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私の親友はあなただけ。宇多田ヒカルのWINGSは大事な人へのラブレター。

ケンカをした事のない人っていないと思う。ケンカする程、仲がいいって言葉があるくらい。絶対生きてれば1度はした事のあるもの。ケンカ。ケンカの後はバツの悪い、なんとも複雑な気持ちが残る。出来れば避けたいもの。だけど「ケンカするほど仲がいい」なんて言葉があるくらい、ケンカって本当は怒りのぶつけ合いじゃなくて愛情表現の一つなのかもしれない。
そんな事を思わせる歌がある。それは宇多田ヒカルの「WINGS」。

2006年に発売された彼女の16thシングルにあたる“Keep Tryin’”のカップリング曲。

2006年頃の彼女は、1度目の結婚生活を送りながら歌を歌っていた頃。

この曲が作られたきっかけは、当時の夫とケンカした事だそう。

その時の複雑な気持ちを「親友とケンカした後の複雑な気持ち」として歌っている。

でもどうして、「ケンカした後の複雑な気持ち」を歌っているのにその歌詞はケンカの後の複雑な気持ちよりも、大事な人を想う。

まるでラブレターを読み聞かせてもらっているかの様に聞こえるのだろう?

宇多田ヒカルの「WINGS」



じっと背中を見つめ
抱きしめようか考える
大胆な事は想像するだけ


ケンカを元にした歌だと知らずに聴いていると、この一節は片想いしている側が好きな人を見つめてドキドキしている様子が浮かぶ。

大好きな人の大好きな背中。いつも抱きしめたくて仕方ないけど、そこは切ない片想い。

そんな事は絶対出来ないからせめて想像してまたドキドキ…。

全くケンカのケの字も感じないし、親友よりも恋しい人の事を想っているって思う方がなんだかしっくりくる。

3つの存在への愛

大きいばっかりで飛べない羽
(あなただけが私の親友)
素直な言葉はまたおあずけ
(ラララらララ ラララヲウヲオ)
簡単に慣れてしまうのはなぜ
(あなただけが私の親友)


こちらが宇多田ヒカルの想いとは裏腹なイメージで歌を聴いているのを、まるで見透かす様にこの歌詞が続く。

ここで初めてこの歌の元になっている「親友」という言葉やケンカの発端になったのかと思わせる「簡単に慣れてしまうのはなぜ」という歌詞が出てくるのだけど。

好きな人への想いを歌っていると思って聴いているこちらからすると『あなただけが私の親友』という歌詞は脈略がなさすぎて、ちょっと疑問。

でも、こう捉えてみたらその疑問はスッキリする。大きいばっかりで飛べない羽。

これは大胆なことは想像するだけの事を指していて、想像はしているけど(大きいばっかり)現実にはなにも行動出来ていない事(飛べない羽)を意味している。

そして『簡単に慣れてしまうのはなぜ』。これは、好きな人側に気持ちがばれてしまっているパターンによくある。

片想い的にはくそーってなるやつです。「好き」って想われている事。自分の事を好きで居てくれる事に慣れてしまっている。

片想い側はまぁ好きだから仕方ないけど、なんか悔しいって想っちゃうやつ。

この『慣れ』ってとっても厄介。慣れから生じる言動や態度って、腹が立つ事が多い。

最初の頃はもっと大切にしてくれていたのに、とか思ったり。ひどいとケンカになる。

そう考えると『大きいばっかりで飛べない羽』『簡単に慣れてしまうのはなぜ』に続く『あなただけが私の親友』は、いつも傍で恋を応援してくれている存在と捉えられて、この歌が「ケンカの後の複雑な気持ち」を歌ったと言われて頷けるのだ。

こんな風に歌詞を捉えていくと、3つの存在への愛が隠されている事に気がつく。

それは「彼」「親友」「私」それぞれへの愛

ケンカした後の複雑な気持ち

向かい風がチャンスだよ
今飛べ
エンディングの少し手前で閉じないで
明日に備えて出来る事もあるけど
早めに寝るよ、今日は


向かい風って、強ければ強い程ただの迷惑な風でしかない。

けど、大きい羽があれば向かい風は大空に飛ぶためのチャンス。

向かい風は、相手が吹かせた「ごめんね」のタイミング。

このタイミングがきたら、逃さないで『今飛べ』!って、謝ってしまえば笑い話になる最後の最後。

『エンディングの手前』で意地を張ってしまっている「私」へ「親友」が背中を押すという形で伝える愛。

そして、そんな親友からのエールという愛を抱いて。

向かい風を焦らず待っている「私」は『明日』吹くかもしれない、向かい風に向けて『備え出来ることもあるけど。早めに寝るよ、今日は』と自愛する。

ちょっと恋に疲れた「私」から「私」への愛。

このWINGSで宇多田ヒカルが描いている事。それは「ケンカした後の複雑な気持ち」ではあるけれど。

ケンカをしたから「親友」からの愛を感じられたし。

その存在はいつも傍に在って自分に寄り添ってくれている存在である事を改めて感じたと思う。

3つの愛を込めたラブレター

あなたの前で言いたい事を紙に書いて
夢見てるよ大空


そして、自分がどうして好きな人を好きなのか。

好きな人へごめんねって思う自分の良くないところ。そんな事を考える事も出来た自愛の時間。

『あなたの前で言いたい事』は「ごめんね」もだけど。ごめんねと一緒に『紙に書いて』まで、しっかり伝えたい事。

それってやっぱり「大好き!」この一言に尽きる!

ケンカしても結局「大好き」って事を伝えたいから、WINGSを聴いてるとラブレターを読み聞かせてもらっている気持ちになってしまうのだ。

ところでこの歌が書れたのってどこだと思いますか?

私は絶対、曲中に出てくる『安心できる暖かい場所』だと思う。

その場所は大好きな人の大好きな背中の傍。きっとこの歌って、親友とケンカした歌としているけれど。

ケンカした大好きな人に素直にごめんね!大好き!って言えない彼女が照れ隠ししながら「彼」へ伝えるかわいい愛の歌。

そして3つの愛を込めたラブレターなんだと思う。

TEXT:後藤 かなこ

シンガー・ソングライター 1983年1月19日生まれ 1998年12月9日にリリースされたデビューシングル『Automatic/time will tell』はダブルミリオンセールスを記録、15歳にして一躍トップアーティストの仲間入りを果たす。そのわずか数か月後にリリースされたファーストアルバム『First Love』はCD···

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