アイドルとアーティストの境界線…?
東京女子流はアイドル界隈ではずっと人気のグループです。武道館公演も実現し、アイドルイベントではトリをつとめることも多かった東京女子流。その女子流は今年1月5日に「アーティスト宣言」をしました。
【インタビュー】ワールドワイドな活動を展開する「東京女子流」 再び日本武道館でのワンマンライブを目指して…
一部の楽曲を封印し、アイドルフェスにも出ないという決断をしたのです。これはかなり思い切った決意。ファンや関係者から賛否両論が巻きおこっています。
アイドルの一歩先を目指す
アイドルは握手会をひらいて売上を積むのが当然とされている昨今。その事前販売としての握手会で売上を積むという方法をもやめるというのです。
CD売上が落ちることも念頭に入れているのでしょう。そうまでしても一歩先に行くという決意の「アーティスト宣言」なのです。
しかし、そもそも女子流は活動初期から「アーティスト」であるという紹介をされていました。楽曲も本格的で、そこを評価されていた面もあります。『鼓動の秘密』がその一例。
この曲はブラックミュージック要素もあり、女子流の楽曲の一つの方向性を示しました。歌詞は片思いの心情、心の鼓動を歌っています。今振り返ると、この曲もアイドル的なアプローチとアーティスト的な見せ方の間で迷っている内容のようにも見えます。
おんなじキモチ
----------------花咲く季節 一緒に行こう ちいさな奇跡 おんなじ キモチ
≪おんなじキモチ 歌詞より抜粋≫
----------------
たとえばサビの「ホントの ワタシ見つけて」の歌詞は、封印曲の『おんなじキモチ』とは対照的です。『おんなじキモチ』こんなふうに歌っています。
これって、「ファンと一緒の気持ちを共有しよう」という曲ですね。
鼓動の秘密
----------------
胸の奥で叫んでも
聞こえない 届かない
早く気づいてよ
壊れそうだよ
ホントの ワタシ見つけて
≪鼓動の秘密 歌詞より抜粋≫
----------------
対する『鼓動の秘密』は、「ホントのワタシ」に「気づいて」欲しいという歌詞。これは「アイドルではなくアーティストとしての自分を見てほしい」ともとれるのです。
----------------
鼓動の速さで
キミへと近づく
呼吸の深さで
キミを感じたい
キミだけに
そう、伝えたい
≪鼓動の秘密 歌詞より抜粋≫
----------------
ここで歌われる「キミ」が「アーティストとして大成している自分」「自らの理想とするアーティスト」ひいては「自らの理想とするアーティスト像を理解してくれる真のファン」ともとれるのです。
作詞家や歌う本人達がどれほど意識しているかは分かりません。しかし「アーティスト宣言」がこの曲にこういった意味を加えたのです。
新たな先へ進もうと頑張る彼女たち
いつかは終わるアイドルブーム。仮にアイドル文化が続くとしても、人は必ず歳をとり、いつまでもアイドルとして振る舞うのは本人が辛くなってきます。
日本のアイドル文化は特にここ数年、愛嬌を過剰なまでに重視する傾向があるのは周知のとおり。握手で良い対応をできることが当たり前となり、純粋で可愛らしいことを第一とするカルチャーなのです。ここにゆがみがあります。
アイドルとアーティストの間での心の揺れ動きというのはそれこそ「秘密」にしたい「鼓動」なのではないでしょうか。
既存のファンが離れる可能性をふまえた上で「アーティスト宣言」をし、新たな先へ進もうと試みる東京女子流。そんな女子流が歌うからこそ、生える曲なのです。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)