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never young beach の『あまり行かない喫茶店で』を、あまり行かない喫茶店で聴きたい

never young beach の音楽を聴けば、はるか昔にどこかで聴いたことがあるような懐かしい感覚になるはず。そういう音楽を作るバンドです。ボーカルは今をときめく人気俳優・高橋一生の実の弟である安部勇磨。彼の声が良いんですね。
『あまり行かない喫茶店で』は、このバンドが2015年に発表した曲。まずタイトルが良いですね。「あまり行かない喫茶店」という表現で、様々な情景が思い浮かびます。これが「喫茶店」でなく「カフェ」だったら途端に現代っぽくなるでしょう。





しかし、あえて「喫茶店」にすることで、古くからあるような喫茶店の風景を連想させます。さらにそれが「あまり行かない」場所であることから「日常の風景でなんとなく見るけれどあまり行ったことがない」要素が追加され、懐かしさに新鮮さが加わるのです。歌詞にもあるとおり「何てことない」歌であり、だからこそそれが良いんですね。


"飲めない珈琲 飲み干して僕は
大人になった 気分でいるんだ
お店を出れば 雨が上がって
路面電車が 走り出す"


主人公が喫茶店に慣れてない

歌いだしのフレーズです。「路面電車が 走り出す」日常感。飲めない珈琲を飲み干したというシチュエーションで、この歌詞の主人公が喫茶店に慣れてないことが分かります。「大人になった気分でいる」ことから、真に大人にはなりきれていない人物なのでしょう。だからこそ良い。そんな状況も肯定しているからです。

「雨」はマイナスな要素の象徴。「雨」が上がって「走り出す」ことで、マイナスな要素からプラスの要素へ向かっていくのが聴く者に伝わります。その自然な変化は「飲めない」という否定から「飲み干して」という行動へうつった最初のフレーズにもあります。


"お店を出れば 雨が上がって
商店街が いい匂い"


2番ではこのような歌詞になります。「商店街が いい匂い」これだけで懐かしい感じがするんですね。ここも「雨」というマイナス面から「いい匂い」というプラス面への変化が見えます。


"あなたと二人 街を出ようか
小さな家を買って
部屋にはピンクの ペンキを塗って
庭には犬を 走らせよう"



サビにあたる箇所です。「雨」という青や灰色のような要素を感じさせる歌詞から「ピンクのペンキ」という明るい色のイメージへの変化。部屋の壁がピンクで塗られている状況は、それだけだと賛否が割れそうな気がします。

壁がピンク色なのか?と。しかしこの曲は、ピンクを変に感じさせません。それは、「ピンク」「雨」との対比になっているからです。最後に「庭には犬を 走らせよう」というフレーズを持ってきて、「走り出す」要素を追加します。これによって、明るい未来へ走っていくイメージが強調されるんですね。


"濡れてしまった 自転車に乗れば
今にも切れそうな チェーンが回り
夕暮れ時の 冷たい風が
調子はどう?と 問いかける"



後半ではこのようなフレーズも登場します。「濡れてしまった」「今にも切れそうな」「冷たい風」このあたりも実はマイナス要素です。濡れて今にもチェーンが切れそうな自転車に乗っていて、さらに夕暮れの風が冷たい。こんな状況では気分が暗くなってもおかしくない。でも、この曲は決して暗くならない。そんな日常のマイナス要素ですら肯定しているからです。


明るい未来を思い描く想像力

この曲が良いのは音が懐かしいからだけではありません。「なんてことない」日常を、「あなたと二人」でいる現在を、「小さな家を買う」未来を肯定しているからです。こういった歌詞は、かなり注意深く日常を観察していなければ出てきません。さらに地味な日常を肯定する気持ち、明るい未来を思い描く想像力がないと出てきません。


現代では多くの人が不足していることを嘆きがちです。あれが欲しい、これが足りないと「ない」ものに心を奪われて、「なんてことない」日常を見逃しているのです。never young beachは、そんなありふれた日常の良さを気付かせてくれるバンドなんですね。こういった曲は、それこそあまり行かない喫茶店で聴いてみたいものです。

安部勇磨 (Vocal&Guitar) 阿南智史 (Guitar) 巽啓伍 (Bass) 鈴木健人 (Drums) ネバーヤングビーチ。2014年春に、安部と松島の宅録ユニットとして活動開始。暑さで伸びきったカセットテープから再生されたような奇特なインディ・サイケ・ポップ『HOUSE MUSICS』をダンボール仕様のジャケットで···

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