得意のウィスパーボイスで独自の虚ろでありつつ美しい世界を表現している。
「さみしいかみさま あたしのこといってんの」という歌詞から、歌詞の主人公が、誰かに自分を「さみしいかみさまだ」と言われているのだ、とわかる。
と同時に、ここでいう「あたし」は歌詞の主人公だけに止まらず、DAOKO自身のことも指しているに違いない。
歌詞の主人公になりきったDAOKOは、「さみしいかみさま」と言ってきた相手に「さみしくなんかない さみしいとか考えない」と畳み掛ける。
DAOKO「さみしいかみさま」
触れたら崩壊 仮想の世界何度も創りなおして
ずっと待ってた 身体甘くして
月の裏側から
歌詞の内容から推し量る限り、DAOKOの描く仮想世界はいつだって夜だ。
都会の夜を見下ろしながら、アイフォン越しにDAOKOの世界を覗いているような、背徳感にも似た感情が生まれる。
SNSから発信したり、YouTubeを再生したりしながら、私たちは「仮想の世界」とコンタクトを取ろうと必死になる。
仮想世界の住人は「ずっと待ってた」と私たちを迎え入れてくれるだろう。
「仮想の世界」と「ヒビカセ」
この「仮想の世界」から連想するのは、同じく動画再生サイトから活動を開始したアーティスト・れをるの楽曲「ヒビカセ」だ。「ヒビカセ」は初音ミクをテーマにやはりパソコン越しの「仮想の世界」を歌っている。是非聴き比べて遊んでみて欲しい。
「ずっと待ってた 身体甘くして」「どれくらいの愛情をこの世界に向けてんの?」など、「さみしいかみさま」の歌詞とも通じるものがないだろうか。
ある意味で、初音ミクも「さみしいかみさま」の1人と呼べると私は思うのだ。
バーチャルの世界だからこその孤独感や虚しさが、楽曲のそこここにはびこっていて、けれど私たちは彼女たちに直接触れることすらできないでいる。
自分たち自身も「仮想の世界」の住人だ、と気づくまで、そう時間はかからない。
「触れたら崩壊」するくらい脆く儚い世界なのに、私たちはどうしたってこの世界を見捨てることができないのだ。背景はずっと夜、月が私たちを見下ろしている。
『THANK YOU BLUE』のタイトル通り、DAOKOのイメージカラーは「蒼」だ。「青」と書くよりは、「蒼」と書きたい。
その方が、なんだかずっと深い「あお」という気がしないだろうか。
深くてしかもビビットな「蒼」い仮想世界は、時には海のように、時には空のように、そして時には夜のように優しく包み込んでくれる。
真っ蒼な夜の「仮想の世界」から、「さみしいかみさま」が私たちを見ている。
どれくらい近づけるかわからないけれど、いつか出会う時まで「ずっと待って」いて欲しい。そんなことを想うのだ。
Text:辻瞼