James Brownの「Please Please Please」
ジェームズ・ブラウンの『プリーズ、プリーズ、プリーズ』。その特異な点というのは「歌詞を極力省き、ほとんどエモーショナルなシャウトにまかせた表現力で楽曲を構成した」ところ。
彼は、わずか8つの単語、わずか3行の歌詞でそのスタイル、のちに「ソウル」と呼ばれる新しい音楽表現をデビュー盤におさめたのです。
Please, please, please
「頼む、頼む、お願い!」いきなりブラウンの絶叫から曲は始まります。
何をお願いしたいのかまだわかりませんが、とにかくすごい熱意がこもっていることは、そのシャウトであきらかです。
この絶叫で始めるスタイルは、まさに彼のルーツであるゴスペルのスタイルそのもの。
ゴスペルの説教師は、このように曲のイントロダクションに神に捧げるシャウトを用います。
ブラウンの「お願い」からも、誰に向けてかはまだあきらかではありませんが、まるで神に捧げるのと同じような熱い思いを感じることができましょう。
さて「プリーズ」を六回繰り返したら、次の展開です。
Honey, Please don't go
「ハニー、頼むから行かないでくれ!」神に捧げるかのような「お願い」は、ハニー、つまり愛する人への懇願でした。
神への信仰の熱狂を、愛する人への懇願に転化させた表現方法ともいえます。
ブラウンが挑んだのは、冒涜的ともいわれかねないこの大胆な行為によって、大の男がひざまずかんばかりに懇願している姿をありありと浮かび上がらせることでした。
それは、前年やはりゴスペルスタイルを大胆に取り込んだレイ・チャールズの『アイ・ガット・マーマン』とは違った、より感傷的なシャウトによる表現でした。
ここまで単語数は、わずか4語。
I love you so!
「だってお前を愛しているからぁぁ!」行かないでほしいという理由、それは「愛しているから」ということでした。もはや「愛」以外の理由をクドクドいう必要はありません。
すでにその愛の激しさを、神への信仰のごとくひざまずき肉体全てを用いて表現することで、饒舌に語っているからです。
こうしてブラウンはわずか8つの単語からなる3行の歌詞で、肉体と魂による新しいスタイルを確立させたのでした。
ジェイムズ・ブラウンはデビュー盤を吹き込む以前、すでに南部を中心とした演奏活動の実績がありました。
この曲は、その活動の中で自信を深めていった独自の肉体的音楽表現の、最初の集大成だったのでしょう。
歌詞によらない彼のスタイルはやがてさらに洗練を極め、1971年にはほとんど"get up" と"sex machine" しか歌わない、ファンクミュージックのマスターピースを作ることになります。
TEXT:quenjiro
1933年産まれの歌手である。ジャンルはソウルだけでなくR&Bやファンク、ブルース、ゴスペルなど幅広いジャンルで歌い続けていた。シャウトしながら歌った魂の叫びのような歌い方からファンクの帝王を呼ばれており、革新的なサウンドで世界を圧倒されていた。 彼の父親はインディアンで母親はアフ···