1. 歌詞検索UtaTen
  2. コラム&特集
  3. J-POP
  4. 女王蜂

女王蜂が叫ぶ「半分」じゃない私たち

2018年4月25日、女王蜂がシングルをリリースした。タイトルは『HALF』。テレビアニメ『東京喰種トーキョーグール:Re』のエンディングテーマだ。アニメの原作を描いている漫画家・石田スイとボーカル・アヴちゃんは交流があり、今回のタイアップをきっかけに対談も果たしている。
『東京喰種』の主人公・カネキは食人鬼・喰種と人間のハーフという設定だ。

今回のタイトル『HALF』はそこに着想を得たのか、と先走りがちだが、どうやら楽曲自体が完成したのはタイアップの話をもらう前であり、直接の関係はないようだ。

では女王蜂の歌う「半分」とは何のことなのか?

女王蜂の「HALF」



もうカッコつけてくしかないじゃん
そのまま このまま 降り注ぐひかり
ねえ 半分なんて思ったことないぜ
このまま そのまま 突き進むひかり


以上は『HALF』のサビに当たる部分だ。

「簡単な英語しかわかんない」「踊るの大好き」「憧れとコンプレックス 大渋滞」と始まる歌い出しから、「カッコつけてくしかないじゃん」と続く。

「半分」とは、中途半端に覚えたつもりの英語とか、踊ることが大好きだったり、でも憧れとコンプレックスで心が締め付けられていたりする、私たちのことなのではないか。

あるいは、歌詞を書いたアヴちゃん自身のことかもしれない。

筆者は個人的に。「お前は半端者なんかじゃない」と言ってもらえたような安心感を得た。

誰だって誰かに対して憧れとコンプレックスを二重にも三重にも持ち得るだろう。

「カッコつけてくしかない」というのはひとつのいさぎのよい諦めかもしれないが、覚悟でもある。

私たちは自分を「半分」なんて思ったりしなくていい、思うべきじゃないのだ。

また、女王蜂にとって「半分」というキーワードは、ちょっとドキドキするような、微妙なニュアンスを含んで受け取られがちだということも念頭におきたい。

例えばボーカルのアヴちゃんは性別を明かしておらず、女性とも男性とも受け取れるビジュアルイメージを保持している。

曲によって女装したり男装したりと、ジェンダーなんて語ることすらナンセンスに思えてくる存在だ。

アヴちゃんの妹でドラムのルリちゃん、ベースのやしちゃん、ギターのひばりくんの面々も、国籍・年齢は非公開。

ここにかこつけて「半分」とは何か、と語ることは容易かもしれないが、ジェンダーや国籍の問題を、明らかにもなっていないのにそんな風に語ることは、それこそナンセンスだ。

『HALF』を聴けば一目瞭然のように、この曲はそんな見かけ倒しの「半分」について歌っているペラペラな曲なんかじゃない。

アヴちゃんはまた、「ハーフという言葉が嫌い」とも語っている。

だからこそ、「半分なんて思ったことないぜ」と声高に歌っているのだ。

自分のことを「半分」なんて思わなくていい

ジェンダー、年齢、国籍、憧れとコンプレックス。

誰にでもあてはまるようでいて、あてはまっていると勘違いしているだけの人もいるだろう。

それでも、女王蜂を筆頭に、私たちは「半分」なんかじゃないし、自分のことを「半分」なんて思わなくていいのだ。

『HALF』はあるひとつの祈りがこめられた曲であり、その祈りこそ、力強く「そのまま」「このまま」「突き進むひかり」であろうとすることなのだろう。

「カッコつけてくしかないじゃん」なんて、ちょっと胸が苦しくなるような感覚も携えて、私たちは「突き進むひかり」であろうとしたいし、そうであることを祈り続けたい。

そしてその「ひかり」が宿っていることを、確かな実証をもって明らかに指示してくれたのが、他でもない女王蜂というバンドであり、『HALF』なのだと言えるだろう。

そしてこの楽曲のもつ祈りという特性が、図らずも『東京喰種トーキョーグール:Re』のストーリーとダブっていく部分に、音楽の面白さが見え隠れしている気がしてならない。

石田スイのファンをかねて公言してきたアヴちゃんだからこそ、引き寄せることのできた「ひかり」のひとつなのかもしれない。

「踊るの大好き」な私たちは、女王蜂が指し示してくれた私たちの中にも確かに存在する「ひかり」を、胸を張って見せつけて行こう。

歌いながら、祈りながら。

TEXT:辻瞼

この特集へのレビュー

この特集へのレビューを書いてみませんか?

この特集へのレビューを投稿

  • ※レビューは全角500文字以内で入力してください。
  • ※誹謗中傷はご遠慮ください。
  • ※ひとつの特集に1回のみ投稿できます。
  • ※投稿の編集・削除はできません。
UtaTenはreCAPTCHAで保護されています
プライバシー - 利用契約