米津玄師×中田ヤスタカがタッグを組んだ「何者」
中田ヤスタカと米津玄師の初コラボが実現し、映画『何者』主題歌が誕生しました。楽曲は、中田ヤスタカ名義となり『NANIMONO(feat.米津玄師)』のタイトルでリリースされています。
中田ヤスタカは、Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅのプロデュースで有名な作曲家。
今作では、作曲と編曲を担当。米津玄師は、ニコ動で発表してきた楽曲で注目を浴び、メジャーデビューしたシンガーソングライター。今作の作詞とボーカルを担当しています。
NANIMONO(feat.米津玄師)│中田ヤスタカ 歌詞
中田ヤスタカ - NANIMONO (feat. 米津玄師) (Official Video)
“人波”ではなく“人並み”である理由
“踊り場の窓から
人並みを眺めていた
僕らはどこへ行こうか
階段の途中で
不確かな言葉を携えて
呼吸を揃えて初めまして
そんで愛されたのなら大歓迎
繰り返し向かえ遠く向こうへ”
≪NANIMONO feat.米津玄師 歌詞 より抜粋≫
「踊り場の窓」というフレーズから曲はスタートします。「踊り場」=「階段の途中」。これは「人生の途中」であることを示している歌詞。
また、「窓」から眺めていたのが「人並み」であるという点に注目。人が波のように多い「人波」ではなく、あえて人並みになりたい意味の「人並み」の字をあてているのです。
この最初のワンフレーズだけで、人生の途中で人並みの生活をおくれるかという不安を歌っていることが分かるんですね。
「不確かな言葉を携えて」と「呼吸を揃えて初めまして」の対比が登場。この曲の歌詞は、対比で構成されています。
面接や自己紹介の際に出てくる言葉は、自信もない「不確かな言葉」。しかし、それでも「呼吸を揃えて」=周囲と足並みを揃えて、言葉を発しなければならない。そういった息苦しさと緊張感を歌っています。
愛されたのなら大歓迎
続くフレーズが「そんで愛されたのなら大歓迎」。「それで」でなく「そんで」にすることで音にのりやすくなります。また、歌詞の主人公が口頭で語っているような印象を与え、聴く者の耳に入りやすくなるんですね。「初めまして」という最初から新しい環境の人から愛されれば、文字通り「大歓迎」されるでしょう。しかし、現実はそう上手くいかないもの。だから「繰り返し」向かっていくんですね。
「何者」が登場
“結局僕らはさ
何者になるのかな
迷い犬みたいでいた
階段の途中で
大胆不敵に笑ったって
心臓はまだ震えていて
それでもまたあなたに会いたくて
下手くそでも向かえ遠く向こうへ”
≪NANIMONO feat.米津玄師 歌詞 より抜粋≫
「何者になるのかな」のフレーズ。ここでタイトルである「何者」が登場します。「自分が何者になれるのか」という不安をこの一言で表現している、映画タイトルでもあるこの言葉。これを「結局僕らはさ 何者になるのかな」と歌います。
「結局」という表現で諦念のようなものが見え、さらに「なるのかな」という疑問形で不安を表現。「僕らはさ」の「さ」は、この一語を入れることで5文字になり、語呂が良くなる役割を担っています。また、「あのさ」と呼びかけるような効果も発揮。この「さ」があることで聴き手に届きやすくなります。
「大胆不敵に笑ったって」と「心臓はまだ震えていて」。ここでも対比構造が登場します。歌詞の主人公が、友人と将来について笑いながら話している様子が分かります。
笑いながらも心は不安である模様。
「それでもまたあなたに会いたくて」と、ここではじめて「あなた」が登場。この「あなた」は踊り場で話を聞いてくれている友人かもしれないし、憧れの人やお世話になった人かもしれない。聴き手が自由にあてはめることができます。
もどかしさを歌う歌詞
“大根役者でいいとして
台本通り踊れなくて
ただまっすぐ段を登っていけ
わかっちゃいたって待ちぼうけ
みっともないと笑ってくれ
僕に名前をつけてくれ
踊り場の窓に背をむけて
前を見て向かえ遠く向こうへ”
≪NANIMONO feat.米津玄師 歌詞 より抜粋≫
「大根役者でいいとして」ここは、「不確かな言葉」の言い換えですね。へたくそな芝居でもいいとしても、結局台本どおりに行動することもできないもどかしさを歌う歌詞。
まっすぐ階段をのぼっていけばいいと分かっていても、「待ちぼうけ」になるようなことをしでかしてしまいます。こういう「頭では分かっているけれども実際の行動にうつせない」感覚を巧みに歌詞にしています。米津玄師は、こういう「みっともなさ」を曲に反映させるのが上手いんですね。
そしてこの曲の一番の要は、必ずラストで「向かえ遠く向こうへ」で終わること。「向かえ遠く向こうへ」という前向きな歌詞で、曲全体の雰囲気が前向きになるのです。中田ヤスタカの明るいサウンドが、この「向かえ遠く向こうへ」の肯定感を強調します。
世には様々なコラボがありますが、この曲は米津玄師と中田ヤスタカのそれぞれの持ち味が出た曲だと言えるでしょう。
『NANIMONO』は、就活中の学生の心情だけにとどまりません。全ての人の人生における「自分は何者になれるのか」という不安と希望を歌っているのです。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)