唯一無二の感性で成功した岡崎体育
京都出身の27歳のミュージシャン岡崎体育。彼は「BASIN TECHNO(盆地テクノ)」という独自のジャンルを打ち立て、一気に音楽シーンを駆け上がった。
「盆地」というのは育った京都盆地と活動拠点の奈良盆地からとったそう。その容姿は決してイケメンとは言い難いものだが、思わず笑ってしまう楽曲から唸るほどかっこいい楽曲まで自らで制作するスーパークリエイターなのだ。
彼の楽曲の特徴はサビのキャッチーさにも表れている。クオリティも抜群に高く、頭にずっと残るメロディを作る。
その非常に高い制作能力の裏側にいるのは、世間を斜めに見る自分だそうだ。何かを揶揄していると感じられる楽曲が多い彼は、“ブラックジョーク”と“あるある”が面白いものの定義だとも言う。
今回はそんな楽曲群の中ではめずらしく(?)、ほっこりとした感動を呼ぶ『家族構成』という楽曲をご紹介したい。
家族構成
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父 母 兄 俺
父 母 俺 妹
俺 嫁 息子 娘
父 母 俺 嫁
父 母 俺 誰?
父 母 あれ 誰?
ぬぎ ぬぎ ぬぎ ぬぎ
父 母 俺 嫁
≪家族構成 歌詞より抜粋≫
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家族の名称をただひたすら呼ぶという冒頭から衝撃的な歌詞が続く。その途中から、家族の誰もが知らない謎の人物が乱入する。「父 母 俺 誰?」の後に「父 母 あれ 誰?」と韻を踏みながら見事に歌詞の意味を通している。
ここでの「ぬぎぬぎぬぎぬぎ」というのは、その謎の人物が覆面をぬぐ時の音のようだ。MVを見れば、この「ぬぎぬぎ」のイメージが具体的に沸くようになっている。
聞いているだけで踊りたくなるような、一昔前を彷彿させるテクノに私たちの聴覚は存分に満足する。これに加えて、MVまで見てしまうと、視覚まで犯され彼の世界から抜けられなくなる。
ちなみに覆面を脱いだ、その正体は嫁である。
家族のストーリーを感じさせる
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ダーリン ハニー ダディー マミー サン ドーター ベイビー
同じ屋根の下
ダーリン ハニー ダディー マミー サン ドーター ベイビー
同じ笑い方
洗濯物がどうのこうのって小さな喧嘩も 家族がいなけりゃできない会話
家族愛 ぬくもりの家
≪家族構成 歌詞より抜粋≫
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サビでは家族の名称を英語で連呼している。英語にすることによって、流れるようなメロディーの良さをさらに引き出している。彼はそれぞれの言葉の持つ発音にも配慮しているのだ。
「小さな喧嘩も家族がいなけりゃできない会話」と岡崎体育は歌う。言われてみれば当たり前の話であるが、ここで家族の存在のありがたみを再確認させてくれる。
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母 俺 新しい父さん
お前 なんか 父さんじゃない
ひろしくん サッカー応援してるよ
「ありがとう、お父…さん…!」
≪家族構成 歌詞より抜粋≫
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ドラマのセリフをそのまま歌詞にしたようなこの部分。この場面から想像できるように、複雑な構成を持つ家族だって存在するのだ。
ここでは、よりシンプルにその家族のストーリーを頭に思い浮かべさせてくれる。ここだけで一つのストーリーが完結しているようで、彼の展開力にリスナーは驚かされる。
彼にしか表現できないユーモア
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俺 嫁
オレ タチ ニンゲン クウ
兄 兄 兄 俺
父 俺 許嫁 義理の父 義理の姉 義理の姉
≪家族構成 歌詞より抜粋≫
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岡崎体育はここで家族構成の幅を一気に広げた。
義理の姉を2連続で兄を3連続で呼ぶ。これは彼の一つのおふざけで、この部分で笑ってもらおうという意志が感じられる。「義理の姉」を2連続するあたりに彼の秀逸なセンスが垣間見える。
意味としての「義理の姉」ではなく、音として「義理の姉」と読んだ時、少し哀愁と可笑しみを感じる。その少しの可笑しさを彼は逃さない。2回繰り返すことによって、この可笑しみを一つの笑いへと変換しているのだ。
細かいところではあるが、ここに世間を斜めに見ている彼ゆえのセンスが感じられる。
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進学や就職で子供を他府県にやる両親の気持ち
年老いた両親を 田舎に残して都会で一生懸命頑張ってる子供の気持ち
家族だから信頼はしてるけど本当は心配で心配でたまらない
たまには顔見せるし 電話もちょくちょくかける
生活水準に左右されないたった一つの宝物 それが家族の絆
まぁ生活水準高いにこしたことないけど
≪家族構成 歌詞より抜粋≫
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遠く離れた母親と子供の心を歌詞にしたこの部分。ここのキーワードとなる言葉は、間違いなく「生活水準」だ。わかりやすい言葉で書かれているこの部分に「生活水準」という言葉は浮いて見える。
彼はあえてそういった“浮いた言葉”を持ってきている。その言葉をしっかりと笑いにするために、先ほどの「義理の姉」のように2回持ってきているのだ。
繰り返すことによって「ここは笑いどころだ」とリスナーに伝えている。彼は、その言葉選びやリスナーに伝えるための手法が突出して優れている。
ユーモアのある歌にするため、意味のない言葉を並べているようにも捉えられる岡崎体育。しかし、その絶妙な言葉選びや配置は決して簡単に真似できるものではない。
中毒性のある音楽を作り、言葉をも見事に操る彼はやはりスーパークリエイターなのだ。
TEXT 笹谷創