かつてのサザンオールスターズ
当時はお金がなかったというメンバーたちは、テレビ出演が決まり、放送日の前日、事務所から貰った1万円を握って、原宿に行って衣装さがしに出かけたらしい。だが、5人分。手元にあるのは1万円のみ。買えたのはタンクトップと短パン。ゴールデンのテレビにタンクトップと短パンの6人組(当時はメンバーは6人だった)。かつてそんなミュージシャンがいただろうか。
そして25周年復刻版『渚のシンドバッド』CDでは、特典としてついていたのは「タンクトップ」だった。
この曲の印象は、とにかく早口。何を言っているのか分からない。で、タンクトップ。インパクトありありである。ところがあらためて、今、この曲を聞くと、全然早口じゃない。ちゃんと歌詞も聞き取れる。どうしてあのころは分からなかったのだろう。
昭和の曲はすべてがのんびりしていたのだろう。きちんと分かりやすく歌う、が基本だったのかもしれない。きれいな日本語。きれいな歌詞。それが当たり前だったのだ。
勝手にシンドバッド
道行く小学生は40年前も、現代の小学生も、そして大人も、
♪「いま、何時?」
と聞くと、返ってくる答えは必ず、
♪「そうねだいたいね~♪」
だ。そしてこりずに、また、
♪「いま、何時?」。「ちょっと待っててえ~♪」
コテコテのギャグとして40年も使われるなんて、名曲ではないか。
そして曲の中に出てくる、
♪「いつになれば湘南 恋人に逢えるの
お互いに身を寄せて
行っちまうよな瞳からませて
江ノ島が見えてきた、俺の家も近い」
かつて江ノ島は、お年寄りの参拝場所だった。それがこの曲の登場で、いきなりお洒落なデートスポットにのし上がってしまった。
この曲を境に、若者は誰しもが湘南へ向かって行くのであった。
♪「砂まじりの茅ヶ崎 人も波も消えて」
神奈川県にある小さな町、茅ヶ崎が全国区になった瞬間でもあった。
今でこそ茅ヶ崎は有名で、お洒落なカフェやサーフショップ。お高そうなセレブマンションが海岸近くに建っているが、その頃はとても田舎だったのだ。誰も知らない漁村と言ってもいいくらいだった。
その浜が、いまは『サザンビーチ』と名を変えている。夏の海水浴シーズンには、大音量で日中はずっとサザンの曲がエンドレスで流れている。ひとりのアーティストの曲だけを延々と流す海水浴場は、日本中どこを探しても、きっと茅ヶ崎しかないだろう。
サザンビーチはサザンファンしか来てはいけないのだろうか、という錯覚にまで陥ってしまうほどだ。
衰えをまったく見せないサザン
♪「胸さわぎの腰つき 胸さわぎの腰つき」このフレーズが世間に出たその瞬間から、その後の音楽の歌詞がなんでもありになっていったように思う。
世間の価値観を変えてしまうフレーズでもあったのだ。
すごいなサザン。来年はデビュー40周年だという。メンバーも全員還暦を迎えた。それでも衰えをまったく見せない、すごいアーティファクトである。
1978年6月25日にシングル『勝手にシンドバッド』でデビュー。 1979年『いとしのエリー』の大ヒットをきっかけに、日本を代表するロックグループとして名実ともに評価を受ける。 以降数々の記録と記憶に残る作品を世に送り続け、時代とともに新たなアプローチで常に音楽界をリードする国民的ロ···