女王蜂は4人編成のバンド。本名、年齢ともに非公表ですが、一度観たら必ず覚えるインパクトを持っています。映画『モテキ』で使われた『デスコ』が有名ですね。2013年に一度活動休止していますが、2014年から活動再開しています。例えば『売春』のようなタイトルだけで暗いイメージがわくような曲も持つこのバンド。実際、重い歌詞の楽曲もあります。だが、それだけではないところが魅力。特に2016年発売のシングル『金星』は、強い肯定感に包まれている曲です。
この曲は、女王蜂VS獄門島一家『金星/死亡遊戯』というスプリットシングルとして発表されました。作詞作曲を担当するアヴちゃんは、自分自身のもう一つのバンドと対バンし、ジャケット上でも戦っています。金星はヴィーナスとも呼ばれる星。実際に女王蜂には『ヴィーナス』という曲もありますね。
“ヴィーナス,貴方は優しく狡く凶い人
ふしだらな唇は今日も嘘をつく強がる必
要はどこにも無いのに貴方は誘う
ヴィーナス お願い 数多の夜を越え
ヴィーナス 待てない気持ちを抱えて”
「心を躍らせる」「踊りませんか?」「dancing」と、おどる・ダンスする歌詞が冒頭からずっと繰り替えされます。この曲は、文字どおりダンスミュージックであり、心躍る曲なんですね。「かなしみ」「よろこび」「さみしい」「かけひき」は全てひらがなで表記。これは、言葉の響きや字面を揃えているのと同時に、悲しみや喜びも寂しさも、様々な駆け引きも人生には平等にありえることを示しています。それらも全てひっくるめて「踊る」。
“子供騙しな誓いも 無いよりはましと思いませんか?
「最後の最後の二人」”
「朝焼けの空にひとつ輝いたあの星」金星を表すフレーズはここに登場。直前で「STOP」という一言を入れて、このフレーズを強調しています。「金星」は、明るい星の象徴であり、ヴィーナスのような美しさの象徴。この金星を見ているのは「きみ」。そして、そんな「きみを見てた」のは自分。「きっと この目を離さない」とまで言いきります。
この曲は、歌詞のみを見ると一見、男が女を口説いているだけのようにも見えます。しかし、それだけではありません。女王蜂にとって、アヴちゃんにとって、「きみ」とは、明るい星を求める自分自身。この曲は、「踊りませんか」と自分自身に言っているのです。だから、ジャケットでも男の姿と女の姿の自分が向き合い、MVでも男の姿の自分と女の姿の自分が向き合っている。
“疑心暗鬼な気持ちじゃ 募るばかりさ尚更
ヴィーナス お願い 恐れを乗り越え
ヴィーナス 待てない気持ちを抱えて”
サビでは「明日に少し期待しようよ」という、明日を肯定する歌詞が登場します。色々経験し、活動休止を経た上で出てきた歌詞なので、肯定感に説得力があるんですね。「期待」とは、まだ音楽ができる自分自身や生きることへの期待感。
「言葉遊びはいいから」の歌詞は、最後に「答え合わせはいいから」になります。人生の「答え」は、簡単に「合わせ」られるものではなく、簡単に見つかるものではありません。我々は、歌詞にも出てくる「dark」=暗闇の中にいます。でも、だからこそ「夢を見ようよ」「明日に少し期待しようよ」「踊りませんか」と聴き手にもよびかけているのです。
金星は、ラテン語ではルシファーと呼び、光をもたらす者の意味であるのと同時に、地獄に堕とされる堕天使の意味も持ちます。『金星』という明るいタイトル、明るい曲調の中にダークな感情も込められているんですね。だからこそ、この曲はより光り輝くのです。
アルバム『Q』に収録された際、この曲は『金星 Feat.DAOKO』としてさらに変化しました。このバンドは、さらなる星を目指してずっと進んでいるんですね。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)