大きくて分厚い唇が印象的でエキゾチックな顔立ちの彼女のその歌声は、なんともしっとりと柔らかい。
飲み物って、色んな場面に当たり前に登場する。その登場の仕方は様々で、誰かを喜ばせたくて用意する事もあれば自分を癒す為に用意する事もある。
誰かと楽しんだり、自分だけでたっぷり楽しんだり。どんな時でもそれは喉を潤して心も潤す。
UAという女性シンガーをご存知だろうか。大きくて分厚い唇が印象的でエキゾチックな顔立ちの彼女のその歌声は、なんともしっとりと柔らかい。
キンキンしない聴き心地の良い声はどこか頼もしさを感じる。
そのどこか頼もしい歌声は恋する女性の心に、何も言わず微笑みながら寄り添う友人のよう。そんなUAが歌う恋歌「ミルクティー」。
タイトルだけでもなんだか気持ちが和らぐ気がする。温かいミルクティー。たっぷりのお砂糖を入れてゆっくりゆっくり口にする。
それだけでとても心が和む。心が和んだ時にフと思い浮かぶ人がいる。まるで温かいミルクティーから立ち上る湯気の様にほんわりと思い浮かぶ。
きっとそれはその人に恋をしている証拠。そんな恋に寄り添うミルクティーの存在。
当たり前のように傍にあるけれど、その存在が持つ癒し力は煮詰まりすぎた恋にとても良く効くから頼もしい。
UA「ミルクティー」
秘密の鍵を失くした時に
初めて逢える気がしてた
人が人を好きになる理由って、きっと色々あるのだけれど。そのたくさんある理由で、どうしてその人を好きかを説明するのはなかなか難しい。
ただ「好き」って想う。そう素直に純粋に想える事が出来た時に、恋は愛に変わるのだと思う。
良いところだけを見せ合う恋から、どんなあなたも好きだから。と想えるのが愛なんだよ、きっと。と、柔らかくこの部分は言っているのだろう。
『秘密の鍵』は恋しい人がまだ自分には見せてはくれていない「ありのままのあなた」の事。
いつも笑顔で頑張っている姿を見ていて、その姿が好きではあるけれど時には苦しい事だってあるのだろうから。
無理をしなくてもいいのに…と、相手を思いやる気持ちが溢れている中に少しの寂しさが滲んでいる。
だけど、その想いはとても深くて暖かい。その暖かさは次の歌詞からとても感じとれる。
微笑むまでキスをして
終わらない遊歩道
震えてたら抱きしめて
明日までこのままで
この歌詞は二通りの受け取り方が出来る。1つは女性が男性にしてほしい事。もう1つは女性が男性にしてあげたい事。
どちらも正解ではあるのだけど、ここは後者がしっくりくると思う。
恋しい人への深く暖かい想いは、苦しそうな背中を見たならきっとこうするだろうから。
笑顔の時はもっと笑顔になる様なキスをするし。苦しい時には、少しでも元気が出るようにと微笑むまでキスをする。
だから無理に笑わなくていいよって想っている。
恋愛感情にそっと寄り添うミルクティーの存在感
星の数より奇蹟は起きる悪気のない ああ雲の裏
迷わないで抱きしめて
柔らかい頬寄せて
離れててもキスをして
ベランダのミルクティー
『星の数より奇蹟は起きる』これって、そのままの意味で。『奇蹟』は想い合える事を指しているのだけど。
『悪気のない、ああ雲の裏』には、なかなか望む奇蹟が起こらなくてやきもきしている様子が伺えてしまう。
しかも悪気がないところに、またやきもきしてしまう。
もうお互い恋が始まっている事はわかっているけど、確信を持つ勇気が足らずに心の距離は曖昧なまま迷っている。
好きな人にも想ってほしい。そんな風に想うのは当たり前の事で、その気持ちだってとても素直で純粋な気持ち。
愛ばかりが美しいなんてことはない。恋する気持ちの根本、相手の心を求める気持ちがなかったら恋は始まらない。
そんな、やきもきしてしまいながらも深く相手を想う。ゆらゆらと揺れる恋愛感情にそっと寄り添うミルクティー。
このミルクティー。しつこくもないしさりげないのに、その存在はとても大きい。
Heyうつむいたままでも
Hey無理しなくてもいいよ
この『Hey』って、まるで誰かが呼びかけて語りかけているように感じる。
人ってどうしてか恋の事になると、臆病に拍車がかかりやすかったりする。しかも、相手から少なからず好意を感じていると尚更。
それってきっと、自分の好きという気持ちから出る行動や言葉で、相手に嫌われたくない。って想う不安な気持ちからくるんじゃないかと思う。
だから恋は良いところを見せる努力をするんだろう。
この部分は、そんな努力も素晴らしいけれど、あなたが相手に想う様に。
相手もあなたの弱さを受け止めたがっているよ。とミルクティーが囁いているのだ。
実際にはミルクティーはミルクティーなのだけども。ミルクティーは癒しの存在なのだ。
恋する人の揺らぎがちな心に暖かくて甘いミルクティーは、そのカップを持つだけで手は温まる。口にすれば心も暖まるから。
きっと、この台詞のような歌詞はミルクティーを口にして心も体も暖まった事で浮かんだ前向きな気持ちなのだ。
自分の好きで嫌われたくない想いから、自分の素直な気持ちよりも相手を受け止めようと少し頑張り過ぎていた自分に気がつけたのだ。
自分の心にちょうど良い温度で恋を楽しもう
迷わないで抱きしめてなだからな片寄せて
離れててもキスをして
生ぬるいミルクティー
『離れててもキスをして』。恋する人は誰しもが好きな人と離れている時間は、少ない方がいいなって思うもの。
だけど、学生ですら勉強や部活にアルバイトなんかで四六時中一緒にいる事は難しいのだから、それが大人の恋愛になってみれば時間がないのは当たり前。
だけど大丈夫。ミルクティーって時間が経ってしまってぬるくなってもいいんですって。と、いうのも。
本来のホットミルクティーのミルクってキンキンに冷えたミルクか常温のミルクを用意するんだそう。熱い紅茶を少し冷まして飲みやすくするのが役目。
恋愛も同じなんでしょうね。熱々に想いすぎても、近寄れない。だから少しクールダウンも必要。
離れている時間こそがちょうど良い暖かさを生む。でも離れている時間を寂しさや恋しさで押しつぶされてしまわないように、『キスをして』って。
私の事をキスする時の様に、愛おしい気持ちで想ってねって。素直に自分の気持ちを自分で受け止める。
自分の好きという気持ちにだけは、時にはうつむいたっていいし。無理をしなくてもいい。自分の気持ちに素直に肩の力を抜いて楽にしていていいんだよって。
そんな風に、自分の心にちょうど良い温度で恋を楽しめれば。迷わずにやわらかい頬を寄せて、大事な人と抱き合える日がくるからねって。
ほっとする暖かさでUAのミルクティーは、甘くほんわりと今日も誰かの恋心に寄り添っているはず。
TEXT:後藤 かなこ