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永遠に続く映画のエンドロールのような光景―The Mirrazの提示する幸福論とは?

「最近じゃデパートのオリジナルソングにすら幸せを感じるんだ」というタイトルを見て、「長い」と思ったそこのあなた!たしかにSpotifyでこの曲が初めて流れてきたとき、ミドルテンポなのに言葉を詰め込む気ぜわしい曲調と対照的に、右から左へ流れる文字ディスプレイが筆者にもやけにゆっくりと感じられたのは事実だ。
しかしミイラズ(The Mirraz)的に言えば、こんなのはまだ序の口なのである。

2017年8月にリリースされたミニアルバム「バタフライエフェクトを語るくらいの善悪と頑なに選択を探すマエストロとMoon Song Baby」には同名のタイトル曲のほか「ムームー・フムフム・ヌクヌク・アプアア・ククイ・ネネ・ナニ・ノア」という曲も収録されており、過去には「ソシタラ~人気名前ランキング2009、愛という名前は64位です~」という曲もあった。

ちなみに「バタフライ~」は49文字だが、メジャーどころではAKB48の2013年のシングル「鈴懸の木の道で『君の微笑みを夢に見る』と言ってしまったら僕たちの関係はどう変わってしまうのか、僕なりに何日か考えた上でのやや気恥ずかしい結論のようなもの(90文字)」が記憶に新しい。

そんなミイラズは、作詞作曲を手がける畠山承平(Vo/Gt)を中心に佐藤真彦(G)、中島ケイゾー(B)からなる3人組で、2006年に結成、インディーズで活動を続け、2012年にメジャーデビュー。これまでにフルアルバム10枚、ミニアルバムを6枚発表している。

最近じゃデパートのオリジナルソングにすら幸せを感じるんだ」は2017年5月に彼らが配信限定でリリースした4週連続リリースの最終作である。

The Mirraz「最近じゃデパートのオリジナルソングにすら幸せを感じるんだ」

最近じゃデパートのオリジナルソングにすら幸せを感じるんだ
おかしいよな笑っちゃうよな たまらなく愛しい
なんでもないことがなんでもなくないことに気づいてしまった


冒頭からまくしたてるようにぶちまけられる言葉。

Arctic Monkeysをはじめとする海外のロックンロールリバイバルに影響を受けたミイラズの曲調は、ひとことで言うとシンプルでストレート。

いつだって畠山は、聴き手に向かって結論をまっすぐに差し出してきた。

デパートで流れているオリジナルソングがハイクオリティーで感動したということではなくて、“幸福について”がこの曲のテーマである。

人生に本当に必要なもの なんだろう?
君は何を望む?君は何が欲しい?君には何が必要?
僕は何を望んでるのか、最近じゃちょっと分からなくなってきてるんだけど
最近じゃデパートのオリジナルソングにすら幸せを感じるんだ


Bメロは聴き手に向かって問いかけるような言葉が並ぶ。

人生に本当に必要なものは何か?ときかれて、即答できる人は幸運な人だろう。

たいがいの人は考えてしまうに違いないし、畠山自身も「最近じゃちょっと分からなくなってきてる」と言っている。

そんな中でも「幸せを感じる」と素直に口に出せるのは、どんな心境だろう?

もう何もいらないんだ 僕の人生には何もいらない
必要なものは全て手に入れた 君がいるから
僕には君がいるから もう何もいらないんだ
僕の人生にはもう何もいらない
必要ない必要ない必要ない 必要ない必要ない必要ない


サビではBメロを受けた歌詞になっている。

自分に君以外に必要なものはないということ、“君がすべてだ”という一言を、他に「何もいらない」という否定形で表現しているところがポイントだ。

「必要ない」という言葉を重ねることによって、「君」がどれだけ大事な存在かということが強調されている。

2番ではそんな現在の心境を振り返って、かつての自分を見つめている。

「思えば僕は結果ばかり求めて」、「クリアだけを目指して」いたと語る率直さが胸に突き刺さる。

これまでにも畠山はラブソングを歌ってきたし、“君がすべて”という表現も今回が初めてではない。

「We are the fuck’n world(2011年)」では、「大袈裟で陳腐な言葉なんていらない 君自身がそれ自体が僕の愛の形だ」と言っているし、「そして、愛してる(2016年)」でも「もしも君が死んだら 僕は日々を泣いて暮らすだろう」と歌い、サビでは「そして、愛してる たったそれだけでいいんだ」と結論づけている。

それが「最近じゃ~」だと少し様子が違っている。

これ以上何を求めるんだろう?愛し合う必要なんてない
僕らがそこにいるだけでそれこそがそれだけが愛だ


愛情という感情の底には「愛したい」という欲望が潜んでいる。

だからこそ、相手に何かを求めて満たされずに傷ついたりもするのだけど、「最近じゃ~」がこれまでの曲と違うのは、畠山自身が積極的に“求めていない”ということ。

「僕らがそこにいるだけでそれこそがそれだけが愛だ」という言葉には、相手の存在をそのまま“受け入れる”感覚が強く出ている。象徴的なのが次の部分だ。

ミイラズの考える幸福論

君の存在で僕の全ての過去を台無しにしてくれ
それを望んでいるんだ 過去があるから今があるなんて
そんな綺麗事は必要ない 君がいればそれでいい


“過去なんて関係ない”と伝えるのにこれ以上インパクトのある表現があるだろうか?

壊してくれという言葉は、相手をありのまま受け入れるという究極の意思を表している。

権威への反抗を示し「大人を信じるな」と叫ぶロックは、若者の音楽として成熟を拒むことをアイデンティティーにしてきた。

しかし人間は歳を重ねることで成熟していく。誰もその流れにはあらがえないし、ミイラズも例外ではない。

誰よりもロック的なあり方を追求してきたミイラズ。

しかし、彼らはこの曲で成熟に抵抗するのではなく、“今ここに君がいればそれでいい”と歌う。

過去も未来もないその有りようは“成熟せずにとどまる”というもうひとつの形を示しているのではないだろうか?

どんなものにも変えることの出来ない感情さ
そんな必要だってない 君に愛を伝えるのには
必要なものが沢山あるんだけど それは本当に大変で
まずは料理をしなくちゃ 新しいレシピを覚えないと


買い物や料理をするなにげない日常に、永遠に続く一瞬を見いだすこと。あなたが存在するその光景は映画のエンドロールのように美しい。

そんな生活のなかにある幸福を歌った「最近じゃデパートのオリジナルソングにすら幸せを感じるんだ」は、ミイラズの考える幸福論を示した1曲なのである。

TEXT:石河コウヘイ

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