UtaTen特別企画 『コラムで綴るスピッツ愛』
歌詞検索・音楽メディアUtaTenでは、シングル・コレクション・アルバム『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』が7/5にリリースされるのを記念して、コラム特別企画を実施!UtaTenライターによる『コラムで綴るスピッツ愛』を7/3から短期集中連載。UtaTen自慢のコラムニスト・ライターが独自の解釈で、スピッツの曲に纏わるコラムをお届けします。タイトルは「CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-」。その名の通り、メジャーデビュー後にリリースされた全シングル曲が収録されたスピッツ入門編アルバムとなっており、さらに新曲3曲が加えられた全45曲入りというスピッツファンにも必聴の豪華3枚組記念版仕様。
このジャケット写真にも注目されており、ボタンが曲数分あることから、どれがどの曲に当てはまるのか、早くもネットで賑わいをみせている。
このシングルコレクションの中から、 “最近のスピッツぽい”、朝のフジテレビ系情報番組「めざましテレビ」のテーマソングとして書き下ろされた『ヘビーメロウ』について、スピッツの独特な歌詞表現の解説を踏まえて、お話ししたいと思う。
スピッツの魅力と言ったら、草野マサムネが想い描く不思議な歌詞の世界観である。
明るい雰囲気の曲でも、いつもどこかに哀しげな表情とネガティブ思考が在り、中毒性を持っている。これは何を言いたいんだろう?と思ってしまう比喩的な表現や抽象的な言葉を用いる事が多く、聴く人によって頭の中にあるキャンバスに描かれるモノが異なり、それぞれの物語が作られていってしまう、謎多き奥深い歌詞が持ち味である。
また、スピッツの歌詞としてかかせないものが、愛と死という要素。これは自身もインタビューなどで答えており、愛の為に生きる事と死に向かって生きるという人間の運命が、楽曲の中に混在して描かれている事により、スピッツにしかない世界が産まれるのだ。
そういった二面性のある歌詞だからこそ、複数の人の心に響くのだと思う。
ヘビーメロウMV
テーマソングとして書き下ろされた『ヘビーメロウ』は、「朝日が登り、鳥が囀り始める爽やなキラキラとしたメロディと爽やかな歌声が際立つ朝にピッタリの曲」という印象を受けるが、歌詞を覗いてみるとスピッツらしい表情を見せてくる。そもそも“ヘビーでメロウ”ってどういう事?と疑問に感じてしまう。ネットでも様々な憶測が飛び交ってようだが、私は曲の全体像に“太陽”というテーマが込められていると感じ取ってみる。そして、スピッツの曲で多用される「君」というキーワードには“太陽の女神”が当てはまるのではと憶測してみた。テーマソングとなる「めざましテレビ」のイメージキャラクター“めざましくん”も太陽がモチーフとなっており、視聴者に朝から元気とパワーを与えてくれる存在だ。
真相は未だ解明されていないが、そういった観点で『ヘビーメロウ』を紐解いてみようと思う。
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花は咲いたぜ それでもなぜ 凍えそうな胸
ヘビーメロウなリズムに乗って 太陽目指した
嗤ってくれ 時代遅れ 俺も独りさ
やめないで習いに逆らった この日のため
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ここに出てくる、タイトルにもなっている“ヘビーメロウ”。ヘビーというのは、「重い」や「激しい」という意味があり、メロウというのは「やわらかで美しい」という意味がある。
音楽用語では普通に使われる事もあるようだが、この曲の意味合いからだとそれは当てはまらない。どちらかといえば出てくるキーワードは相反するものが羅列している。
まるで太陽の熱が脈を打つかのように、不安定な精神状態の中で心臓の鼓動が変化する様子を“ヘビーメロウ”という言葉に込めているのではないかと思う。
このAメロの歌詞には、新生活が始まる期待と不安が見え隠れする部分だと感じる。男臭さが光るロックな言葉使いのアンバランス感が、何かと葛藤しているようにもみえてくる。
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君になりたい 赤い服 袖ひらめいて
確かな未来 いらないって言える幸せ
信じていいかい? 泣いてもいいかい?
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“君”が指している女性像とは一体何なのか。
「赤い服 袖ひらめいて」という言葉から、“太陽の女神”なのではないかと汲み取る。
朝のイメージを思い浮かべたときに、太陽というざっくりしたキーワードが出てきて、そこから繋がった女性像が太陽の女神なのではないかと思う。“赤い服”とは、色気のある強くハツラツとした女性の象徴で、“袖”というのはスカートが揺れる様子と太陽の周りを反射する光線が思い浮かんだ。どんな事があろうとも身を犠牲にして燃え続ける太陽のように、眩しいくらいに美しい女性への愛情が溢れ出している。
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夜は明けたぜ 鶏も鳴いたぜ 期待裏切る
なんちゃってファンキーなリズムに乗って 生命灯せ
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「夜は明けたぜ 鶏も鳴いたぜ」という部分を切り取ってみると、徐々に空が明るくなっていく様子がみえてくる。良いニュースも悪いニュースも目まぐるしく起きる日々の中で、朝が来る事を決して望んではいなくても、同じ時間軸でやって来てしまう。毎朝、自分を騙しながら重たい身体を起こし、いつものように会社や学校に向かわなければならないのだ。それが、私たちが生きていく術である。
一度、「なんちゃってファンキーなリズムに乗って」仕舞えば、ネガティブになりやすい気持ちをポジティブに変えてくれる魔法がかけられるのだ。
草野マサムネは、『ヘビーメロウ』に対してこういったメッセージを番組に送っている。
「番組をご覧になってる皆さんにとって大切な朝のハッピータイム。
少しでもポジティブな気持ちになってもらえるような弾んだリズムの曲を作ってみました。
ただ歌詞にはスピッツの持ち味でもある、ちょっと卑屈でネガティブな要素もあるかも。
とにかく楽しい1日になりますように!」―スピッツ公式HPより一部抜粋―
爽やかでリズミカルな音楽で迎えてくれる朝の雰囲気にピッタリの曲『ヘビーメロウ』。
ただ、「今日も頑張れ!」と突き放すのではなく、番組を観ている総ての視聴者に寄り添いながら「いってらっしゃい!」と優しく背中を押してくれる、スピッツらしい応援ソングである。
太陽は登り、陽は沈む。というごく当たり前の生活の中で、各々が持つ喜びや悲しみが、鼓動が鳴り続ける限り日々蓄積され、それぞれの人生を歩いていく。彼等が作り出す音楽は、そんなつまらない毎日を、柔らかい光で灯してくれる存在だと言える。不思議とスピッツを聴くと優しい気持ちになれる気がするのは私だけではないと思う。
柔らかな雰囲気の中に隠れている芯の部分には、熱いロックの要素が身を潜めていて、そこに男女共に惹きつける、男らしいかっこ良さがあるのだ。