ちゃんと知って、聴いてほしい
Hilcrhyme(ヒルクライム)は「ポップなラップ」をする人として認識されることも多いだろう。しかしながら、軽い音楽と聴かずに距離を取っている人にこそ知ってほしいアーティストなのである。
Hip Hopかそうではないかという論争に何度も巻き込まれたHilcrhymeだが問題はそこではない。ジャンルうんぬんでは説明できない確かなメロディセンスを持っているのだ。
抜群という他ないそのメロディセンスを作ったのは、間違いなく彼の音楽に対する姿勢なのである。大学生の時には、あるDJの部屋にひたすらいたそうで、そのDJが買ってきたレコードを全部聴いていたという。
今回はそんなHilcrhymeが2009年に発売した代表作ともいえる『春夏秋冬』をご紹介したい。着うたとして爆発的にヒットしたこの曲を一度は耳にしたことがあるはずだ。
【動画】Hilcrhymeの『春夏秋冬』のMVをCHECK!!
テーマはずっと一緒に
春夏秋冬
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鮮やかな色 四季おりおりの景色求め二人で It's going going on
車、電車、船もしくは飛行機 計画を練る週末の日曜日
≪春夏秋冬 歌詞より抜粋≫
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春夏秋冬という名のラブソングに込められたのは「ずっと一緒に」というテーマだ。ここの歌詞は、起承転結の“起”に当たる部分だ。
車や電車、船に飛行機と乗り物をなぜ羅列したのか。それはこれからの出発、つまり、“二人の恋のスタート”を想像させるためである。加えて、飛行機と日曜日で韻を踏んで、音の響きや語感でも楽しませてくれているのだ。
自然は装いを変えるが…
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春は花見 満開の桜の下乾杯 頭上広がる桃色は Like a ファンタジー
夏は照りつける陽の下でバーベキュー 夜になればどこかで花火が上がってる
秋は紅葉の山に目が止まる 冬にはそれが雪で白く染まる
全ての季節 お前とずっと居たいよ
春夏秋冬
≪春夏秋冬 歌詞より抜粋≫
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時間が流れれば四季は移り変わる。景色や自然の様相は変われど、二人の愛情はそのままだ。ここでは、変わりゆくもの(四季)と変わらないもの(愛情)を対比させている。
その対比により変化も不変も強調され、心にスッと音楽が入ってくるのだ。素直な情感を素直なままに表した、その素直さこそがこの楽曲の魅力の一つだ。
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今年の春はどこに行こうか?
今年の夏はどこに行こうか?
春の桜も夏の海も あなたと見たい あなたと居たい
今年の秋はどこに行こうか?
今年の冬はどこに行こうか?
秋の紅葉も冬の雪も あなたと見たい あなたと居たい
≪春夏秋冬 歌詞より抜粋≫
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ここはサビの部分に当たる。四季の変化と愛情の不変をしっかりと表した歌詞ももちろんだが、注目してほしいのはやはりメロディである。染み渡る心地よさの中にどこか哀愁すらも漂うサビは、昔の歌謡曲を聴いているようなノスタルジックな気持ちにさせてくれる。
それはなぜか。いつ誰がどこで聴いても素晴らしい普遍的なメロディだからである。「軽そう」というイメージだけでこの曲を判断してはもったいない理由がここにあるのだ。
二人の未来を感じさせる
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たまにゃやっぱり 家でまったり 二人毛布に包まったり
じゃれ合いながら過ごす気の済むまで
飽きたらまた探すのさ 行く宛
さぁ 今日はどこ行こうか? ほら あの丘の向こう側まで続く青空
買ったナビきっかけにどこでも行ったね 色んな所を知ったね
≪春夏秋冬 歌詞より抜粋≫
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「車、電車、船もしくは飛行機 計画を練る週末の日曜日」という冒頭の歌詞に対して「買ったナビきっかけにどこでも行ったね 色んな所を知ったね」と答えており、時の経過を見事に表し展開を作っている。
さらに「さぁ 今日はどこ行こうか?ほらあの丘の向こう側まで続く青空」と四季を乗り越えてきた二人のストーリーは続いていることを示している。
”丘の向こう側まで続く”という表現が、二人の未来をより強く感じさせるものになっている。
「軽々しい」といったイメージを拭い去ってぜひともHilcrhymeを聴いてほしい。類稀なるメロディセンスに驚かされるに違いない。
TEXT 笹谷創( Twitter )