そんな桑田佳祐は30年前からソロ活動を行なっている。当人が「バンドは家庭、家族でソロ活動は愛人のようなもの」と例えるように、ソロの楽曲は桑田佳祐そのものの心情や欲望が色濃く描かれているものが多い。曲によって様々な姿を見せる桑田佳祐だが、2007年にリリースされた「ダーリン」では「粋」な男の姿が描かれている。当時50歳の桑田佳祐が歌う粋な男の姿とはどういったものかを考察してみる。
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真冬の桟橋で 二人は黄昏る
悪いのは俺だよ 惚れてたはずなのに
「俺が悪かった」ではなく「悪いのは俺だよ」というフレーズから考えられるのは、実は非があるのは相手側なのではないかという事だ。この恋人達は今にも別れようとしている。そしてその別れを切り出したのは彼女の方なのだ。しかしそこで「惚れてたはずなのに」自分がもっと優しくしてやれなかった事を悔やんでいる。この言葉は精一杯の彼女への優しさであり、「強がり」なのだ。本当は別れたくないであろう気持ちをひた隠し、最後くらいカッコよくいたいという粋な姿が垣間見えるフレーズだ。
俺よりもいい男がいるならそれでいいのさ
泣いたのは幸せなお前が見れたから
ここから、別れの理由は彼女に他に好きな人が出来たからだとわかる。それを受けてより一層前述の「悪いのは俺だよ」というフレーズに男気を感じられる。そしてこの歌詞を見ると、なんて懐の深い男だと思うかもしれない。しかし、「俺よりもいい男がいるならそれでいい」といいながらこの男は「泣いた」のだ。強がっているだけで本音は悲しさと寂しさであふれている。しかしその涙の理由は隠し、「幸せなお前が見れたから」と言い張っているのだ。漏れ出してしまいそうなダメな自分を必死に取り繕う男の姿が目に浮かぶ。本当は振られて情けない男が好きな女の前で見せる「強がり」こそが粋なのだ。
Oh, my little darlin’ 愛の旅路はending
駄目になりそうな今宵 miss you
Gimme some lovin’ 本牧埠頭で泣いてwalking
精一杯強がりを見せて別れた後、一人彼女を思い出しながら一人で泣き歩いている。サビの部分で必死でこらえていた感情を思い切り本音を叫んでいる姿がなんともいじらしい。ただただカッコいい男ではなく、こういったダメな部分を見せる三枚目なところが桑田佳祐の魅力でもある。
端的に言えば、この曲から見える粋な男の姿とは好きな女の前ではカッコをつける、という事だ。事実、桑田佳祐自身も妻の原由子と出会った際には、「この子にはマジで嫌われちゃならん。もしそうなったら俺は生きていく値打ちはないなと。」思ったそうだ。彼自身にも好きな女にだけは嫌われたくない、カッコつけていたいという粋な姿がある。カッコをつけるところはつけるが、羽目を外すときは思い切り外す。そんな桑田佳祐の生き様から生まれた「ダーリン」は粋な男の美学が詰まっている。
TEXT: Mary
桑田佳祐は言わずと知れた日本の大御所ロックバンド、サザンオールスターズのボーカリストだ。類いまれなる音楽的才能、そして年齢を感じさせない力強いパフォーマンスで数多のアーティストに影響を与えてきた。メジャーデビュー40周年を目前に控えているが、勢いは衰えるどころか歳を重ねるごとに魅力は増すばかりだ。
公開日:2017年6月3日