表裏一体の恋
恋模様を織り成す為の糸には、人から祝福されるもの。間違いも疑いもないものがある。その糸で織られた模様は堂々とたくさんの人の目に触れられ、慈しまれる表の模様として織り成される。しかし、織り成された表の模様の裏側にも人の目には触れられない模様が存在する。表の模様に隠れるように。
「Tragedy」=悲劇(悲劇的)というタイトルを持つ曲がある。それはこのタイトル通り最後の最後でこちらを選んではくれないであろう。始まったその時から悲劇でしかない恋の歌。
デビュー25周年を迎えますます輝きを増しながら進化を遂げているキーボーディスト浅倉大介とボーカリスト貴水博之の音楽ユニットaccess。このaccessがTragedyという悲劇の恋の歌を、accessにしか織り成せないシンクビートに乗せて歌う。
その歌詞の美しさには、表の恋模様に負けない。むしろ表にはない、秘めた想いの苦しみの先にある「人を愛する事の美しさ」に触れる事が出来る。
刺さる言葉の響き
“
瑠璃色の部屋 濡れ色の髪
秘めた眼差し 魅せ合って
揺れ動くシルエット 重ね合う鼓動
どこへも行かずここにいて
閉じてく瞳にそっと光る涙
”
どこか切なげでなんとなく胸にとげが刺さるようなチクチクした痛みを感じる曲調に歌となって届く、瑠璃色、濡れ色の髪…。あまり聴き慣れない言葉ではあるけれど、その物や様子を知らなくても言葉の響きに何故か美しさと深い闇と静寂を感じる。
瑠璃色、濃い紫みの鮮やかな青色の事で天然石のラピスラズリがそれ。その色はまるで幻想的な深海を思わせます。深い海の底の静けさと暗闇に近い青。そんな色で表現される部屋は、人目を忍ぶ二人の想いが唯一許される場所。
人目に触れて壊されしまわないように、大切に大切に守っている想い。そんな「愛している」という想いを秘めた眼差からは、全てを魅せ合い重なる鼓動の愛おしさに思わず切ない涙が溢れてしまう。
逢いたくても逢えない。次なんてないかもしれない。だから容易く約束も出来ない。悲しい二人の中で光る苦しみが『どこへも行かずここにいて』の一言に凝縮されている。
歌われる悲痛な恋心。それは歌詞の中に出てくる言葉遣いから、女性側の心情を歌っているのが解る。悲劇の恋は男性が表で守らねばならない大切な存在が在るがゆえのものだろう。
「人を愛する美しさ」にハッとする
“
許されない恋でも
刹那さ溶かす月明かり
しがみ付いた温もり
震える想い止めない
求め合って彷徨う”
この二人の恋は間違いなく『許されない恋』でしかない。しかしaccessのTragedyで描かれる許されない恋。それはあまりにも、悲しく美しい言葉で描かれてしまっている。
特にこの一節には深い悲しみと美しさが、言葉の一つ一つに表裏一体となって隠されている。
『刹那さ』は『切なさ』。読み方は同じだが、意味は異なる。刹那さとは、一瞬や瞬間というわずか過ぎる時間の事。そして、切なさは悲しさや恋しさで胸が締め付けられる感情。これは限られた一瞬とも言える二人の逢瀬の時の切なさを表現している。
『しがみ付いた温もり』『震える想い』は、抱き合う事で感じる愛おしさを、誰にも言えない、逢えない、凍えるような孤独な時間の事。その凍える孤独を溶かす様に『求め合って』しまう。しかし刹那の中で見いだせる二人の未来はない。共に求め合える刹那はあるのに、未来を求めれば二人は離ればなれ『彷徨って』しまう。
この一節の言葉の響きと表裏一体となっている意味合いには、順風満帆な恋ではないからこそ知る「人を愛する美しさ」を垣間みてしまい、ハッとさせられてしまう。
永遠に繰り返される「苦しみ」
“――――
誰かの明日を奪うんじゃなく
ささやかな週末(とき)手にしたい
そんな願い事叶うはずもない
鳴らないcallわかっている
−−−−−−−
許されない夢でも罪さえ追いかけてしまう
出口のない夜にはアナタを待つのhold you in my heart
今すぐ呼んでbe my heart again
抱き寄せ眠る横顔見つめたくて
許されない恋でも刹那さ溶かす月明かり
何もかも失くしたい
でもアナタを壊せない――――”
「人を愛する美しさ」とは何かがこの一節に描かれている。この一節は女性が許されない恋に抱く、苦しみと孤独。そして愛への諦めをいつも手にしながら、それでも相手への愛情を忘れられないという悲しみが溢れている部分でもある。
『誰かの明日を奪うんじゃなくささやかな週末(とき)手にしたい』
『抱き寄せ眠る横顔見つめたくて』
『何もかも失くしたい』『でもアナタを壊せない』
特にこの部分には、いくら愛しても、最後の最後には絶対に結ばれないという悲しみの先にある憎しみが、愛情に比例して怖いくらい心の葛藤として描かれている。
この憎しみも愛情と表裏一体なのだと思う。その感情から生まれるものは、許されない恋が終わらない限り永遠に繰り返される「苦しみ」なのだ。
この「苦しみ」。これこそがaccessが悲劇という意味のTragedyで表現する「人を愛する事の美しさ」なのではないだろうか。
自虐的と捉えられるかもしれないけれど、苦しみという感情は正負でいえば負の感情だと思う。けれど、なんの苦労もなく手にした感情ってもちろん幸せで嬉しいのは確かだけれど。その幸せや喜びに豊かさはあるのだろうか。
恋と同じでひとそれぞれではある。しかし、人が本能に近いレベルで追い求める幸せや喜びに至までに「苦しみ」が伴う事でそれは簡単に手にするより、もっともっと豊かで深い喜びに感じられるのだと思う。
苦しみの上に積み重なる幸せは絆に変わり、最後には美しい「自分の為の愛」になるのだと思う。
だからこそ、このTragedyという背徳と共にある悲劇をaccessが歌うのだ。この曲はaccessの前作から5年ぶりとなるアルバム「Heart Mining」に収録されている。このアルバムには、私たちに対して込められている愛が在る。
許される恋と許されない恋
「音楽は基本的にラブ&ピースが大事だと思っている。そんな部分も臆する事なく共感したかった。アルバムには、不透明な未来への不安、不穏な空気も描いている。それを全部受け止めたうえで1ミリでも前に進んでいけるような、一緒に歩んでいける様なものにしたかった」こう語られるアルバムの中の1曲である「Tragedy」。背徳と共に在る悲劇でしかないけれど。背徳感を自ら背負いたくて背負っているわけではないこの悲劇。
表向きで許される恋と許されない恋があるのも事実。
けれどaccessが楽曲に込めた想いに共感した私は、このTragedyという一つの純粋な愛と。許されない恋の背徳に寄り添い、少しでもその苦しみを癒すためにと美しい言葉で表現されたaccessの勇気と愛に共感し涙が零れてしまうのだ。
Tragedy 歌詞
TEXT:後藤 かなこ