I Won't Turn Off My Radio
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Look how beat up we are
(なぁ見ろよ オレ達ずいぶんボロボロになったな)
As time took us so far
(かなり遠くまで来たもんな)
We know it's so hard to still be needed today
(いつまでも人に必要とされるのは 難しいよな)
Hit hard by MTV
(MTVに殴られ)
Stabbed by the net we bleed
(インターネットに背中を刺され)
Now you'er an icon of a world of yesterday
(お前はすっかり 時代遅れのアイコン)
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「オレ達」とは、ラジオと自分自身のこと。「かなり遠くまで来たもんな」の部分に親密さがにじんで、冒頭からすでに横山健の”ラジオ愛”が感じられる。
ちょっと意外なのが、「オレ達ずいぶんボロボロになったな」という弱気な言葉だ。はっきり言って、バンドでもソロ名義でも、横山健の支持率は今も実に絶大。「いつまでも人に必要とされるのは難しいよな」「時代遅れのアイコン」そんなこと、微塵も感じさせないのに…。
でも、ラジオが「MTVに殴られ」「インターネットに背中を刺され」て、いつの間にか時代の片隅に追いやられていったように。次々と出てくる若い世代のアーティストに、健さんも‟自分はもう時代遅れなのか”そんな思いが脳裏をよぎったこともあったのかもしれない。
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But I can still hear your voice
(それでもオレにはまだ聞こえてる)
A slight wave is coming through
(お前のかすかな電波)
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けれど古くなったとはいえ、ラジオはまだまだ現役だ。だったら、自分もまだ戦えるはず。そして、彼は決意する。「I Won't Turn Off My Radio」=オレはラジオを切らない、と。
「the radio」や「a radio」じゃない。「my radio」というのもぐっとくる。
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Through the darkest night
(暗闇を突き破って)
Send me somebody's heart
Send me a light
(誰かの想いを 光を オレに届けてくれ)
I won't turn off my radio, oh no
(オレはラジオを切らないよ)
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あなたにもないだろうか。
知らない街で偶然入った、ラーメン屋のカウンターで。深夜に、仕事で疲れきって乗り込んだタクシーの中で。流れているラジオからふと聴こえた懐かしい‟あの曲”に胸を打たれて、ちょっとの間動けなくなってしまったこと。
あるいは、かつて失恋した時に流行っていたあの曲が。部活の試合前に、気持ちを奮い立たせくれたあの曲が。ラジオから予期せず流れてきて、心がその当時に引き戻されてしまうこと。
狙っていない、この‟不意打ち”感がラジオのもつ魔力。突然の出来事には、暗闇を突き破る「光」のようなパワーがある。終わらないように思える夜に、ラジオから流れる曲と声が寄り添ってくれたこと、私にもたくさんあったな。
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Cut through space and time
(時空を切り裂いて)
Make this bored man smile
or make me cry
(この退屈し切った男を 時には笑わせて 時には泣かせてくれ)
I won't turn off my radio
(オレはラジオを切らないよ)
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そして、ラジオから聴こえてくるのは、何も最新のヒット曲ばかりじゃない。昔のロックスターの曲だってたくさん流れてくる。
今はもう‟過去“と認識されている人だとしても、好きだった曲を聴けば‟あの頃”を思い出したり、忘れられない当時の出来事がよみがえったり。自分の中では、その存在が確かに息づいているとわかる。
あるいはその曲を知らない世代でも、‟何だかこの曲が好きだな”から新たな出会いが始まることだってある。時を超えて、音楽は鳴り続けていく。その瞬間に想いは「時空を切り裂いて」くるのだ。
ここでまたいいのが、ラジオから流れてきた曲は‟誰か”が‟別の誰か”に聴かせたかったものだということ。DJの人の選曲とか、はがきやメール、Twitterでのリクエスト。ラジオのよさってまさに、この‟誰かの想いを届ける”ところにあると思う。気持ちが詰まっているから、時に笑ったり泣いたりしてしまう。
それに‟私の知らない誰かも、この曲に思い入れを持ってるんだ”って、共感できるのも嬉しいものだ。
聴いているうちに、何だか愛着がわいてしまうラジオ。だからこそ、横山健も“ラジオは戦友”という思いにまで至ったのかもしれない。
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The home of Wolfman Jack
(ウルフマンジャックの生家)
Buds of The Ramones - and Clash
(ラモーンズとクラッシュの相棒)
Started a revolution and made stars we love
(革命を起こして スターを生んだのさ)
Hey you, listen up
(おいお前、オレの声が聞こえるか?)
Get your act together
(老いぼれたとはいえ、一緒にやるぞ)
I know you're old but you still got a lot to do
(お前には まだまだ仕事は残ってるぞ)
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さらにMVを見てもらうとわかるのだけれど、頭から終わりまで、この曲にはラジオ愛が詰まっている。
MVにも詰まったラジオ愛
まず「Wolfman Jack(ウルフマンジャック)」という人名は、1970~80年代にアメリカで活躍した、伝説のラジオDJ。そして、「Ramones - and Clash(ラモーンズとクラッシュ)」は言わずもがな、アメリカとイギリスのパンク・ロックバンドの草分け的な存在。また、曲間に入る「俺はまだくたばっちゃいないぜ」という”ラジオの声”は、本業のラジオDJ・藤田琢己さんが吹き込んだものなのだそう。
曲の前奏と終わりのアコースティックギター&ノイズも、ラジオのチャンネルを合わせる時のワクワク感を思わせる(今はアプリで聴けるから、勝手にチャンネルが合ってしまうのだけど、昔のダイヤル式のラジオはノイズの中から音源を探す作業があったのです)。
公式サイトでのインタビューによると、横山健も相当なラジオっ子だったのだとか。その想いがふんだんに詰まったこの一曲、なんだか胸が熱くなる。
ラジオと一緒に走り続ける健さんを、私たちはずっと見ていたい。
今は確かに、好きな音楽を手軽に選んで聴ける時代だ。その便利さは私も享受している。
そしてラジオから流れてくる曲は、時には‟自分の好みから全く外れた曲”かもしれないし、‟予想もしてなかった曲”だったりと、融通が利かないことは確か。
でも、それって逆に新しくないだろうか? 自分のまだ知らない道に、意識せず分け入っていくということ。
それに、アーティストがパーソナリティを務める番組では、CDやライブだけではわからない”意外な素顔”みたいなものが垣間見えたりするのも楽しいし(ちなみに横山健のラジオは笑える下ネタが多くて、楽曲のイメージとかけ離れているところもまた魅力的だったりする)。
自分が聴きたいものではない曲を聴く3分ほどの時間を、無駄だととらえるのか。それとも、新しい”何か”との出会いを楽しみにするのか?
それはあなた次第。
ラジオのよさ、もう一度見直してみてはいかがでしょう?
TEXT:佐藤マタリ
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