日本人の心情を的確に表現した歌詞
サカナクションの代表曲『アイデンティティ』はライブでも盛り上がる曲。
この曲はアイデンティティとは何なのか、自分らしさとは何なのかということを問うています。そしてその「アイデンティティがない」という思いを「らららら」と皆で歌うのが特徴。サカナクション流のアンセムです。
サカナクションの曲はボーカル山口一郎が作詞作曲を手がけます。山口が文学を音で表現したいという意図があり、日本語に非常に敏感な歌詞。
この『アイデンティティ』は「隣の人と自分を見比べる」日本人の心情を的確に表現しています。
アイデンティティ
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好きな服はなんですか?好きな本は?好きな食べ物は何?
そう そんな物差しを持ち合わせてる僕は凡人だ
≪アイデンティティ 歌詞より抜粋≫
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というアイデンティティに悩む人ならではの思いを最初から歌います。サビでは「どうしての大合唱。
「アイデンティティがない」とみんなで歌う行為が共感をよんでもいますし、(「アイデンティティがない」とみんなで歌う行為そのものにアイデンティティがないんじゃないの?という)皮肉のようにもなっています。おそらくそれも意図しているのでしょう。
ライブを観ていてふと我にかえる瞬間、それが多分アイデンティティ。
様々な解釈を含んだフレーズ
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風を待った女の子 濡れたシャツは今朝の雨のせいです
そう 過去の出来事 あか抜けてない僕の思い出だ
≪アイデンティティ 歌詞より抜粋≫
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この曲の2番の歌い出しです。ここだけ不思議なフレーズ。ここは様々な解釈が可能です。
「今朝の雨のせい」でシャツが濡れた女の子と僕。雨が通り過ぎる「風」を女の子と僕が雨宿りしながら待っていたある日の風景。
「濡れたシャツ」を「今朝の雨のせい」にした女の子。本当はそうではなく、酷いイジメにあっていて「良い風向きになるのを耐えて待っていた」女の子。そんな女の子を救えなかった僕の悔しい記憶。
風= 「僕からの告白」を待っていた女の子。僕は本当の思いを打ち明けられずに涙でシャツを濡らすが「今朝の雨のせい」にした、苦い思い出。
いずれも、大人になるにつれ忘れてしまう些細な日常の風景、「あか抜けてない僕の思い出」の断片を示しています。
そんな「取りこぼした十代の思い出とかを掘り起こして気づいた これが純粋な自分らしさと気づいた」瞬間を歌にしています。
なんとなくの日常の中に潜む「自分らしさ」
なんとなく忘れていってしまう日々の風景の中に「自分らしさ」があったというわけです。
日々の些細なことを取りこぼさずに自分らしさってやつを忘れないでね、という励ましの歌でもあるのです。だからこそみんなで歌う曲になったのでしょう。
非常に日本人らしい曲なんですね。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)