そんな炭酸の泡の様な音楽「炭酸系サウンド」を目指すスリーピースバンド「サイダーガール」。
そのサイダーガールの炭酸系サウンドの意味合いを知らずとも。聴けばガツンと想いが伝わってくる一曲がある。
タイトルは「エバーグリーン」。エバーグリーンを聴いて思い浮かぶのは「青春」。
この青春って炭酸系サウンドの意味合いと同じだと思う。
青春って、終わってみるとあっという間。だけどそのあっという間の輝きの中で経験する全てが自分を変えていくし、未来をも自在に変えて行く。
この青春ってやつ。人生のどこかしらで通る一瞬の輝きのことだけど。
その一瞬の輝きを全然一瞬ではない「永遠に続く若々しさ」。だとか「いつまでも青春」。などと訳される「エバーグリーン」と言うタイトルで、サイダーガールが歌う青春って一体なんだろう?
サイダーガールの「エバーグリーン」
初恋は三遊間抜けて僕は一塁踏んだ
八月の青い風を切って走りたかった
「なんでもないよ」と笑う横顔を
飽きるまでこのまま見ていたかった
「三遊間」「一塁」は野球用語。その野球で「八月」といったら甲子園が開催される時期。
この歌の主人公は甲子園を目指す高校球児だって事をこの3つのキーワードが示している。
甲子園を目指す高校球児に甲子園。まさに青春の代名詞。これだけでも十分青春なのに。
初恋なんてキーワードまで出てきて。“「なんでもないよ」と笑う横顔を飽きるまで見ていたかった。”
だなんて。甘ずっぱくてキラキラ。キラキラすぎて青春をとうに過ぎた大人には眩しすぎて胸アツ…!これだけで、青春最高かなって思ってしまう。
高校球児の青春がちりばめられた1曲
こうして君を何度も追いかけてしまうから青春最前線全力疾走
青に線を引く
ずっと何度も言おうとしていたこと
全身全霊かけて伝えないとな
土埃で前が見えなくて立ち止まってしまうくらいなら
全てを夏のせいにして転んでしまったっていいや
とりあえずこの初恋。絶賛片想い。三遊間抜けて一塁を踏んだという表現から、なかなかの当たりで進んでいるように思われるのだけど。
『何度も君を追いかけてしまうから』青春って努力なしで手に出来たものに名付けられる事って少ない気がする。
『青春最前線全力疾走』必死に無我夢中で追いかけた先の結果も大事だけど。
結果に至るその必死さと無我夢中さ自体が青春と呼ばれるものなのではないだろうか。
『全身全霊かけて伝える』って。若さでしかなくて、若さにしかない強さ。
大好きな子の気持ちが自分に向いているかわからないからとか。告って降られでもしたら、その瞬間から関係が気まずくなるとか。
そんな事でこの、好きだ!!って気持ちを伝えず伝えきれずに。自分にある1%の微かでもある可能性を自ら潰して諦めるくらいなら。
『全てを夏のせいにして転んでしまったっていいや』って。潔く告って降られてもいい!!って言える。
それこそが、若さの素晴らしさ。青春の輝きなのだと思う。
夢から覚めても君の好きな人が
僕じゃないこともわかっていたのに
いつだって僕らは平行線
君を何度も追いかけてしまうから
青春第一条反則判定
覆してみたい
大人になればなるだけ、自分の気持ちよりも周りへの配慮を優先したり。日々の安定を守る方へ意識は向いて行く。
そうやって、大人だからと落ち着いたように言ってみせて。想いを告白する事で自分が傷つかない方を選択していくようになる。
青春って、そんな見栄とか人の事、想いを告白した後の事よりも。とにかくこの自分の中にある熱い想いを伝えて。
捕らえたいのだ。絶対欲しいのだ。もう欲望って言ってもいいんじゃないかってくらい熱い想いをどうにかする事。それが全て。
でも、ただただ押して押して押しまくるだけじゃない。想いを自分勝手に伝えて、相手の気持ちを無視なんてしない。
だってそこは野球青年。スポーツマンシップは基本です。
『青春第一条』は、まさにスポーツマンシップ。正々堂々戦う事が青春第一条。でもそこに『反則判定』がくっついてくる。
思うに、始めからこの初恋。負けている。相手がいる子に恋をしている。でも諦められない、どうにかして手に入れたい。
言葉はきついけど略奪的なやつを狙うその姿勢はちょっと道徳的にルール違反…まではいかないかもだけど、反則ぎりぎり。
だから、その判定が覆るように。「あなただから想いに応えたい」って彼女に思ってもらえる様に一途に誠実に。
「お前なら仕方ないって」。『君の好きな人』に気持ちよく負けてもらえる様に尊敬と賞賛は忘れない。
そんな姿勢でじわじわと、さりげなく彼女の隣をキープ。だからいつも『僕らは平行線』。
でも平行線ってすごい。対等かつ、隣で笑う横顔を『飽きるまで見ていたかった』って見ていられているんだもの。
恋する野球男子が狙うのは大逆転のサヨナラ勝ち
ずっと何度も言おうとしていた事炎天下で溶けて分からなくなっていた
今でも
後悔の旗を揺らす前に
胸が躍るような想像を
九回裏
君が待っている
起死回生
狙う大逆転
意中の人の笑う横顔を飽きるまで見ていたい。
もう、望みはそれだけ。その望みに後悔の旗は揺らせない。だって、その笑顔を知ってしまったのだから。
『九回裏』この回で勝ちか負けかが決まる、決死の最終回。九回までたどり着く前にコールド負けしなかったこの恋を懸けた奇跡の試合。
「もしかしたら!」って期待に胸も躍るし、大逆転のサヨナラ勝ちだって狙いたくもなるのが野球人であり、恋する男子!
君を何度も思い出してしまうから
青春最終回凡退寸前
君に会いに行く
しかし、待っていた結果は。想像も期待も大はずれ。悲しいかな『青春最終回凡退寸前』。
凡退って、野球で言うところの攻撃側がまったく塁に出られずに回を終える事を言うんです。
最終回で凡退寸前。つまりは現実には負けが見えてしまっている状況。それでも「最後の最後まで諦めない」。
だってどうしたって『君を何度も思い出してしまうから』。
このエバーグリーンの歌詞って。実は最初から最後まで「諦めない」という事が何度も歌われていて。
相手の居る意中の子に恋をしているっていう現実に諦めながら片想いしている気持ちと。
それでもやっぱり好きで諦められない気持ちが必ず対になって描かれているんです。
辛くても、厳しい状況でも。最後まで「諦めない」という心の在り方。
そこに青春という、人生の中の一瞬の輝きを「永遠」や「いつまでも」と訳される「エバーグリーン」というタイトルで歌うサイダーガールの想いを垣間みる事が出来るのだ。
このエバーグリーンが表現する青春は、何かに向かって努力し続けること、後悔が残らない様に諦めないという努力。
その努力は例え望んだ結果が出なかったとしても。ずっと失くなる事はなく、いつまでもその人の強さとなって生き続ける。
だから出だしの歌詞だけでもう、キラキラすぎて青春最高かな!って思えるくらいドストレートな人生の中の一瞬の輝きを「エバーグリーン」と歌っているのだ。
ちなみに、この歌の野球青年。ずっとずっと大人になってからも、夏になると思い出していると思うのだ。彼女の事を。
永遠に輝く青春の記憶
この世界を変えるはずだった振り抜く覚悟は出来ていた
全てを夏に置いて行った
だから三振だったっていいや
君と何度も
振り抜く覚悟。これって野球人からすると、かなりの覚悟らしい。
だって全力で振り抜いて当たらなかったら場合によっては負けが決まっちゃうから。
三振。振り抜く覚悟でアタックしたけど、結局彼女は誰かに心を預けたままだったんだろう。
青春って、嬉しい事も悲しい事もあるけど。嬉しい事よりちょっと悲しかった事の方が余計に甘酸っぱく感じるものだ。
だから、ずっとずっと胸に残るのだ。そして、そのキラキラとした輝きは。取り戻せはしないけど。
いつでも今ここにあるかのように思い返す事が出来る永遠の輝きなのだ。
TEXT:後藤 かなこ