そんなシャイな男子の照れ隠しと本音がのぞく「お嫁においで 2015」の世界をのぞいてみたい。
PUNPEE「お嫁においで 2015」
「ドープにスワッグにヒップに彼女を幸せにする」
なんて…この歳で言えたもんじゃないな
しかも宿無し 極楽とんぼのままじゃぁな
廻るのは季節とかレコードだけだと思ってたけど もはやこれまでか・・・
スラックに相談しよう でも多分冷やかされそうだ やめとこう
自身もラッパーでありプロデューサーとして多くの作品を手がけるPUNPEEがHIPHOPマナーで独り身の生活をレペゼン。
巡る季節と回るレコードの対比が人生の年輪に重なる。MCとして大勢の前でラップしている自分にも、いつか1人の男としてけじめをつける時期がやってくる。
板橋のダメ兄貴を自称するPUNPEE、自虐的に見えてちゃんと考えているという巧みな導入だ。
絶妙なタイミングで登場する名曲「お嫁においで」
親父に殴られたことないけど 君の親父に先に殴られそうだ途方に暮れてたその頃 じいちゃんの部屋からこんなの聞こえたよ
もしもこの舟で君の幸せ見つけたら すぐに帰るから僕のお嫁においで
決められない優柔不断。でもそれには理由があって、あれこれ考えてしまうのは大事なことだとわかっているからで。
君が気にしてるのも知っているし、誰かに相談しようと思ってもプライドが邪魔をしたり、急に自信がなくなって、しまいには怒られるんじゃないかとかビビったり。
なんて迷う気持ちをこれでもかと言葉に乗せる。
・・・気づくとレコードに乗って流れる若大将の声。音楽がすごいのは、一瞬で空気を変えてしまうところだ。
50年前のヒット曲がゆったりとした空気を醸し出して、自然とおおらかな気持ちになる。タメにタメてここぞという場面での名曲登場という絶妙な展開にうなる。
裸でぶらついたり 酷い音でゲップをしたり
連れ込み宿も店じまい 自分のタイミングでアレも出来ない
何気ない日々に 小さな幸せを見つけるのが怖いんだ
でも“何も無いちゃらんぽらんな日々”が
このままじゃぁ女房になっちまう!
さりげなくエロネタを仕込んでくるPUNPEE。笑わせておいて「何気ない日々に小さな幸せを見つけるのが怖いんだ」と本音を語る横顔はシリアスそのもの。
やんちゃでちゃらんぽらんだった過去、その延長上に今の自分がある。
落ち着いて丸くなるのが怖いんじゃなくて、心の底ではそんな日々を望んでいたから本当になるのが怖い、という実感が込められたヴァース。
大人になることについて考えさせられるけど、最後は冗談で締めるところがニクい。
名曲のフレーズに新しい生命を与える「お嫁においで 2015」
“幸せだなア”なんて今のご時世じゃそう言えたもんじゃないけど蛍光灯に照らされてる洗った顔は もうそんな若くない
落ちついたら喫茶店やって ランチはカレーだけ そんなのいいかも
なるようになってく 多分ノリさ よろしく、、、damn
鏡に映った自分の顔。頭の中から一瞬で現実の場面に引き戻される。自信じゃないけど、どうにかなると思えるのは歳を重ねてきた証拠。
独白が告白に変わろうとするところでリリックは終了。次に発せられるのはきっとあの一言、「お嫁においで」。
引き延ばされたフィルムみたいに、一瞬の心の動きを描写する巧みなライム。
非婚化や晩婚といわれる昨今、結婚はタイミングだとよく言うけど、勝手にそうなるわけじゃない。
タイミングは来るものじゃなくてつくるもの、というのも半分は真実で、腐れ縁なんていうけど、結ばれるべくして結ばれるならそれは理想の結婚なんじゃないか?
選び抜いた言葉の底にはたくさんの葛藤があって、それゆえに思いが伝わるのは若大将の時代も今も同じだ。
そんなメッセージをさりげなく織り込みながら、名曲のフレーズに新しい生命を与える「お嫁においで 2015」は、PUNPEE兄貴のリリシストぶりが360度発揮された世代を超えるアンセムなのである。
TEXT:石河コウヘイ