今作のタイトル『TIME』について家入は「自分に時間をかけてくれる事こそ愛情表現」と自身の想いを話しており、様々な愛の形が描かれたアルバムに仕上がった。今回UtaTenでは、そんな家入にインタビューを敢行。『TIME』に込められた一つ一つのストーリーをお届けする。
Interview Artist:家入レオ
お互いが時間を交換している
──アルバムタイトルの『TIME』に込められた意味を教えてください。5th Album 「TIME」通常版
家入レオ:自分の日常の瞬間を切り取って作ったという事もあるんですけど、私が人に愛されているなって感じる瞬間って、自分に時間をかけてくれている時なんです。言葉とかお金ってあまり気持ちがなくても実は与えられるもの。もちろん嬉しいんですけど、時間って平等に24時間じゃないですか。1日の中でもさらに限られている自分の時間を私のアルバムに差し出してくれる、私に前借りさせてくれる。っていうのはもの凄い愛情表現だなって思うんです。
私は今の職業を仕事としてやっている感覚はないんですけど、ちゃんともらった分の時間は何倍も濃くして返したいし、このアルバムを作るのに注いだ時間が癒されるのも聴いてもらえるときなので、お互いが時間を交換しているって気持ちがないとできない事ということで、そこも含めて『TIME』というタイトルにしました。
──そのままライブのセットリストになるような曲順だと思いました。今回の曲順でこだわりなどはありますか?
家入レオ:嬉しいです。かなりこだわりました。5年6年やっていると、今まで応援してくれている方たちとは信頼関係がある程度出来てきています。ただ私に興味があるけど、例えばライブに行くまではいたらない人たちをどれだけこの輪の中に誘えるか、っていうのが一つ大きいと思っていました。『ずっと、ふたりで』はドラマの主題歌だったし、『春風』も凄いキャッチ―、『Relax』も先行配信していたので入口になりやすい曲を最初に持ってきたっていうのはありますね。
Relax
──家入さんが作詞をしている楽曲は、強くて芯があるイメージがあるのですが今回のアルバムでも全面的に家入さんの等身大な部分を表せたんじゃないでしょうか。
家入レオ:そうですね。今までの10代で作っていた曲は無意識だけど、背伸びしていた部分があったりだとか、そういう風に取られてしまう事が多かったんだろうなって。23歳になってある程度自由に言えるようになってきて、そういう所でも表現の幅が増えたし、今回1年7カ月ぶりのアルバムは、1人の人間としても、1人の女性としても、アーティストとしても人を好きになったりとか、悔しかったりとか、仕事でこんなことがあったとか、そういう日常的な事をより曲にできるようになってきたのかなっていうのはありますね。
──楽曲について伺っていきたいんですが、収録曲の『春風』はキャッチ―で爽やかで青春の匂いっていうものを思い出すナンバーですね。この曲に意識した点をお聞かせください。
家入レオ:最初この曲をSoulifeさんたちに頂いたときに、「シルエット」とか「メモリー」っていうフレーズにキャッチ―さがあるなって。欅坂46さんなどの楽曲も書かれている方たちなので、キャッチ―さに敏感なんです。そういうものを作り出すのが凄いなって。懐かしさみたいなものも含まれていて、凄く入口になりやすい曲だし、親しみやすいから爽やかに歌いましたね。
──「シーズン」の歌い方もとても聴きやすいですね。カタカタなのにカタカナっぽくないといいますか。
家入レオ:嬉しいです。実はそこは凄く意識していて、固くないように春風のように包んで届けたいっていうのがあったので、そういう歌い方をしているかもしれません。
性別に対してのテーマが興味深い
──『春風』の中で一番好きな歌詞のフレーズをお聞きしてもいいでしょうか?
家入レオ:恋ってどの年齢でしてもピュアじゃないですか。好きって伝えることってどの恋に関しても勇気がいるし難しいことなんだけど、学生の時の恋って恋をしている事自体が恥ずかしいみたいなウキウキ感。誰かの事を好きになっちゃったっていうのも恥ずかしい。そこのピュア感がこの時にしかないなって思いつつ、共通だよなって思うのは「友達のままがいいよねって笑ったけど 本当は誰より君だけを見つめてた」っていうのは、どの世代にも通じるものなのかなって思っています。
──青春時代にすでにこの感情を抱いてしまうというのがまたすごいですよね。
家入レオ:そうですね。そういう所で言うと性別に対してのテーマが興味深いなって思っていて。『春風』のこのフレーズもそうだったし、『祈りのメロディ』っていう曲があるんですけど、私は誰かの事を好きになるときってあんまり男女関係ないと思っていて。まず人として出会って、この人良いなって思ってそれでご飯に誘って出かけたりするんですけど、そこで何かハモってくると好きがどんどん募っていくじゃないですか。それがこれって愛なのかな?って思ったときに、相手が女性だったら私の場合は女性と恋愛できないから、その子が幸せになってくれればいいなって熱い気持ちが継続していくんですけど、その時相手が男性だったらその先を望んじゃうじゃないですか。それが望めてしまうし、恋愛関係になったとして、お互い凄く想い合っているけどいざ結婚するか?と言われたら違って。大好きなんだけど、お互いもっといろんな素敵な人に出会っていく先、二人に待っているのってさよならしかないんだなって思ったときに、人として好きっていう感情は男女同じなのに相手が男の子だったら永遠にいるっていうのって難しいなって切なさからできた曲で。女の子だったらずっと友達のままで思いが募っていけばいいのに、男の子だとそうはいかない、どこかで別れが来てしまうっていうリアルな曲になっています。
──確かに一度でも恋心が芽生えてしまうと一生友達でいるというのは結構難しくなりますよね。
家入レオ:なんか変わってしまいますよね。本当にそう思います。
──『祈りのメロディ』は家入さんらしさもある中で、杉山さんや尾崎さんと曲を作るようになった影響があるようにも感じました。そんな中でも「残酷な神は自らが与えた愛も奪うでしょう」は『Bless You』と共通するような所もあったり。
家入レオ:この曲を聴いたときに、自分らしい曲だなってすごく思いました。このアルバム全体を通してそうなんですけど、今までだったら“私ってこういう経験したの”“こういう想いがあるの”って完結するような感じだったんですけど、その一歩先に進みたいなと思って。自分で完結するんじゃなくて、ちゃんとみんなで完結させたいっていうのがあったから『TOKYO』とかも自分の経験なんだけど、“やってらんないからみんな一緒に踊ってよ”とか。この『祈りのメロディ』も、自分が凄く切ないんだけどみんなもそうだよねとか。そういう落とし込み方が出来たのは、杉山さんの作詞・作曲『ずっと、ふたりで』っていう提供曲で完全に歌えるようになったからだと思います。そういうのはマインド的に影響を受けていますね。
──サビで同じ言葉を繰り返していくところが覚えやすくて、多くの人を巻き込む・訴えかけるという感じがありますよね。
家入レオ:覚えやすいといいですね、キャッチ―だと思います。
妄想するのが凄い好き
──『TOKYO』はご自身の経験とおっしゃっていましたが、どのようなきっかけで制作されたんでしょうか?
家入レオ:この曲は内容が先にあったんです。自分が曲書きたいって強烈に思う時って、日常的にアクシデントがあったりするときで。元々一人っ子っていうのもあるし、10代でデビューして割と1人でいることもあって、暇なときに妄想するのが凄い好きなんですよね。渋谷でサラリーマンのおじさんに肩をガンってぶつかられて、“今ごめんもなかったわ”っていうモヤモヤから曲を作ることもあるぐらい、小っちゃい事を大きいことにするのが楽しいというか。
──そうだったんですね。
家入レオ:この曲も悔しいっていう気持ちがあって、まずメロディーを作ったんですけど、東京っていう街ってアトラクションだなってすごい思っていて。夢に、恋に、友情に、生きていて疲れるんだけど、まだこの街を離れる勇気もなくて。この曲も地方出身者だから作れた曲なのかな?とも思っています。東京ってやっぱり憧れがあるんですよね。他の所から来た子もそうなんですけど、ここで何か残してやろう!っていう情熱を凄く感じる。
東京の人って良い意味でも悪い意味でも、余裕があって。悪く言うといつも冷静。でもそういう所に憧れがあって作ったし。今の自分のマインドですね。
──「染まりたくはないが憧れがあるようだ」という歌詞に共感する方も多いでしょうね。内容が先にできたということでしたけど、“悔しい”という元にあった感情からメロディーも出てきたような形?
家入レオ:ありがとうございます。「絶対に許さないわ」とかはメロディーを作りながら出てきた言葉で、凄くハマりが良くて。“言ってたことと違う!”みたいな所から曲が出来ました。
──同曲はスカが効いたサウンドですよね。スカを取り入れた楽曲は作ってみたいと思っていたんでしょうか?それともその“悔しさ”から連想した曲調が今回はスカだったような?
家入レオ:悔しさからこういうのが滲み出たんだと思います。ちょっと斜めから歌ってやろうじゃないけど。
──言葉の詰め方も難しいと感じました。カラオケで歌ったら大変そうですね。
家入レオ:(笑)ぜひお酒の力を借りて歌ってほしいですね。
──そして印象的なこの「東京賭博場」というフレーズは、どんなタイミングで浮かんだんでしょうか。
家入レオ:私は10代でデビューしたという所で、誰も別にそうなれって言ったわけでもないのに、勝手に戦闘態勢に入っていて。博打だぞ人生!みたいな感じがあったので、そういうマインドがここに出たんだと思います。
──今もそういった意識はありますか?
家入レオ:うーん、まったくなくなった訳じゃないんですけど、東京で凄く楽しく過ごしているから、そこまで追い詰められている訳でもないし。あえて自分を追いつめて楽しくしようとしている所はあるかもしれないけど。苦しい事とかあると、結構ドキドキするタイプで、面白いなって思っています。
──2サビに「本音ではないが負けちゃいられないわ」という歌詞ありますが、これって本音じゃなくても、勝てる自信の表れなのか、負けちゃいられないっていう言葉が本音じゃないのか。
家入レオ:これは両方で、「楽しめ東京」っていいながらも今全然楽しめる状況じゃなくて、ボロボロだわ私。でもこんな所で負けちゃいられないわっていう気持ちです。
──「本音ではないが」は「楽しめ東京」にかかっているんですね。
家入レオ:そうですね。
──この曲では、一回も弱い所を見せずに勢いで駆け抜けた印象です。
家入レオ:完全にこの時は消化したい、なかった事にしたいっていう気持ちがあったんで。弱さっていうよりは、刻みにいくっていう姿勢の方が強かったんでしょうね。
──“こういう曲を作ろう”っていう姿勢で作り始めていたらできなかった曲なんですね。曲の始まり方も不思議な感じがします。
家入レオ:そうですね。なりふり構わずに、このドロドロした感情を処理したいって思った曲なんで。ちょっと歪な感じにしたかったんです。