2nd AL『H.O.T』通常盤JK
世間が「謎のバンド」と騒いでくれた
──先にも語っていましたが、昨年多くのフェスティバルへ出演した経験は、Nulbarichにもいろんな影響を及ぼしたわけですよね。JQ:だいぶありましたね。1stアルバムを作っていた頃は「根拠のない自信」というか、なんとなく「好きにやっていこうぜ」というスタンスでした。まぁ、そこは今も変わってないんですけど(笑)。いろんな経験を重ねていくうちに、次第に「いろんなリスクをちゃんと背負ったうえで活動をしていこう」という気持ちに変化してきました。
──リスクを背負うですか…。
JQ:簡単に言うなら、Nulbarichの軸としてある「自由なバンド」というスタンスを崩すことなく。でも、Nulbarichとしてのスタンダードなスタイルをしっかり確立するまでは、いろんな状況もしっかり飲み込んでやっていこうぜということなんです。
──完成した2ndアルバム『H.O.T』、今のJQさんにはどんな作品として見えています。
JQ:1stアルバムから一年半。むしろ、ここまでの一年間が怒濤の日々だったからこそ、結果、この一年間の中でのいろんな感情を詰め込んだ作品になったなという印象を自分では持っています。
──そんなに怒濤な日々だったんですね。
JQ:昨年は初めての経験がとにかく多かった。ワンマンライブをやったのも初だったし、フェスティバルに出ることも、フェス三昧な日々も初めての体験。年末に行ったワンマンツアーも、ジャミロクワイのサポートアクトとして日本武道館へ立ったのも初めての経験。とにかく、ひたすらインプットしてはそれを楽曲へ投影し続けてきたんですけど。まだまだそれを整理しきれてないのも事実。今年はそこをしっかり整理し、先の活動へ繋げていきたいなと思っています。
──たくさんインプット出来たことは、大きな強みにもなりますよね。
JQ :確かにそうですね。昨年得た経験を、さっそく今年は未来へ進んでゆくためのガソリンに変えているところで、今年は、この『H.O.T』というアルバムを手に活動をしてこうと思っているし、ここへ収録した曲たちをいろいろ噛みしめながら突き進んでゆく予感を覚えています。
──その意志を具現化してゆくのが、3月中旬から始まる全国ツアーになるわけですね。
JQ:そうなります。ただ、ライブとひと口に言っても、会場ごとに色も違えば、お客さんの雰囲気によっても。何より、演奏するメンバーの編成次第で、たとえ同じメニューだったとしても、一本一本の内容はぜんぜん異なってゆく。昨年行った全国ツアーのときも、会場ごとに盛り上がる曲が違えば、僕らのライブ自体も、そのときの空気感次第で演奏の色を変えていたように、一つとして同じ表情はありませんでした。むしろ、そのときごとの会場やお客さん、メンバーらの編成によって、そのときにしか生まれないライブを作りあげてきた。それくらいNulbarichのライブが一回一回違うように、僕自身がそこを楽しみにしていれば、観に来る人たちもそこを楽しんで欲しいなと思います。
──その場の雰囲気に合わせ、メンバーがフレキシブルに対応していく。まるでジャズセッションのような感覚がいいですよね。
JQ:むしろ、メンバーどうしがライブの中、互いに触発しあってるといいますか。メンバーのプレイに刺激されては、そこへ次々と刺激を重ねていく人たちばかりなんです。しかも僕以外のメンバーは、ライブ以外で自分を露出することは一切ないぶん、「ここぞ」とばかりにアピールしてゆく。でも、その熱く刺激的な音の重なり合いがすごく楽しいし、その日その時にしか生まれないNulbarichのライブを形作っているわけですからね。
──メンバーは一切姿を見せなければ、JQさんもイラスト姿や、MVでもシルエット姿のように、その存在はだいぶ謎ですけどね(笑)。
JQ:そうなった理由も、最初に露出する機会が生まれたとき、アーティスト写真が間に合わなかったことで、じゃあイラストでというところから始まったからなんです。そこからずっとメンバーの露出を一切行わないまま、イラストのみを表に出して活動をしていたら、世間が「謎のバンド」と騒いでくれた。だったら、それを引っ張ろうという形でした。ただ、こうやってプロモーションも含め表に出る存在も必要なことから、自分だけが、今は限られた中で露出をしている形を取っています。
Nulbarichの場合、イラストを前面に出したり、僕だけがメディア露出をしているせいか、Nulbarich=JQのソロプロジェクトと勘違いされるんですけど。じつはバンドです。むしろ、どこのバンドよりもバンドしている気がしています。それくらい、メンバーみんなわがままなので(笑)。
美術館へ行った時、画家さんからあまり聞きたくない
Almost There (Official Music Video) [Radio Edit]
──一本一本のライブごとに表情が異なると言ってましたけど。Nulbarichの場合は、まさに一本ごとのライブが勝負になっていくわけだ。
JQ:ホントに、そうですね。毎回同じライブを行うのではなく、「今日のあいつはイケてた」「だったら俺は、こんなアプローチでせまってやる」など、メンバー内で競い合っているほうが、良いフレーズが生まれてくるんです。そこで得たものが、実際に楽曲制作へ反映されることも多いですしね。
──ライブで演奏する場合、アルバムに収録した形と変わってゆく場合もあるわけですよね。
JQ:収録したまま演奏する場合もありますけど、ほとんどが変わっています。
──先にも聞きましたが、JQさんって何気ない歌詞の中へ深いメッセージや想いを投影していますよね。そこを深読みしていくのも好きなんです。
JQ:確かに音楽って、すごく歌詞が大事だと思うし、自分なりのメッセージは歌詞へ乗せているんですけど。正直、作り手の想いが伝わらなくても僕は良いと思ってて。むしろ、どう捉えるかはその人次第で良いかなと。
たとえば、美術館へ行ったときに、その絵を描いた画家さんから「この絵は、こういう想いで描きました」とか説明をあまり聞きたくないじゃないですか。それと、同じ感覚で、一つ一つの楽曲に想いを込めて作っているんですが、それを人の手に届けるときに、自分はあまり語りたくはないと思ってて。もちろん、一個のエピソードとして、「この曲のこの歌詞は、こういう想いで作りました」と伝えるのは否定しませんけど。薬の処方箋のように、一つ一つを説明することはやりたくない。あくまでも楽曲というのは、その人が聴いたときに感じた想いや思い出のまま、その人の中へ封じ込められていけば良いこと。ときにその曲が、以前と似たようなシチュエーションになったとき、ふっと思い出として甦ってきたりすることがあるように僕は、歌ってそれで良いんだなと思っています。
──ライブに於いても、感情を込めて伝えるというよりは…。
JQ:僕は、歌詞の内容を意識して歌うことはないです。たとえ悲しい歌でも、そのときの雰囲気次第では笑顔で歌う。あくまでも、そのときの空間をどう楽しめるのか。そこが大切なんだと思ってます。
みんなとこの先までどんどん熱く進みたいから、一緒にいこうぜ。
──2ndアルバム『H.O.T』に付けたタイトルは、そのままの意味と捉えて良いのでしょうか。JQ:「このアルバムは熱い、イケてる」という想いを投影した「HOT」の意味と同時に、「しっかりつかまってないとおいていっちゃうよ」という意味の「HANG ON TIGHT」のダブルミーニングとして付けています。「みんなと一緒にこの先までどんどん熱く進みたいから、一緒にいこうぜ」、そんな想いを僕は投影しました。
──ということは、今年は攻めてゆくということですね。
JQ:まずは、昨年の自分を越えてかなきゃいけないなと思っていれば、毎年、その年の自分を越え続けてかなきゃいけない。そういう気持ちは、つねに抱いています。
──バンドを取り巻く環境も大きく膨らんでいるように、まわりから期待感を覚えることも増えています??
JQ:僕たちに何かを求めてくれているから、きっと今のような状態になっているんだろうなとは、確かに思うこと。だからこそ、それぞれの想いを一個ずつしっかり返していきたいとは思っています。
──最後に、改めてJQさんにとって『H.O.T』というアルバムは、どんな意味を持った作品になったのかを聞かせてください。
JQ:少しでもみんなの日常の中へ溶け込んでくれたらなぁと思いながら、僕らは一生懸命に作りました。だからと言ってしっかり聴いて欲しいという訳ではなく、むしろ日々の暮らしの中で、そのまま聞き流してもらえたらなと思っています。その中で、ふっと気になって耳を止めた言葉やメロディ、フレーズがあったら僕らはそれでいい。そんな風に、このアルバムを楽しんでくれたらなと思います
──ありがとうございました。
TEXT:長澤智典
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