神様お願い抑えきれない衝動がいつまでも抑えきれないままでありますように
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神様お願い 抑えきれない衝動が
いつまでも抑えきれないままでありますように
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タイトルにもなっているインパクトのあるサビ。
「衝動」と聞くとコントロールできない予測不能なものを連想する。
“衝動的”“衝動買い”など、どちらかと言えばネガティブな意味のある衝動を、なぜここでは「抑えきれないままでありますように」と歌っているのだろうか?
別れがテーマ
――――愛など顧みない振り切ってきみは前へゆけよ
この星の上にあたしを置き去ってゆけよ
いつかふたりで見つけたあの彗星に向かって
今に追いつくぞって叫んだ声を忘れはしないよ
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穏やかなピアノのイントロからのAメロ。
「この星の上に」「置き去って」という言葉から一聴して別れがテーマだとわかる。
「きみ」に対して、手の届かないところへ行ってしまえと歌う。
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神様お願い 抑えきれない衝動が
いつまでも抑えきれないままでありますように
走ることを死ぬまでやめれない
僕らは冒険好きな流れ星
安全地帯に落ちれば死んでしまう、そんな気がする
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しかし、別れをテーマにした曲にもかかわらず、不思議と悲しみや絶望など負の感情は感じられない。どちらかと言うと、自分のもとを離れていく相手の生き方に共感するような感じだ。
「僕ら」という言葉には一種の"同志感"すらあって、励ますようなニュアンスさえ伝わってくる。
現状に甘んじてしまえば、もはや夢は遠いもの
――――愛など顧みるきみだったら愛しはしなかったよ
だからほどいたその手で必ず星を掴めよ
神様お願い 抑えきれない衝動が
安らぎや温もりを振り払って飛びますように
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「愛など顧み」ない「冒険好き」な君だからこそ好きになったんだ、と歌っているのがその理由。
いつか見た「彗星」に追いついて本気で星をつかんでほしいと願っているのだ。
でもひとつだけ心配がある。
夢見がちな人間は、その一方で現実に流されてしまう生き物でもあるということ。現状に甘んじてしまえば、もはや夢は遠いものでしかない。
だから、「抑えきれない衝動が安らぎや温もりを振り払って飛びますように」と願っているのだ。
振り絞る渾身のメッセージ
――――走ることを死ぬまでやめれない
僕らはひりひり焼ける流れ星
安全地帯に落ちれば死んでしまう感情がある
きみもそうだとずっと前から知っていた
さぁこの星の上にあたしを置き去ってゆけよ
――――
本気で夢を追う生き方には当然リスクがあるし、安定志向も否定しない。
でもイチかバチかの生き方を選んでしまう人もいて、瞬間瞬間を全力で生きている姿にはその人にしかない魅力があるのも事実だ。
自分の中の初期衝動に忠実な姿は、ある意味ですがすがしい。
そんな生き方をまるごと愛したからこそ、夢に向かって背中を押すことができるのだ。
たとえ自分が傷ついたとしても。
自身の歌を“毒”と称する日食なつこ。
どうしようもない弱さにこそ、毒は薬として効く。
その刃を自らに向けて振り絞る渾身のメッセージが「神様お願い抑えきれない衝動がいつまでも抑えきれないままでありますように」なのである。
TEXT:石河コウヘイ