2016年、多くの人に衝撃を与えたピコ太郎。代表曲『PPAP』は、YouTube再生回数が世界で3週連続週間1位、年間ランキングで2位になるほど大ヒットとなりました。
ピコ太郎は、何がすごかったのでしょうか?2016年末に放送されたテレビ番組『検索ちゃん』で披露されたアルバム曲『今いる場所、それはここ』で、その才能の片鱗を見ることができます。
“右の右の上の右の右の上の
右の右の上は・・・斜め右上”
『今いる場所、それはここ』は、ピコ太郎が最初に作った曲だと言います。「右の右の上の」というフレーズが3回きて、この後に何がくるかと思えば「斜め右上」がきました。当たり前のことを変拍子で歌っています。
“左の左の左の左の左の左の
右の右の右の右の右は・・・
ちょい左”
続いて「左の」を6回繰り返し、「右の」を5回繰り返します。「ちょい左」という変化が起きました。「ちょい」というフレーズで、変化を出し、さらにコミカルさも加えています。
“上の上の上の上の上の上の上の上は・・・
すげー上”
そして「上の」を8回繰り返します。そこで導き出される場所は「すげー上」。ここで「すげー」という単語を使い、空間の広がりを表現しました。数を表現する際に、多い場合に我々は「すごいたくさん」「すげーいっぱい」というように表現します。8回という数の「上の」の繰り返しは絶妙。グループアイドルなども8人ぐらいいると、人は「多く」感じるのです。「すげー」を使うタイミングに必然性があるんですね。
“前の前の前の前の
後ろの後ろの後ろの後ろは・・・
ここ・・・今いる場所、ここ”
「前の前の前の前の」と、さらに空間の前方の広がりを表現。「後ろの後ろの後ろの後ろは」ときて、タイトルである「今いる場所、ここ」が登場します。このフレーズは、歌詞表記の「…」でためた後に「ここ!…今いる場所、ここ!」と「ここ」を強調。さらにその直後に「ウォォー!」と歌いあげます。これで、タイトルの印象を強くしているのです。
当たり前のことだけれども、何か深いことを言っているかのように聴こえる、この曲。ラストは曲調が変わり、激しいダンスミュージックになった!と思った瞬間に唐突に「ありがとうございました」と終わります。この「唐突な曲調の変化」「唐突な終了」という意外性の連続も、ピコ太郎が得意とする技。ピコ太郎は、短い曲の中でいかに印象に残らせるか練っているのです。この曲も1分17秒しかありません。この1分半にも満たない時間で、聴く者を驚かせる構成を作っているんですね。
もともと声を出す行為は、「場所を知らせる手段」でもあります。例えば接客販売業において、声出しには3つの意味があると教えられます。1つは、売場をにぎやかにさせる「活気づくり」の意味。次に、万引きなどの犯罪を抑止するための「防犯」の意味。そして、声を出したスタッフが売場のどこにいるのかを互いに把握するための「位置確認」の意味合いも持ちます。販売店のスタッフは、「いらっしゃいませ!」と元気よく声を出すことで「今いる場所」を離れた場所にいるスタッフに伝えているんですね。声を出す行為は「今いる場所」を知らせる手段であり、そしてその手段すらも音楽になる、ということをピコ太郎は気づいているのです。
2016年の12月に川崎でピコ太郎のアルバムリリースイベントが開催されました。このイベントの中で、ピコ太郎は「ツーツー」と言った瞬間があります。イベント本番が始まる前にスタッフがマイクチェックをする際の「声」を真似してみせたんですね。会場のお客さんは、ほとんどの人が意味が分からず、きょとんとしていました。
正直、ウケていませんでしたし、翌日このイベントの模様を取り上げた多くのメディアでも、この「マイクチェックモノマネ」は、ほとんど触れられていません。しかし、この「一見なんてことはないスタッフのマイクチェックの声すら面白いと思う視点」こそが、ピコ太郎の真骨頂なのです。ピコ太郎は、もしかすると今後『マイクチェック』という曲を作ってしまうかもしれません。
たとえば、ミュージシャンが「今いる場所」というようなフレーズを使う場合、多くは「今いる場所よりもっと遠くへ」のような心情を歌う歌詞になりがち。ピコ太郎は、あえて「前の前の後ろの後ろ」が「今いる場所、ここ」という位置情報に面白さを見出します。この「当たり前のこと」「とるに足らない何でもないこと」に面白さ、新しさを発見する「視点」がすごいんですね。
ピコ太郎が今後どうなるのか分かりません。しかし、この「視点」を持ち続けるかぎり、ピコ太郎は活躍するのではないかと思います。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)