平井堅が『楽園』にかける想い
第一線で長らく活躍し続ける平井堅。そのデビューは20年以上前に遡る。
ファーストシングル『Precious Junk』は、フジテレビの人気ドラマ「王様のレストラン」の主題歌にもなり10万枚を売り上げる。
その後、コンスタントにシングルを出し続けるも鳴かず飛ばずの日々が続いたという。そんな平井堅の8枚目のシングルとなる『楽園』にかける思いは相当なものだった。
もし、これで売れなければ契約の打ち切りになってしまっていたのだとか。楽園を売り出すCMに江角マキコさんが出演したこともあり、楽園は見事ヒットし平井堅はブレイクを果たした。
壮大でどこか廃退的なラブソング『楽園』は、平井堅の数々の楽曲の中においてより強い世界観が打ち出されている。
深くて暗い、深海の中に潜ったようなその世界観はどこから出ているのか。今回は、平井堅がブレイクするきっかけともなった『楽園』をご紹介したい。
拡がる世界感
楽園
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満たされた時間の中で
僕らは何が出来るだろう
遥か遠い あの記憶を抜け
僕らはどこへ行くのか
≪楽園 歌詞より抜粋≫
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男と女の間に流れる繊細で複雑な感情、それは伸縮さえも変幻自在で新しい境地へと連れて行ってくれる。
「遥か遠いあの記憶を抜け 僕らはどこへ行くのか」そんな歌詞から恋愛の混沌が感じとられる。
楽園の歌詞は曖昧で個人の解釈に頼る部分が大きい。それゆえに広がりがあり、この曲の世界観が強くなっているのだろう。
深い英語の意味
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Do U know? 泣いてるあの Love song 今始まるすべてが Freak out!
優しさに孤独が
Can't U see? 夜空に Never get down 今僕らを包むよ Last day
壊れ逝く時代に
≪楽園 歌詞より抜粋≫
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口ずさんで見ればわかるが、ここでは英語の響きや発音の心地よさを積極的に取り入れている。
ただ、英語を取り入れたのは響きや発音だけのためではない。意味から見ても、楽園の世界観を作るのに一役買っているのだ。
「Freak out」は使う場面によって意味が変わってくる曖昧な単語だ。共通して言えるのは感情が大きく揺さぶられ、普通の感情や精神状態ではなくなった時に使用されているということ。
まさに楽園の抽象的で曖昧模糊とした世界にぴったりの単語なのだ。
明らかになる楽園の存在
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Let me down あの楽園はもう消えたけど
今もここに朝は来る
U & I最後の日には
君とこんな風に身体を重ねていたい
≪楽園 歌詞より抜粋≫
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タイトルでもある『楽園』という言葉がサビで出てきて、歌詞は抽象から少し具体へと変化する。恋人と別れたことを直接的な言葉を使わず、情緒的に表現している。
恋人の存在を楽園とし、「今もここに朝は来る」という歌詞で止まらない時間の経過を示す。恋人の存在を楽園とするのは少し大げさに思えるのかもしれないが、このサビにたどり着くまでの歌詞を考えてほしい。
抽象的で壮大な世界をここまでの言葉で紡ぎあげることによって、ドラマのワンシーンのようなサビも心の琴線に触れるわけだ。
やはり、時間が解決してくれる。
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Let me fly 誰もがここで迷いながら
今も何か探してる
U & Iいつかまた
めぐり会えたらこの場所で歌おう
≪楽園 歌詞より抜粋≫
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楽園の喪失、つまり恋人と別れた事実をだんだんと受け入れられるようになっている。「めぐり会えたらこの場所で歌おう」という歌詞から別れを前向きに捉えていると理解できる。
それはサビの冒頭が変化している点を見ても明らかだ。失望させるという意味を持つ「Let me down」から、羽ばたかせるという意味合いの「Let me fly」へと変化している。
「恋愛で出来てしまった痛みは時間が和らげてくれる」といったメッセージが込められているのだ。
抽象的で美しい言葉を並べることで、リスナーの解釈の可能性を広げ、スケールの大きい『楽園』の世界を演出している。加えて、哀しみが漂うオケやメロディがその世界観を強固にしているのだ。
一聴しただけで別の世界へと連れて行かれる平井堅の名曲。その曲は私たちにとって、いつまでも廃れることのない『楽園』なのだろう。
TEXT 笹谷創