タイトルからもわかるように、曲のテーマは「劣化実写化」。
漫画やゲームの実写映画化に対するファン心理を描いた作品だ。
しかもポジティブに喜ぶのではなく、ネガティブかつ原作への思い入れが深いがゆえの憤りなどをコミカルに表現している。
「キャラに寄せたキャスティング頼むわ またお前かよ?若手の俳優」など、皮肉りつつもリアルな「オタク」の心情が歌われる。
実写化されるほど人気の漫画には、その分コアなファンが少なからずいて、「実写化」のアオリ文にひやひやしたり、斜にかまえた態度を取ることがとても多い。
特に筆者の経験だと、そのような反応が多いのは少女マンガより少年マンガだ。
「NO MORE 劣化実写化」のMVも、架空の少年マンガ「滅びのレッカ」の実写化をメンバーが務める、という設定。
人気バンド「キュウソネコカミ」が「若手の俳優」としてデビューする。
キュウソネコカミの「NO MORE 劣化実写化」
原作読んでんの?読んでんの?これ?
監督どうすんの?どうすんのこれ?
原作読んだら読んだら負け
知らぬが仏の方がまだマシだ
サビに入る前の以上の歌詞は、とにかく映画の制作陣に向かって追求する姿勢だ。
原作とかけ離れた演出やキャラクター設定、「とってつけたような恋愛要素」や「実写オリジナルキャラ」の登場など、実写映画化での「あるある」をこれでもか!と歌詞に詰め込んでいる。
「原作読んでんの?読んでんの?これ?」と、ちょっとしつこめに追求するところも、原作マンガのファンだからこその憤りだ。
特に少年マンガだと、バトルシーンは「人間離れ」していて「再現できない」。
この辺りはMVでも追求され、ちょっと極端に演じられている。
「なんでもええけどせめて監督は原作漫画のファンであれ」という歌詞に、あらゆる実写化映画への悲痛な叫びがすべて詰めこまれ、この曲のテーマへのみごとな回答となっている。
そんなオタクにとっての「あるある」を、わざわざ歌にしてしまうところに、キュウソネコカミの魅力が詰まっている。
MVでのメンバーの、わざとらしい「破滅のレッカ」のコスプレは必見だ。
明らかに「ウィッグだな」とわかるヘアスタイルに、歌詞に合わせたちゃちなCGや記者会見の場面が、ただの皮肉におちいらず、私たちの笑いを誘う。
実際に実写映画の現場にたずさわる人たちが見たら、果たして笑えるのか……というスリルも含まれているようだ。
ぎりぎりすぎる「猛毒」が、「あるある」だよね、と曲を聴いた人に共感と笑いを誘発する。
キュウソネコカミのネタ系曲には、こういった手法で聴き手をトリコにする曲が多いように思う。
あたまから「劣化」と決めつけず、実際に観てから自分で考えよう!
ああ~意外と観てみたらおもろかったああ~自分の目で見て決めろ劣化実写化
曲はこの歌詞で締められている。
業界人への言い訳にも見えるが、はじめっから「劣化」と決めつけずに観てから自分で考えろ!というオタク達へのいましめも込められているだろう。
漫画の実写化に限らず、初めは偏見があっても。観てみると「意外とおもろい」ということは割とあることだ。
今まで猛毒と皮肉で戦っていたキュウソネコカミの、ちょっとの気弱さと優しさが、なんとなく歌詞に表れている。
暴れ回っているようで、どこか憎めない、キュウソネコカミの魅力。
コミカルなネタ曲を全力で表現しつつ、ちょっと気が弱くて、でも言いたいことは全部言っちゃうという姿勢が、このバンドの本質と魅力なのだ。
すきな漫画が「実写映画化」した時は、ちょっとこの曲を思い出して、映画館へ行ってみてほしい。
もしかしたら「原作読んでんの?」と歌いたくなるかもしれないが……。
TEXT:辻瞼