その上質なサウンドを聞くと様々な情景が浮かぶ。
日常のなんでもない一場面さえも美しい思い出として蘇らせてくれる。
そんなエモーショナルな音楽を届けてくれるのはcero
だ。
ceroという四文字はそれぞれ「contemporary(現代的)」「exotica(性愛、官能)」「rock(ロック)」「orchestra(オーケストラ)」という意味を持つ。
この四つの要素を見事に調和させ、エキゾチックな情感を表現している。RockにHip Hop、Funk、どのジャンルにも当てはまりそうな絶妙なバランスを保っている。
そんな彼らの楽曲から、フジテレビの『SMAP×SMAP』でも演奏されたSummer Soulを紹介したい。
“Baby,あの子を置いて1人きり ハンドル握って出かければ
大学通りでは夏の日差しと学生たちの笑い声
どっかのタイミングで地図を開こうか
けど、すぐに信号は青に変わった夕方からは雨の予報”
愛しているなど自分の気持ちをストレートに歌詞にするミュージシャンはたくさんいる。彼らはそうではなく、状況を俯瞰し描写しているのである。
情景が浮かんでくる要因は何もサウンド面だけではないのだ。
「夏の日差しと学生たちの笑い声」それはまるで小説に出てくる一文のようだ。客観的な目線から見た歌詞によって、ceroは情景を作っているのである。
“たしか、そう、テーブルの上には飲みかけの水が出したまま
ラジオのチューニングはノイズが混じってく
現実とのつながりが 時には切れそうなこともあるけど
音楽が終わる頃には 地図は書き換えられるだろう”
ラジオを頭の中と考えると、ノイズは邪念と置き換えられる。
「頭に浮かぶ余計な考えが空想を導き、目の前にある現実を認識できない」そんな思考に囚われそうになる状況を見事にラジオを使って表現している。
“以前と考え方が違う”生きていれば誰だってそういうことはある。それは人間の自然な働きではないだろうか。最後の「地図は書き換えられるだろう」という部分は、そんな人間の心の動きを見事に捉えているのだ。
一見すると繋がってなさそうな歌詞の並びに見えるが、「ラジオ・地図」などを使い心の働き(邪念が浮かぶ、考え方が変わる)を想像させる作りになっているのだ。
“彷徨ってるつもりでコーナーを曲がり切った時に雨雲が
山の向こうに見えたけど降り出したのは天気雨
傘を指さずに濡れたまま歩く人たち
やがてすぐ雨はどこかへ 消えて見たことない夕暮れに”
降雨の絶妙な描写がノスタルジックな世界へと連れて行ってくれる。この天気雨というのは心の状態を象徴しているはずだ。
ドライブをしながら進んでいくと「雨はどこかへ、消えて見たことない夕暮れに」変わる。そこには「雨が降ればいつかは止む、悪いことがずっと続くわけではない」というメッセージを感じる。
ceroはメッセージを直接的に表現することは少ない。
鋭い観察眼で世相を捉え、客観的な描写で歌詞を作っている。
情緒的な風景が浮かんでくるのはそのためだ。
TEXT:笹谷創( http://sasaworks1990.hatenablog.com/ )