ピコ太郎が、2016年12月にアルバム『PPAP』を発売しました。8月にYouTubeに投稿した動画『PPAP』が人気となり、瞬く間に世界中で知られるようになったピコ太郎の待望のファーストアルバムです。
なぜペンパイナッポーアッポーペンと言っているだけの動画がこれほど人気になっているのか?そんな疑問を持つ人もいるでしょう。その疑問に答えるのが、このアルバムに収録されている『PPAP』のアンサーソング、『カナブンブーンデモエビインビン』です。
まず、タイトルから「言葉の響きの面白さ」を追求している姿勢が分かります。『PPAP』がパ行の音を多用していたように、『カナブンブーンデモエビインビン』はバビブベボを多用しています。この語呂の良さ、リズムの良さがピコ太郎の面白さの1つ。たとえばラストのフレーズ「カナブンインビン…アゲイン!」も「ぶん」「いん」「びん」「いん」という音の重ね方が心地いいですね。
ピコ太郎のプロデューサーである古坂大魔王は、長年お笑いと音楽の融合を追及してきました。15年以上前から音ネタをやっていたのです。『PPAP』のトラックが、もともとは『爆笑!オンエアバトル』で披露していたネタ『テクノ体操』のものを使っていることは有名ですね。『テクノ体操』もテクノの音に合わせて変な体操をやるネタでした。
つくば市で毎年夏に開催されている夏祭り「まつりつくば」では、古坂大魔王が作ったお祭曲が使われています。サンバとねぶた祭りを融合させたこの曲のタイトルが『サンバ・ジャネイヨ・ネブタ・ダヨ』。「じゃねえ」という否定と、サンバの本場「リオデジャネイロ」をかけているんですね。こういうところに言葉の響きの面白さを追求する姿勢が現れているのです。
パントマイムで歌詞を表現している点も重要です。このパントマイムも、ピコ太郎の笑いのポイントの1つ。カナブンを捕まえて瓶に入れる。エビを捕まえて瓶に入れる。カナブンが飛んでいく。この一連の動きをパントマイムで見せています。ペンやアップル、カナブンやエビを持っているように手を作る。小道具を使わずに体の動きのみで笑いを作っているんですね。だから観ている人が色々と想像を膨らませやすく、パロディをやりやすくなるのです。
そして何よりも重要なのは、この曲のストーリー性です。『カナブン』は『PPAP』よりもストーリー展開、オチが分かりやすくなっています。カナブンはブーンと飛んでいったが、エビはビンの中に捕まえたままにできた!そして最後は再びカナブンをとらえる!このなにげないストーリー展開を1分の中に凝縮している曲です。『カナブンブーンデモエビインビン』という、一見どう発音するのかもよく分からないタイトル。この謎のフレーズがオチの予告となっており、オチで意味が分かるという構成。ある意味、謎が解明されたミステリーのような展開になっているんですね。
『PPAP』も、ペンとアッポーとパイナッポーで、ペンパイナッポーアッポーペンという新たなものを生み出す歌。「なぜアッポーパイナッポーペンではなく、ペンパイナッポーアッポーペンなんだ?そもそもペンパイナッポーアッポーペンってなんだ?」というツッコミどころこそが面白さのポイント。しかし、意味不明であると片付けられることが多いのも事実です。『カナブン』は、この『PPAP』よりもストーリーの流れやオチを分かりやすくしているんですね。アンサーソングなだけあります。
古坂大魔王は、様々なチャンスをつかんでいたものの、飛んで行ったカナブンのようにそれをとらえ損ねていました。しかし、いきの良いエビのような元気さ、お笑いや音楽に対する情熱をずっと心の瓶に入れて持ち続けていたのです。だから再び、特大のカナブンを捕まえることができたんですね。
そう考えると、このバカバカしいアンサーソングもより魅力的に見えてきます。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)