ファンの間では知る人ぞ知る名曲、THE YELLOW MONKEYの「JAM」
私がこの曲の存在を知ったのは、2011年に発売された90年代のヴィジュアル系アーティストの楽曲を、若手ヴィジュアル系アーティストがカバーしたカバーアルバム「CRUSH!2-90's V-Rock best hit cover songs-」がきっかけだった。
当時好きだったバンドが参加しており、それ目当てで購入した音源だったのだが、ラストの16曲目に思いがけず心を奪われた。その曲が「JAM」だった。今はもう解散してしまった、ケミカルピクチャーズというバンドがカバーしていた。カバーでこんなに心打たれる曲なのだから、とすぐに本家THE YELLOW MONKEYが歌うオリジナルを聴いて、ますます心打たれ、感動したのは言うまでもない。
THE YELLOW MONKEYは1988年結成、90年代に数多くのヒット曲を残し、2001年の活動停止後、惜しまれながらも2004年に解散。2016年に再結成し、大晦日の紅白歌合戦にも初出場として出場した。
カバーの「JAM」を聴いた時も、オリジナルの「JAM」を聴いた時も共通して強く思ったことがある。
「クリスマスソングみたい。」
この曲の特徴は何と言ってもメッセージ性の強い歌詞と、曲全体を通して感じる壮大さ。
イントロはパイプオルガンのどこか懐かしいようなメロディーで始まり、孤独を感じさせる歌詞で始まる。
“暗い部屋で一人 テレビはつけたまま
僕は震えている 何か始めようと
外は冷たい雨 街は矛盾の雨
君は眠りの中 何の夢を見てる?”
孤独感、世間の冷たさや世の中の矛盾。それが慌ただしい師走の年の瀬を思わせた。世間はクリスマスを間近に控え浮き足立っている中、人混みの中で一人きりで歩いている時にふっと感じる孤独、恋人や友人と楽しい時間を過ごした後の別れた瞬間に感じる孤独にも似ている。年の瀬に何かやり残したことはないだろうか、と気ばかりが焦り結局何も手につかず、終わっていくような、そんな感覚にも似ている。
“過ちを犯す男の子 涙化粧の女の子
たとえ世界が終わろうとも ニ人の愛は変わらずに
Good Night 数えきれぬ
Good Night 罪を越えて
Good Night 僕らは強く
Good Night 美しく”
まるで聖書に出てくるアダムとイヴのよう。数え切れないどんな罪を犯そうとも、僕らは信念を持って強く美しく生きていく。すごく神聖な歌詞に感じた。
“外国で飛行機が堕ちました ニュースキャスターは嬉しそうに
「乗客に日本人はいませんでした」
「いませんでした」「いませんでした」
僕は何を思えばいいんだろう
僕は何て言えばいいんだろう”
この歌のメインと言ってもいい歌詞。人間の本質がストレートに歌われている。初めて聴いた時は衝撃的だった。生きていればこういう場面に直面することはよくあるだろう。同じ人間に変わりないのに、人間の命の価値は平等なのに。日本人はいなくて、犠牲にならなくて、もちろん良かったけど、でもそれは喜んでいいことなのだろうか。
“こんな夜は 逢いたくて 逢いたくて 逢いたくて
君に逢いたくて 君に逢いたくて
また明日を待ってる”
衝撃的な歌詞の後に、ラヴソングとも取れるような歌詞。苦悩して落ち込んだり、悲しい気持ちで終わるのではなく、“また明日を待ってる”というポジティブな歌詞で終わる。
この曲の歌詞は人間の孤独や本質が聖書的に神聖に描かれている。けれど心にポッと灯がともるような、子守唄のような温かさも持ち合わせている。
実際この曲の作詞をした吉井は、当時忙しさでなかなか会えない子供を思い、この曲を歌ったのではないか、という説もある。
THE YELLOW MONKEYというバンドを私はタイムリーで知っていたが、当時小学生だった為、彼らをTVで見て“ちょっと怖いお兄さん達”というイメージしか持っていなかった。それでも「バラ色の日々」を始め数々のヒット曲は耳馴染みがあるし、今でも時々口ずさむほどだ。ただこの「JAM」という曲はカバーアルバムを聴くまで全く知らなかった。彼らのことをタイムリーで知っていただけに、こんな名曲をそれまで知らなかったなんて、ちょっと、いや、だいぶ悔しい。
この曲を知ってから、私はクリスマスの時期になると山下達郎の「クリスマスイブ」より、ジョン・レノンの「ハッピークリスマス」より、THE YELLOW MONKEYの「JAM」が聴きたくなるのだ。
TEXT:中村友紀
吉井和哉、菊地英昭、廣瀬洋一、菊地英二のラインナップで1989年12月から活動。 グラムロックをルーツに持つ独自のグラマラスなスタイルで人気を博し、1992年5月メジャーデビュー。 ライブの動員、CD売上ともに90年代の日本の音楽シーンを代表するロックバンドとなるも、2001年1月8日東京ド···