そこから順調にキャリアを重ねてきた4人。8月23日には4枚目のアルバム「熱唱サマー」が発売される。同時にこの作品はボーカルの佐藤千明が参加する最後のアルバムでもある。
そこで先行シングル「journey」を通じて、彼女たちの現在と未来を読み解いていきたい。
先行シングル「journey」
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間違いだらけの答えになれ
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“旅”と題される曲で出だしから壮大なスケールで歌われる言葉。「答え」を探すのが旅なら「間違いだらけ」とは何を意味するのだろうか?“正解を探すことが旅”という模範解答をさりげなく否定して歌がはじまる。
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どいつもこいつも青春のjourney
掴んだつもりのふわふわのglory
賢くなるなよ
間違いのない答えはない
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佐藤、藤本ひかり(B)、歌川菜穂(Dr)が組んでいたバンドに1学年上の津野が加入してスタートした赤い公園。高校卒業後は主に立川のライブハウス「BABEL」を拠点にライブを重ね、2012年にメジャーデビュー。赤い公園というバンドの軌跡は、彼女たちの「青春のjouney」そのものである。
2014年作の「猛烈リトミック」。全方位に拡散する津野のすさまじいソングライティングとこぶしが効いたハイトーンの絶唱からアニメ声まで自在に歌いこなす佐藤の歌唱力。それにこたえる藤本と歌川のリズム隊はアルバムごとに急成長を遂げてきた。
日本レコード大賞優秀アルバム賞など彼女たちが掴んだ「glory」はその才能を証明するものだった。
「賢くなるなよ」という歌詞は、そんな自分たちに自戒の念を込めているように読める。そもそも「間違いのない答えはない」。だから、余計な知恵がついて間違えなくなってしまうことを危惧しているのだ。
「青春のjourney」と「間違い」が切っても切り離せないこと。それは、「道草」という言葉にも表れている。1番で「道草ばっかしてた」と歌った後に続く「押入れの宝箱」は、一見無意味な「道草」が宝探しであったことを示唆している。
赤い公園を2枚看板として支えた佐藤の脱退。公式コメントでは「自分の手に負えないほどのズレが、生じ」たことで「赤い公園のボーカルという使命に、限界を感じ」、赤い公園という「一つの旅の幕を、降ろす」と述べている。
何かをともに生み出すという作業は信頼関係なしではできない。互いを知り尽くした上でそれでもどうにもならないこと。多分に感覚的なそれを、一言「ズレ」とだけ言い表しているのだ。
「journey」は、そんな佐藤に対する残されたメンバーからの惜別ソングでもある。
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勝手にやめるな青春のjourney
死ぬまでヤングでいようぜbrother
お前の残した足跡が答えになる
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バンドはやめても「青春のjourney」はやめるな。
「死ぬまでヤングで」と歌う対極は、「ただ今日が終わるのを待って」、「明日の風」に「怯えてる」姿や、「錆びた鎖でがんじがらめ」になって「誰かのせいだと泣く奴」だ。
「あれこれ背負」ったり、「何でもないようなふりして」自分の気持ちを隠す「大人」になるくらいなら、「間違いだらけ」でも旅を続けること。
つまり「青春のjourney」とは、自問自答を繰り返し、笑い悩み傷つきながら自分にとっての宝物を探し続けることなのである。
その道のりは人それぞれ違うし、そこに決まりきった答えはない。あえて言うなら「お前の残した足跡が答え」なのだ。
彼女たちのjourney
――――間違いだらけのお前のまま
答えになれ
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答え=正解ではないし、必ずしも正解の対義語が間違いでもない。
「お前」が存在することが答えだという歌詞は、佐藤と残された3人のエール交換を目の前で見ているようで胸が熱くなる。
「賢くなるなよ」という一言に、MCやインタビューで絶妙なボケをかましながらバンドを引っ張り続けた佐藤への愛があふれている。
PVでは目覚めて歌う佐藤と、ビルの屋上や学校のプール、車の中など旅の途上で眠ったままの3人の姿が対照的である。
旅をやめるという決断、続けるという選択、そのどちらも正解だ。
正直、佐藤がいないダメージは図り知れないが、この3人ならきっとこっちが「あっ」と驚くような、予想の斜め上を行く音を聴かせてくれるに違いない。
赤い公園と元・赤い公園、これから先も彼女たちのjourneyは続いていく。