アーバンギャルドは、男女ツインボーカルの「トラウマテクノポップバンド」。フロントマンである松永天馬が書く独特な歌詞と、シャンソン歌手でもある浜崎洋子の美しい歌声が特徴的です。何回かのメンバーチェンジを経て、2016年11月現在は4人体制。
比較的初期の曲『コマーシャルソング』で、松永天馬の歌詞センスを堪能できます。この曲のMVは、ピチカートファイブの『ベイビィ・ポータブル・ロック』のMVのパロディ。この『ベイビィ・ポータブル・ロック』は、車のCMソングでした。いわゆる本当の「コマーシャルソング」です。アーバンの『コマーシャルソング』は、資本主義社会におけるコマーシャルソングへの憧れとパロディが混ざった曲。
“パパが言うの
「右の頬にキスされたら左の頬を殴りつけなさい」”
「右の頬にキスされたら左の頬を殴りなさい」例えばこの歌詞は、新約聖書の「右の頬を殴られたら左の頬を差し出しなさい」のパロディになっています。子供にとって、親の言葉というのは、重いもの。往々にして父親が娘の恋愛に対して反対的であることを表現しているんですね。のちに出てくる「ママ」が言うことも「男はいつも女の敵」。大人から子供に対しての男女関係のアドバイスが、ネガティブになりがちなことを比喩しています。
“男の子女の子 からだを売りはらって
「男性・女性」になるの
でも恋なのね これはこれで”
そして、そんな大人に育てられた男の子・女の子たちは、「からだを売りはらって」「男性・女性」になります。「からだを売る」というと、売春を連想させますが、この曲はその意味だけにとどめません。人が「自分を売り込む」と表現することから分かるとおり、現代は男女ともに必死に自分を売り込む社会。身体を使って働いて稼いで、一緒に消費して、それを「恋」と表現する社会構造を表現しているのです。
“男の子と女の子と資本主義が手を組んで
あるがままに買い占める そう それが恋よ”
「男の子と女の子と資本主義が手を組んで あるがままに買い占める そう それが恋よ」というインパクトある歌詞で曲は終わります。「恋」という概念が資本主義社会で消費されていることをストレートに表現。
コマーシャルソングは、あらゆる商品を買わせるために「恋」を歌ってきました。我々は、この資本主義社会の中で必死に色々なものを買い占めて、それを「恋」と呼んでいるのです。いい服を着て、テーマパークなどでデートして、おいしいものを食べて、プレゼントを贈る。恋愛は、お金がかかるものだと多くの人が思っています。我々は男女ともに、知らず知らずのうちに、このお金がかかる社会構造と手を組んでいたんですね。こういう事実を気付かせてくれる曲です。草食化や非婚化が進んでいるのは、資本主義社会の行き詰まりでもあるんですね。
アーバンギャルドの良いところは、こういった社会構造を風刺し茶化しつつも、暗くならず明るさを保っているところ。批評性があり、毒を持ちつつも、そんな毒をはらんだ音楽そのものを楽しんでいるのです。だからこそ、この曲は明るいオーラをまとっているんですね。
このバンドは、良くも悪くもずっとサブカルアングラ界隈のオーラをまとっているグループ。好き嫌いがはっきりとわかれるバンドで、軸がブレません。こういう曲を作れるのは、アーバンギャルドだけです。より多くの人にこういったバンドが届くと面白いですね。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)