フェアリーズは、2017年3月に『Synchronized~シンクロ~』をリリースしました。シンクロの意味は、「タイミングを合わせる」「同時に起こる」。シンクロナイズドスイミングは、まさに音楽に合わせて同時に踊る競技であり、この曲の中でもシンクロナイズドスイミングを彷彿とさせる振付が出てきます。
春の卒業シーズンに向けた別れの曲です。なぜ別れの曲が「シンクロ」なのでしょうか。この曲は、藤田みりあがグループを卒業し、5人体制になってから初のシングルにあたります。言わば、別の道へ進んだ元メンバーにあてた、シンクロさせた曲でもあるんですね。
“I gotta do You gotta do
必ずまた会える 意味ある
別々の歳月 Synchronized”
冒頭から主題である歌詞が登場。「必ずまた会える」「意味ある 別々の歳月」の歌詞は、一般的な再開の約束の意味は勿論、旅立っていったメンバーのことも含んでいます。「I gotta do」は「~しなければならない」意味。別れても意味ある別々の歳月を歩まなければならない、と歌っている強い曲。
“雑踏のソリチュード 木枯らし 向かい風
君がいないだけで 街中がアウェイ
それでも私は 顔上げて前を向く
正念場は すなわちチャンス”
このAメロの歌詞も良いですね。「雑踏のソリチュード」とは、人々がいる雑踏の中で一人でいること。ロンリネスだと寂しい孤独ですが、ソリチュードはソリストという言葉もあるように、一人の状態を前向きにとらえていること。「街中がアウエイ」に感じるほどだけれど、それでも「顔上げて前を向く」。別れをかなり前向きに、「チャンス」ととらえているのです。「顔上げて」というアクションが入っているのも良いですね。フェアリーズは、ダンスを重視しているダンスボーカルグループだからです。
“愛をリフォーメーション
君のため替えた
ステップはもう試さない
夕映えに踊る影”
たとえばこの歌詞。「リフォーメーション」は改心、改善の意味。心を入れ替えて愛のかたちを変える。さらに「フォーメーション」というダンスボーカルグループならではの単語も仕込んでいます。
たとえば「ステップはもう試さない」「踊る影」。このあたりの歌詞も「ステップ」「踊る」と、ダンスに関連した単語を入れています。身体をフルに使うダンスで、これらの歌詞の意味を強めている。かなり激しいダンスをするフェアリーズだからこそ、こういった歌詞に説得力が出るんですね。
“["同調"を律し、凌駕する]
["同調"を律し、凌駕する]”
サビ直前は、リズム感のいい野元の歌割で変化を強調。「同調を律し、凌駕する」というフレーズをわざわざ[ ]でくくり、際立たせています。ダンスをシンクロさせる。さらに揃っているだけではない、それを凌駕する魅力をも見せる。そう宣言している歌詞です。
そして、これは「同調するだけでなく、それを超えていく心」の意味も含みます。日本人は、基本的に「同調すること」を良しとしがちです。しかし、もっと大切なのは同調しつつも、それすらも超える心の強さを持つこと。
“一人きりでは
成り立たない
[恋愛も友情も 孤独、それさえも]”
「一人きりでは成り立たない」と表現するのは、ここでまた[ ]で強調している[恋愛も友情も孤独、それさえも]という歌詞。恋愛や友情が一人だけは成り立たないことはすぐ分かります。しかし「孤独」も、実は一人では成り立たない。孤独を感じることができるのは別れがあるから。前半に出てきた「ソリチュード」がここにかかってきます。別れで感じる孤独感を強く肯定している曲なんですね。
“シンクロさせてく 心と体を
ほとばしるのは涙じゃなく、汗
白黒つけましょう 一緒に見た夢
諦めたら 許しはしないから
シンクロさせてく 過去と未来を
今という瞬間だけ通して
真紅の唇 ギュッと結ぶけど
沈黙は言葉よりも饒舌"
サビです。「ほとばしるのは涙じゃなく、汗」というところが運動量の多いこのグループらしくて良いですね。日本で別れの歌には多くの場合「涙」がつきもの。しかし、この曲は「涙」でなく、身体を動かす「汗」を強調するのです。
「一緒に見た夢」は白黒がつけられる=全く違う別の夢になる。その別の夢、新たな道を「諦めたら 許しはしない」。これは別れる相手にも自分にも言っているんですね。別々の道を歩むからこそ、自分の選んだ道を諦めない。別れても、どこかで心や体がシンクロしている。
そしてシンクロさせるのは心と体だけではない。過去と未来もです。過去に別れた人だけでなく、これからの未来に新たに出会う人も含んでいる。この曲が「別れ」を肯定し、「孤独」という単語を入れるのは、未来を見ているから。「また会える」のは、過去の人だけでなく、新しい人、新しい自分に「また会える」。「シンクロ」できるんですね。
伊藤がインタビューで言っていたように、友達や恋人や家族や数々の知り合いなど、多くの「別れ」に通用する曲です。その別れがリアルなのは、フェアリーズ自体が大きな別れを経験した直後だから。そしてその別れを肯定し、さらに聴き手に前向きな気持ちをもたらすことができるのは、フェアリーズが高いダンススキルと「ほとばしる汗」で歌詞の意味に説得力をもたらすことができるから。
日本は春になると様々な卒業ソング、別れソングが出ます。その多くは切ない曲。しかし、この曲のように力強く、前向きな別れの曲もあるのです。フェアリーズは、こういう強い曲を引きよせるんですね。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)