カラオケで一緒に歌ってもらえるようなデュエットを作るという流れになりました。
──MAY'Sさんは『デュエットしようよ』を発売されますが、今回、デュエット曲にすごくフォーカスしている楽曲ですよね。片桐舞子:そうですね。もう完全に全曲がデュエット曲という、本当にタイトル通りの作品になりました。
──今回、なぜ、このデュエットというのを軸にされたのですか。
片桐舞子:そもそもMAY’Sで作品作りをする上で、アルバムとかの曲数が多いときに、必ずコラボ曲を入れていて。その中に、もちろんデュエットもあれば、ラッパーとのコラボもあれば、あとは何人かシンガーを呼んでやるようなコラボ曲もあったりして。だから、私たちにとっては、他のアーティストと一緒に曲作りをしたりとか、そういうふうに作品を作っていくっていうこと自体は、すごく自然なことなんです。
そういう自分たちの基本的な音楽作りのベーシックな部分がある中で、以前から応援してもらっているビックエコーさんから「今年ビッグエコーが30周年、MAY’Sはデビュー10周年、何かコラボできたらいいですね!」というお話をして下さって。それなら、カラオケで歌いたくなる新しいデュエット曲を一緒に作りましょう!という流れになりました。
──参加されているアーティストさんは、どういう感じで決まったのですか。
片桐舞子:この人とやってみたいなという人たちをセレクトというか、声をかけさせてもらいました。デュエットとなると、特に、シンガーとシンガーが1対1で歌うという部分において、誰と一緒にやるかという部分の最終的な決定権みたいなものは、割と、私にありましたよね?
河井純一:そうですね。
片桐舞子:自分の明確な基準みたいなものを言葉にするのは難しいんですが、自分の中で、この人とやったら何か面白そうなことができるかな?っていう、ピンとくる直感を大事にしています。あとは、歌い手と歌い手になるとどうしても、歌のニュアンスだったりとか、「私はここをこういうふうに歌いたいから、こういうふうに歌ってほしい」という歌のジャッジメント・ディレクションの部分で私の比重が重くなるんです。
だからこそ私自身にとって、一緒にやることで相手の新しい部分を引き出せるんじゃないかというプロデュース側の好奇心だったり、興味がすごく湧く相手というところは、特に初めてデュエットする相手に対して今回すごく感じました。
──河井さんは、『デュエットしようよ』が決まったときにどう思われましたか。
河井純一:今回、山猿とMay J.とやっている曲がオリジナルの書き下ろしで、あとの4曲はカバーなんですけれど、カバーって僕ら元々、そんなにやっていないんです。なぜなら、普通にカバーしただけじゃ面白くないなというのがすごくあって。
例えば、『恋におちたら』とか、『Choo Choo TRAIN』とか、元々デュエット曲ではないんですけれど、それをデュエット仕様に歌い分けとかを作って、そういうアレンジをしてみたり。
『Beauty and the Beast』は、ディズニーの壮大なバラードですけれど、ちょっとアップテンポにしてみたり。カバーの曲達も、オリジナルを知っていても、ぜんぜん違ったものに楽しめる感じにしたいなというのは、結構こだわって作っていきました。
──カバー曲はどのように決められたのですか。
片桐舞子:カバー曲は…。
河井純一:もう、あれだね、やりたい曲を(笑)お互いのやりたい曲を挙げていったり。
片桐舞子:やりたい曲っていうのがありつつ。あとは、この相手だったらこの曲が合うんじゃないかとか、どっちもありましたね。
やりたい曲が先にきて、この曲をやるなら誰が良いんだろうという形で決めていった曲もあれば、逆に、この人と一緒にやろう、歌おうということを決めてから、一緒にやるならどんな曲が合うだろうっていう風に。どっちのケースもありましたね。
山猿とできたっていうことが、この作品を作っていく上で、一番最初に踏み出した第一歩でした。
──ちなみに、一番最初に決まった楽曲は?河井純一:どれだろう?
片桐舞子:オリジナルの2曲を最初に作り始めていって、そこからカバー曲を決めていった感じですね。1曲目の『Forever~これが奇跡なら~』は山猿と一緒にデュエットしているんですが、今回のアルバム制作の前にすでにデモとして作っていたデュエット曲でした。
その時点ではまだ、誰とやるというのは決めていなかったんですけど、この曲に合うシンガー、この曲を完成させてくれる声をずっと探していたんです。
沢山の声を想像してイメージしている中で、山猿の声がすごく良いなと思って。声をかけた時に心良く、「一緒にやりたい」と言ってくれたので、この曲を山猿とデュエットできたっていうことが、このアルバムを作っていく上で一番最初に踏み出した第一歩でした。
──『Forever~これが奇跡なら~』は、ウエディングソングですよね。すごく幸せを感じさせてくれる楽曲だと思いました。今回、なぜ、1曲目をウエディングソングにされたのですか。
片桐舞子:1曲目をウエディングソングにしたかったというよりも、この曲をどういう曲にしていくのが一番良いんだろうという部分が大切だっただけですね。曲の制作段階で、描きたい世界観は既に自分の中にあって…。
曲自体が持っているサウンド的なイメージは、例えば”ハッピー”というものを”すごく明るい”という意味で捉えるとしたら、それだけじゃないなって。
かといって切ない曲なのかと言ったら、そうでもなくて。音自体が持っている中性的なサウンド感というのをどういうふうに表現していったら一番良い形になるんだろう?と思ったときに、何か一つラブソングとしてすごく幸せなゴールがあったとしても、そこに辿り着くまでの道のりがすべてハッピーだったかというと、きっと皆そうじゃないと思うんですよね。
辛いことがあったりとか、時には、相手と離れたいと思うことがあったりとか、本当にこの人で良いんだろうかとか、いろいろ悩んだりするじゃないですか。あとは、自分の人生の中でも辛い恋をした経験があるからこそ、多分人って、幸せがどういうものなのか気づけると思うんです。
そういった色々な波を乗り越えて、壁を乗り越えて辿り着いた愛の形。そこまでの、すべてが入っている楽曲に仕上げていきたいなっていう気持ちがすごくあったんですよ。それを表現するという意味でも、山猿の”声”というのもそうだし、彼自身が持っているイメージや彼自身の人間味みたいな部分というのが、全てがすごくはまったんです。
この曲を、より良い形にブラッシュアップして、お互いのリリックだったりを書きあったりとかしていく中で、ウエディングという一つのゴールみたいなものが、お互いに見えていたというのはありますね。特に、歌詞の中に結婚とか、そういうフレーズが出てきているわけじゃないんですけど、男女それぞれが思う、何があっても大切な人と手を取って生きていこうというメッセージが、自然と入っていったんだなと思います。
ミュージックビデオもこの世界観を表現する上で、友達の結婚式で歌のプレゼントするために集まっているという設定。それも含めて、全体的な共通のテーマだったという感じですね。
──楽曲のメロディーは、山猿さんと話し合って作られたのですか。
片桐舞子:メロディーの大枠は、デモの段階で出来ていたんですけど、山猿くんのバースの部分は、山猿くんに書いてほしいなというのがあったので、本人に書いてもらいました。
──山猿さんと一緒に制作してみていかがでしたか?
片桐舞子:楽しかったですね。実は、サビの歌詞とか何回か書き直したりしていて。男子と女子って、使う言葉遣いが違うので、女子だと恥ずかしくない言葉でも男子だとこの言葉を歌うのはちょっと恥ずかしいとか、やっぱりあるんですよ。だから、男女一緒に歌うって、実はそういう言葉選びで大きな縛りがすごくできてしまうんですね。
例えば恋愛でも男性が女の子に向けて言いたい言葉と、女の子が男性に言いたい言葉・伝えたいことってたぶん少し違ってくると思うんですけど、一緒に歌うならどこかでそこをクロスさせないといけない。サビだったりとか、一番印象に残る部分、2人で一緒に歌うという部分で、男女2人ともが同じ気持ちになれる言葉を選んでいくというところは、すごく難しいポイントでした。
なので、何回も書き直したものを、何度も山猿に聴いてもらいながら制作しました。それに対して山猿からは、「いやいや、姉さん、最初のやつのほうが絶対良かったっす」とか返答があったり (笑)
全員:(笑)
──姉さんって呼ばれているんですね(笑)
片桐舞子:はい、姉さんって呼んでくれています(笑)歌詞を渡すとすぐに電話をくれて、本人が自分が良いと思ったものをすごく素直に伝えてくれたので、ミュージシャン対ミュージシャンという部分で曲作りをしていけたというところが、すごく楽しいデュエットになりました。
──河井さんはどうですか?
河井純一:制作で一番僕的に新鮮なのは普段ずっと女性ボーカルなので、男性シンガーとやるというのは楽しいですね。キーとかも違いますし、こっち側で作っていってバッチリだろうと思って持っていっても、スタジオで歌ってみたら、なんか全然違ったなみたいな事もありました。結構人によって声も違うし、そういう試行錯誤はすごく良かったですね。
──山猿さんと一緒にやっていて、新しい発見がありましたか?
河井純一:レコーディングとかって、密室の孤独な作業じゃないですか。お家ごとのマナーとかルールがあるように、当たり前にこっちがやっていることが違ったりとか、結構あるんですよ。使う言葉が違ったりとか。
片桐舞子:あとは、レコーディングの歌の録り方とか、本当に人それぞれで。自分が歌いながら、良し悪しをディレクションしていくタイプのボーカリストもいれば、どの歌が良かったかとか、どのテイクをやり直すかとかっていうのを、ディレクションしてもらって進めていくというのが、当たり前の人もいるし。1セクションをまるっと何回も録ったやつから、良い部分をセレクトして、一つの形にしていく人もいるし。
逆に、自分が良いと思った歌のテイクを、録りながら、録り足しながら作っていくタイプもいます。結構人それぞれなのですよ。私たちからすると、今回デュエット相手をプロデュースする立場でもあったので、いかにその相手が、どういう方法で、どういうふうにディレクションしてレコーディングしていったら、一番良いテイクが録れるのか。その相手の良いテイクをどうやったら引き出せるかという部分を、曲ごと人ごとに考えながらやっていくという部分は、すごく楽しかったです。
「Forever これが奇跡なら この指に この手に 導かれよう どうか どうか 迷わずに あなたへとたどり着こう」
──レコーディングに関しては、その人その人に合わせていくというよりは、その人にも新しいことをさせるくらいの感じだったのですか。片桐舞子:それもすごくたくさんあります。例えば、あまり本人のイメージになくても、絶対にこれはできるだろうなとか。本人のポテンシャルがどこまであるかを見極めるのも、やっぱり私たちの仕事だったので。
そういう部分で、こういうことをやってみようよとか、こういうふうに歌ったらどうかなとか、引き出してあげる感覚は、人とやっているからこそある楽しみなんですよね。
──『Forever~これが奇跡なら~』の中から、一番気に入っているフレーズを教えてください。
片桐舞子:私は、頭の最初の4行の「Forever これが奇跡なら この指に この手に 導かれよう どうか どうか 迷わずに あなたへとたどり着こう」です。ここが実は一番最初にできたフレーズだったんですけれど、この部分が曲の全てを語ってくれていると思います。
──こういった歌詞が思いつくときって、だいたいどういう心境で出てくるのですか。
片桐舞子:そうですね…(笑)歌詞って、やっぱり…。
河井純一:舞子はいつも難産だもんね。
片桐舞子:難産。産みの苦しみを常に味わっているので。
河井純一:けっこう時間がかかっちゃうタイプだもんね。
片桐舞子:すごい時間がかかるんです。でも、ここのフレーズは、割とすぐに出来ました。歌詞がポエムと違うのって、メロディーがついているということだと思うんです。普通の言葉をより美しくしてくれる。メロディーと一緒だから、言葉一つ一つが、より光り輝くというか。
特にこの曲の場合、楽曲自体が持っている神秘性、中性感、その世界観がどんなことを書いても、すごく良い言葉にしてくれる曲なんだろうなというのは書く前から感じていたので。特に、ここのフレーズって男女で掛け合っているパートなので、お互いがお互いに伝えたい、どちらの気持ちでもある言葉を書きたかった。そういう思いから、生まれた歌詞です。
──酸いも甘いも知り尽くした人だから書けるんですね。
河井純一:姉さん(笑)
片桐舞子:このワードの中で「導かれよう」というのが、私はすごく好きでした。気持ちのままに、というか。
──ある意味、等身大みたいなところもあったりするんですね。すごく愛が詰まっている感じがしますね。愛ってそういうことなんだろうなって思いました。
片桐舞子:そう思ってもらえたら、すごく嬉しいなと思いながら書きました。
──河井さんはどうですか?
河井純一:僕は、山猿くんのバースの「愛しくて 愛おしくて 今すぐに抱きしめさせてお願い」です。リアルな男性だとあれなんですけれど、歌詞になったときに男の女々しさってかっこいいなってすごく思うんですよ。「今すぐに抱きしめさせてお願い」って、リアルで言ったら、ちょっと…(笑)シチュエーションとかもあると思うんですけど、ちょっと、何かあれじゃないですか(笑)
全員:(笑)
河井純一:リアルで言ったら、「おぉ…」ってなる。でも、歌詞になったときって、男の女々しさって、すごくかっこいいなって。他の男性シンガーの曲とかを聴いていても思うんですけれど。だから、特に、山猿とか、普段もすごく男らしい奴なんで。ああいう彼から、こういう言葉が出てくる、何か心の奥にある女々しさみたいな部分がかっこいいなって、すごく思いました。
──奥深いですね。歌詞にしたときに男の女々しさはかっこいい。すごく納得です。
河井純一:逆に、女の子が、「切ない、切ない、切ない」って言うんじゃなくて、「よし、もう立ち上がろう!頑張ろう!」みたいになっているのは、それはそれで可愛いなと思うし。作品だから成立するというか。逆に、すごくかっこつけまくっている歌詞を見るとさ、「なんか…」と思っちゃう、逆に。
片桐舞子:男の子の特権だよね。
──河井さんは歌詞を深読みされるのですね。
河井純一:本当ですか?(笑)
片桐舞子:けっこう歌詞にうるさい男なので。
河井純一:僕も書いたりするんですよ、たまに。
──歌詞にうるさい男(笑)
河井純一:ロマンチスト (笑)
片桐舞子:私より女心を分かっている(笑)
──歌詞を書くときに、絶対に譲れないポイントはありますか?
河井純一:僕は、2番のほうを良い歌詞にします。ファンの子とかも、たまに、「MAY’Sって2番の歌詞のほうが良いよね」みたいに言ってくれる。逆に「1番あんまりだな…」みたいな言い方に取れるときも、たまにあるんですけれど、意図的にそうしている部分もあったりして。
だって、映画で言うと、最初は面白かったけど、あとつまらなかったら、絶対逆のほうが良いじゃないですか。2番が良くなるように作るようには、心がけていますけどね。サウンド面を含めてかもしれないですけれど。
──5分間とかの中で緩急をそこまでつけるのは難しそうですね。
河井純一:発想とか、脳みそがフル回転しているのって、どうしても最初じゃないですか。力尽きていかないようにはしたいというか。
片桐舞子:2番のほうが深く書けるよね。
河井純一:そうだね。
片桐舞子:1番って、どういう曲なのかを分かってもらえることのほうが大事だったりしていて。さらにそれがどういう心境なのかとか、もっともっと深くしたことを書けるのが2番だったりするから。私もね、2番のほうが、歌詞を書いていて楽しい。
──どうやって2番に持っていこうかということを書きながら考えるのですか。
片桐舞子:それもあります。逆に、2番のほうが先にできたりするときもあります。書きたいことが2番にあったりして。
河井純一:1番を書いていて、やっぱりこれは全部2番に持っていこうみたいなね。
片桐舞子:そうそう(笑)そういうこともあります。