リリィ、さよなら。「春色の彼女」
「肌寒い 3月の川べりに
僕ら腰掛けて
プシュッて缶が開く音がする
とりあえず乾杯しよう
まだ満開じゃない桜に
手を伸ばしながらさ
君が匂いを嗅いだりしてはしゃぐから
僕は笑って泣く」
春のような穏やかなサウンドにのせて情景をそのまま運んでくる、ヒロキの優しい歌声ではじまる。女友達と川辺で軽く一杯の飲みながら話しているのであろう。春の気配はすぐそこまで来ているが、まだ川辺は少し肌寒く、桜もまだ満開ではない。そんな桜でも喜んではしゃいでいる“君”を愛おしく思う主人公。
しかし、“友達”という一線を超えることもできず、心の中で泣いている。さわやかでありながらも切なさを感じさせる「リリィ、さよなら」らしい表現だ。
リリィ、さよならにしかない表現
「春の中で君は揺れている遠いおとぎの国に 咲いてる花のように
無邪気にはなす まるで僕の彼女みたいに
いつかは 誰かのものに なるくせに」
「おとぎの国に咲いている花」はとても綺麗で美しいのが、手に入れることはできない。まるで恋人みたいに2人きりで話し、心の距離は近いはずなのに、どこか遠く感じるのだ。こんなにも親しくも“友達”という関係で、主人公の恋心を知らずに無邪気に笑っている。最後の「いつかは誰かのものになるくせに」という歌詞で胸がえぐられるようだ。
「“君が恋人ならよかったな”
もう酔いが迷ってるんだろう
僕にとって 一番残酷な嘘
君は平気で言うんだね」
友達の口から酔いがまわってでたような“君が恋人ならよかった”という言葉は“僕にとって一番残酷な嘘” だった。そんなことすら平気で言ってしまう相手が少し憎くも感じてしまうのだろうか。このまま2人でずっと一緒にいれたらどれほど幸せだろか。
主人公の苦しみ
「ばかだろう 根性なしなんだ大事なものすら守れない
ばかだね ずっと一緒になんて
子供みたいなこと 思ってた」
友達を好きになってしまっても一歩もふみだすこともできない。ずっと一緒になんていれないという当たり前の事実を頭では分かっていても、受け入れることができない。叶わぬ恋をしてしまっている自分をどこか情けなく思いっているのだろう。主人公の苦しみがストレートに伝わり、胸がしめつけられる。
「遠くに行っちゃう 主役が君を傷つけても
友人Cの僕でいいなら ずっと側にいるのに
ハッピーエンドは遠くても
僕は….
春の中で僕ら揺れている
ずっと交わらない
それぞれの未来を思って
さよなら。いつかまたねって
手を振る時がくるから」
君の好きな人が主役で僕は友人Cぐらい。そんな配役でも君を思い続けているという。この曲の一番の魅力だ。もうこれから先は交わることができない。しかしそれぞれの未来を思うと“友達”のままでいることが一番だ。物語の最初で少し頼りなさそうだった主人公の強い意志が響いてくる。「リリィ、さよなら。」小説のような楽曲のなかには、“少しの成長”が隠されている。「春色の彼女」のストーリーには痛みや苦しみが溢れていてドラマティックな展開はなくとも、どこかあたたかい気持ちになれる。
出会いと別れの季節
「春の中で君は揺れている遠いおとぎの国に咲いてる花のように
すごく綺麗だまるで 僕の恋人みたい
ばかだなぁ そんな君をこれからも好きなこと
喉の奥で とまったまま」
春は“出会いと別れの季節”だとよく言われる。春のように穏やかで無邪気な彼女だが、いつかは誰かのものになって、別れがやってきてしまうのだ。舞い散る桜が美しく見えるように、手に入らない存在だからこそ余計に愛しいのだ。だからこそ“友達”として君の幸せを願い、“これからも好き”という気持ちは伝えられない。
それでも、一年待てば春というのは必ずやってくる季節だ。“さよなら”のあとに“いつかまた”別の場所で巡り合えることを心のどこかで信じていたいのかもしれない。