井上実優のルーツをたどる
──デビュー作に引き続き、幅広いジャンルの楽曲が今回のシングルにも収録されていますが、井上さんの音楽のルーツについて聞かせてください。
井上実優(以下実優):小学校5年生の時に初めて好きになった歌手が福原美穂さんです。それまでは最新のJ-POPなどを聴いていましたが、父が福原美穂さんの楽曲をで勧めてくれたのが、最初のきっかけです。福原美穂さんの声がいいなとすぐに惹かれていき、そのうち私もこんな風に歌いたいなと、アーティストとして憧れのような気持ちを持つようになりました。
──アーティストになりたいという思いは小学5年生の頃からおありだったんですか?
実優:正直、その時はカラオケで歌うのが好き、くらいのレベルでした。そもそも私は人見知りで、人前で歌うどころか喋ることすらままならないような性格だったので、福原美穂さんに対しての憧れは確かにあったけれど、人前で歌いたいというような感情はまだありませんでした。
小学校6年生の時に父が唐津ジュニア音楽祭というイベントに勝手に応募していて、その時に福原美穂さんの曲を歌ったのが人前で歌った初めての経験でした。
──唐津ジュニア音楽祭出身のアーティストさんも最近多いですが、現在東京に出てこられて九州魂みたいなものをご自身で感じることはありますか?
実優:九州出身のアーティストは本当に多いので、何か共通するところはあるかもしれないなと思います。がむしゃらな感じとかもそうなのかもしれないです(笑)。
──上京してから書く歌詞が変わってきたということもアーティストさんによってはあるようですが、井上さんの場合はいかがですか?
実優:私の場合はまず最初に楽曲のストーリーを決めてから、その主人公になりきって歌詞を書く歌詞の書き方をするので、私自身の環境の変化には、あまり左右されてはいないと思います。
──なるほど。井上さんが歌詞を書く上でどの曲にも共通して意識していることや表現したいことってございますか?
実優:楽曲によって世界観が全く違うので、主人公の性別も年齢もバラバラですし、一見共通点はないのかなと思います。
──単語や言葉の選び方で意識していることですとか、自分の特徴みたいなものは?
実優:素のままで歌詞を書くと、どうしても堅い言葉になりやすいです。ポップな曲調には合わないようなフレーズなどを書いてしまいがちなので、その部分はより等身大になるように後から言葉に変えていくことが多いです。
──少し話を戻しますが、ストーリーの主人公になりきって歌詞を書かれるということでしたね。
曲の作り方というか歌詞の書き方としてはご自身の体験というよりはこのように書き始められることが多いんでしょうか?
実優:そうですね。素の井上実優は一旦置いておいて、楽曲がどういう世界観を持っているか、と感じたものの中でストーリーが生まれてきます。自分の経験とはかけ離れた存在のストーリーであることももちろんあるので、気持ちをなるべく主人公に近づけるために、世界観が近いなと思う映画や本を観たりします。背伸びしてでもその主人公の役に当てはまりにいくというか。
──では1曲書くのにかける時間っていうのはかなり長いんじゃないですか?
実優:たしかに時間がかかりますね。簡単にはいかないです。
──曲が先にできていて、後から歌詞をつけることがほとんどという感じなんですね?
実優:そうですね。デモ音源から世界観や、イメージを広げていきます。デモの中には、サビしかできていない時もあります。
──どんな感じの曲がいいっていうようなリクエストはされないんですか?
実優:普段は、サウンドプロデューサーのミワコウダイさんと一緒に制作をしていて、ミワさんの発案で先に楽曲を作ることもありますし、次にどんな楽曲を歌いたいかを私に任せてくれることもあります。
『Shake up』のストーリー
──『Shake up』にはどのようなストーリーをもたせたのでしょうか?
実優:この楽曲は、最初に「Shake up」というサビのフレーズのみのデモ音源が届いたのが始まりです。「Shake up」を直訳すると“振り上げる”ですが、“振り上げる”だけでは歌詞はかけないなと思って、私なりにどう訳そうかなとずっと考えていました。ある時、人を励ます楽曲にしようとテーマを決めてから、歌詞を書いてくうちに、“自分をさらけ出す”“ありのままで弾ける”というような意味に捉えたらいいかもなと思い始めて。そこから、主人公が君ってという存在を励ます楽曲に育っていきました。
──作っていくうちに“自分をさらけ出す”や“ありのままで弾ける”というところが君を励ますっていうテーマと繋がったんですね。
実優:どちらかというと普段の私は励ますより励まされる側なので、この楽曲を歌いながら、実は自分への励ましにもなっているというか、そんな楽曲になったのではないかなと思います。
──なるほど。曲の歌詞について詳しく伺っていきたいんですが、まず「悪魔あざけて潰してく」というフレーズが目にとまりました。
実優:ここに異質感があるのは、作詞をする過程の最初の原型が残っているからです。私の本来の部分が出ているというか。誰にも何も言われなかったら私はずっとこのテンションで歌詞を書いていたかもしれないんです(笑)。歌詞を修正していく中で、ここだけは原型が残った部分です。ただ明るく柔らかい言葉だけでもイマイチメッセージ性がないというか、ありふれた応援ソングになってしまうと思ったので、他が明るくポップな分、緩急をつけて際立たせた部分です。