて、直後にカウンターで足を組みカクテルを飲んでいるという状況の描写。聴き手はすぐに「社会人になってから旧友と再会し学生のころの話をしている」楽曲なのだと理解できます。
カクテルのピッチが速い、ということから、結構飲んでいて話がはずんでいるということも分かりますね。
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あの娘はどこで働き
あの男は何をしてる
最近あいつが
電話してきたよ
あなたは今も飲み友達で
≪Precious Memories 歌詞より抜粋≫
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「あの娘はどこで働き あの男は何をしてる 最近あいつが電話してきたよ」この歌詞のように、多くの人が旧友と懐かしい会話を交わした記憶があるのではないでしょうか。
「あのこ」「あのひと」「あいつ」「あなたは」というリズムの作り方も自然で良いですね。
あえて表記した「わからず」
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時々 ふっと思い出す
Uh… precious memories
懐かしくても 会えずに
どこにいるかも
理解らずに
偶然 街ですれ違っても
気付かずに
お互いの道を目指してる
≪Precious Memories 歌詞より抜粋≫
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サビの直前でタイトルである「precious memories」が登場。ここでいったん感情の盛り上がりがきます。普段の仕事に追われる生活の中「時々 ふっと思い出す」感覚。誰にでもありえることを巧みに歌詞にしているんですね。
「懐かしくても会えずに どこにいるかも 理解らずに 偶然 街ですれちがっても 気付かずに お互いの道を目指してる」曲の中で一番盛り上がるポイントです。KEIKOの歌唱力でこのエモーショナルな歌詞が際立ちますね。
どこにいるかわからない状況に対し、「理解らず」と書いて「わからず」と読ませています。「わかる」は現在では「分かる」が正式表記で、この表記はあくまでも当て字。
「理解らず」で検索すると、この曲の歌詞が出てくるぐらい特殊な使い方です。小室哲哉は、なぜここの歌詞をわざわざ「理解らず」にしたのでしょうか。
それはきっと、かつて親しい間柄だった人でもその行動は理解できないから。
懐かしい人でも、どこにいるのか、なぜそこにたどり着いたのかは簡単には理解できない。顔や人格が変わっているかもしれないし、大成しているかもしれないし、道を外れてしまった可能性もある。簡単には理解できない。
だから、「偶然 街中ですれちがっても」気付かない。過去の記憶と現在の状況の対比を強める効果があるんですね。
いつまでも色褪せない名曲に
この曲を歌っていたKEIKOは2011年にくも膜下出血で倒れます。2016年現在は回復しつつあるようですが、音楽活動を再開できるには至っていません。この事実が、余計にこの曲を際立たせています。
かつて大ヒットしていた頃、globeの曲は使い捨てられ未来まで残らないだろう、と言われていました。
しかし、このグループの曲は色褪せずに今も残っています。この曲は特に、聴く者の『Precious Memories』をずっと刺激するんですね。これからこの曲を知る人にも、大切な思い出の曲になってほしいと思います。
TEXT:改訂木魚 (じゃぶけん東京本部)