ピコ太郎の『PPAP』が大変なヒットになっています。わずか1分の曲がジャスティン・ビーバーのツイートのおかげもあり、世界中に拡散されました。3週連続でYouTube再生数世界1位という日本人初の偉業まで達成。この曲は何が優れているのでしょうか?
まず動画冒頭で「ピコ太郎~ピコ♪」の音が入り、これが自己紹介およびその後にくるPの音の伏線になっています。そして可愛い紹介音に続いて登場するのは、黄色に身を包んだピコ太郎。この見た目のインパクトが、まず強いんですね。
ピコ太郎が「PPAP」とタイトルをつぶやき、曲が開始。ここが曲の最初のポイント。聴き手は、「PPAPとは何だろう?」と思い、「PPAPを待つ状態」になります。この「PPAP」というつぶやきは、その後にくるオチへの伏線となっているんですね。
最初にくるのは「I have a pen」のフレーズ。日本で最初の英語教育で学ぶイメージが強い「I have a pen」をもってきています。日本人にとっては、このフレーズはちょっとした「英語の例文あるある」。この曲は、「あるあるを面白く発展させていく」という要素を持っていることが分かります。
続いて登場する「I have a apple」。なぜ「an apple」でなく文法的には間違いの「a apple」なのでしょうか。これにも明確な理由があることを、ピコ太郎本人が言及しています。もともとこの曲は、日本人が聴くことを想定して作られている歌。本場の発音「an apple」はカタカナ表記なら「アナポー」という感じになり、日本人にとっては聞き取りにくい音になります。このため日本人にとってなじみのある「アポー」という響きを強調するために「a」を選んでいるんですね。
「Ah」の掛け声と共に「アポーペン」が生まれます。この「Ah」もポイント。カタカナで表記すると「あー」「おー」「うー」のように表現できるこの音が、「新しいものを生み出す掛け声」になっているのです。世界中の人が発表しているPPAPのパロディ動画でも、この音を「オォ」「ウーン」と色っぽく発音したり、「ヤ!」「グー!」と勢いよく発音したりして変化をつけています。ここが「面白い響きの音」のポイントの一つであり、「新しい何かが生まれる合図」なんですね。
この曲は、身近にあるものを組み合わせて新しい何かを作る歌。そのルールが最初の「Ah apple pen」で示されるのです。
日本語では一般的にアップルとパイナップルという表記なので気づきにくいのですが、続く「pineapple」は、英語で書けば「apple」を繰り返していることが分かります。アポーをパイナポーに発展させている。のちにくるあのフレーズに向けて、「言葉の長さ」を徐々に長くすることで盛り上げているんですね。もともと「apple」という単語は、リンゴだけでなく様々な果実を指す言葉として使われていたと言います。「pineapple」の「pine」とは、「松」のこと。「松ぼっくりに似た形の果実」という意味で「pineapple」なんですね。この曲は、言葉の起源にまで気付ける歌なのです。
そして最終的に登場する「pen pineapple apple pen」。サビともいえるこのフレーズは、通常の発想なら「アポーペンパイナポーペン」になるはず。しかし、そこを語呂がいい「ペンパイナッポーアッポーペン」にしている。ここに意外性がある。聴く者が、このちょっとした意外性のあるストーリー展開を楽しんでいるんですね。
破裂音が並ぶ音の響きで憶えやすく、さらに「ぺンパイナッポー アッポーペン」で七五調になっている。「ぺ」「パ」「ポ」「ポ」「ぺ」と、この短いフレーズの中に5つも破裂音が入っている。ありふれたこれらの単語を、この順で発音すると「語呂がよくて響きが面白い」ということに世界が気付かされたのです。
では、なぜピコ太郎はこの言葉の響きの面白さに、いち早く気付いたのでしょうか?それは、プロデューサーである古坂大魔王が、ずっとお笑いと音楽の融合を追求してきたからです。この曲は、古坂が15年以上前に作ったネタ『テクノ体操』がもとになっています。この『テクノ体操』は、『爆笑!オンエアバトル』という当時人気のお笑い番組で披露されたものの、ほとんどウケませんでした。しかし、古坂はその後もお笑いと音楽の融合を研究し、効果音漫談やあてぶりコントといったネタを作り、自らバンドを組んで沢山の曲を作ってきたのです。『PPAP』は、その集大成であるともいえるんですね。
この曲は、一見適当に作った曲のように見えます。しかし、短い時間の中に「意外なストーリー展開」「面白い音の響き」、そして「身近なものを組み合わせて新しいものを生み出す発想」が凝縮されている曲。だから、世界中の人々の想像力を刺激したんですね。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)