記憶のすぐそばにある音楽。
記憶に残る音楽は、思い出とセットになっているものだ。声を張り上げて皆で歌った応援歌、特別な人が好きだと言ってよく聴いていた曲…ジャンルは様々だろう。普段なら思い出しもしない出来事を、特定の曲がBGMで流れるだけで過去に引き戻される。そんな時、嬉しいような悲しいような、何とも言えない想いに駆られるものである。
注目を集めた『夏音』
GLAYの『夏音』は、そんな記憶に残る音に想いを込めたナンバー。2003~2009年まで放送されたバラエティ番組「恋するハニカミ!」の7~9月テーマソングでもあった。
メンバーである、TERUとTAKUROが最初から最後まで出演した番組でもあり、放送最後にはこの楽曲のアコースティックVerが披露されている。楽曲自体はテーマソングのみならず、目覚ましテレビでの紹介や、ミュージックステーションで2回出場を果たすなど大いに注目を集めた。
GLAYの『夏音』歌詞
夏の空は今日も青空で君を思い出すから嫌いだった
君の声が聴こえる 耳をくすぐる響き
照れてる君が好き 夏の音に紛れて
(中略)
夏の星はとても瞬いて 君のはしゃぐ様子が嬉しくて
もっと好きと伝えたかったけれど 言葉にもできないまま
夏の音はとても儚くて 君を思い出すから切なくて
きっといつか君の哀しみを 全て背負うそれが僕の夢だった
あの頃…
――――
夏音ってどんな音?
タイトルにもある『夏音』、一体どんな音だろう?風鈴の音、雨が降る音、海の音等々、涼しげな音色を連想するが、どれも違う気がする。もしかしたら、現実にはない音かもしれない。
“夏の空は今日も青空で君を思い出すから嫌いだった”
久しぶりに聴いた『夏音』に、思わず空を仰ぐ「僕」。きっと真っ青な空が嫌いだった頃よりは、成長した姿だろう。溢れ出てくる君と僕の2人の物語は、ハッピーエンドではない。彼が蓋をしていた物語が流れ出した時、その先に待っているものは――。
バラードナンバーである為か、メロディは全体的にしっとりとしているが何故か、ボーカルの音域は広い。
この曲を構成するのが、「僕」の叫びとも取れる気持ちと切なすぎる記憶だからこそである。その変化を表す為とはいえ、低音から急に高い声に持って行くのは中々難しいことだ。
しかし、この2つを分けて歌い上げた時に生まれるコントラストは、楽曲に彩を与えている。【神がかった声】の持ち主であるTERUがいたからこそ、『夏音』の世界は完成したと言えるのだ。
そんなGLAYの楽曲を視覚でカバーしたのが、喜田夏記という女性映像作家。彼女が作り上げたPVは、GLAYメンバーが登場しない初の試みながら、「夏音のPVがスゴい!」と噂になったほどだ。
アニメーション風な影絵の世界は実に幻想的なので機会あらば是非、堪能して欲しい。
作詞・作曲者であるTAKURO自身『夏音』とは
「ちゃんと音楽の世界にこちら側から出向いていったもの」。
PVでの試みも含め、今作ではあまり派手な演出が目立たなかったGLAY。あえて、自分たちのやり方を貫かなかったのは、見たままの楽曲を表現したかったからだ。
GLAYの音楽が残って消えないのは、そうした世界感を大切にしているからかもしれない。『夏音』が、テーマソングの枠を超えて愛されたように。
TEXT:空屋まひろ