このドラマの主題歌を黒柳から直接オファーを受け、福山雅治が担当した。
タイトルの「トモエ学園」とは、主人公、徹子も通った実在した小学校である。
子供達1人1人の個性や自由を尊重する教育方針を掲げ、当時の日本では革新的な教育を行っていた学校だ。
歌詞には徹子がこの学園で過ごした眩しくて、ちょっと切ない純真無垢な子供時代の思い出と、そこで出会った恩師や、友達への感謝の気持ちが綴られている。
冒頭はこんな歌詞で始まる。
福山雅治の「トモエ学園」
うれしいのに
さみしくなる
たのしいのに
かなしくなる
恋に似て まぶしかった
恋のように せつなかった
まだ青春と呼ぶには早過ぎる、純粋で無垢な子供時代に感じた気持ちや想い。
「うれしいのに何だかさみしくて、たのしいのに何だかかなしい」
この矛盾する気持ちを何て言えばいいのかわからない、そんな子供の頃の気持ちや想いが素直な言葉で表現されている。
でも大人になった今ならわかる。
恋ではないけど、恋をした時に感じる気持ちに似た、きらきらして、まぶしくて。
そしてまるで恋をした時のように切ない気持ち。
この学園で過ごすうれしい時間もたのしい時間も、いつか終わってしまうのだと、子供ながらに感じていたからではないのだろうか。だからどこかさみしくて、かなしかったのだ、と。
勉強よりも心を養う大切な時間だった小学生時代
わたしたち違うんだね
顔のかたち
心のかたち
「違う」って
面白いな
だからその手
繋ぎたくなる
誰1人同じ人間はいない。顔のかたちが違うように、心の感じ方もみんな違うんだ。
みんなと「違う」っていうことは、悪いことでもいけないことでもなくて、色んな人がいて、色んな考え方があって、いいことなんだ。面白いことなんだ。
だからみんなでその違いを分かち合いたくなる。子供時代、特に小学校時代はお勉強よりも、心を養う大切な時間だ。
その間に学んだこと、得たものはその後の人格形成においても大きな影響を与える。
徹子は心を養う大切な小学校時代に、多くの友達から素晴らしいことをたくさん学び、豊かで広い心を養ったのだ。
人生を変えた小学校時代の恩師との出会い
先生 友達わたしの明日
作ってくれたの
学び舎の日々
ありがとう
教えてくれましたね
「違う」って
「自由」ってこと
教えてくれたんですね
「大好き」って
「幸せ」ってこと
トモエ学園の先生や友達がわたしの未来を作ってくれたの
学び舎で過ごした日々に、感謝の気持ちを込めて先生、教えてくれましたね
みんなと違う「個性」を持っているということは、「自由」を持って生まれてきたんだということを。
先生、教えてくれたんですね。「大好き」って気持ちになることは、「幸せ」なんだということを。
歌詞に「わたしの明日 作ってくれたの」とあるように、黒柳徹子の現在があるのは、この学園、そして私を理解してくれた校長先生のおかげ、と後に黒柳徹子本人も語っている。
公立の小学校を強制退学させられ、行き場をなくした徹子を快く受け入れ、個性的でやりたい放題の彼女を誰よりも理解し、いつも暖かく見守ってくれた校長先生。
小学校時代の恩師との出会いが、その後の人生にどれだけ影響するものなのか、物語っているのは彼女だけではない。
2015年に芥川賞を受賞した、お笑い芸人で小説家の又吉直樹もまた、小学校時代は奇人呼ばわりされるなど相当やんちゃで個性的だったが、小学校の時の先生だけは彼を理解し、唯一味方をしてくれたことを、彼は大人になった今でも忘れられないという。
現在の彼もまた、黒柳徹子同様、知る人ぞ知る活躍ぶりだ。
人と違ってもいい。自分や他人の個性を理解し、もう一度思い出してほしい
この楽曲は、ただ単に黒柳徹子の子供時代の思い出、恩師や友達との素晴らしい出会いを描いているだけではない。今を生きる子供達に、そして子供時代やその頃の気持ちをすっかり忘れてしまった大人達に、人と違うこと、個性とはなんなのかを学んでほしい、理解してほしい、もう一度思い出してほしい、そんな黒柳と福山の想いが込められている楽曲なのだ。
ドラマの中で、徹子がNHK時代に渥美清に渡したとされる「星の王子さま」の冒頭「大人は誰も初めは子供だった。
しかしそのことを忘れずにいる大人はいくらもいない。」とも、この楽曲は繋がっているように思う。
「人と違う」、「個性」がいじめや不登校に繋がる日本の学校現場において、未来を照らす道しるべとなり得る楽曲だ。
1人1人の個性よりも、協調性を重んじる日本の教育は、もう時代遅れなのかもしれない。
福山自身も父となり、我が子の未来を想いながら、この楽曲を製作したに違いない。
TEXT:中村友紀