青春のむず痒さを歌う『席替え』から分かる、2人の高校時代とは?
──バンドが売れても同じトーンで続けて行ってください。さて、これで終わると、Twitterが楽しい人のインタビューで終わっちゃうので、ここからハンブレッダーズの詞と歌の話をお伺いしようと思います。アルバムの話の前に少し別の話をさせてください。ハンブレッダーズの「ネバーエンディング思春期」というキャッチコピーがどういう意図を示しているのか分からなくて。
いろいろ考えながら曲を聴いていて『席替え』を聴いたときに、これはすごいなと!すごいというか、なんかこそばゆいんですよね、ほっぺたとか頭の中とか。
でらし:ああ(笑)。
ムツムロ:それはある。
──歌詞にある、「心はいつでも気まぐれで 簡単に桃色に染まるのに」って、僕もいっぱい勘違いしたなっていう気持ちが蘇ってくるんですよ(笑)。そして最後の「明日からただの知り合いなんだね でも君にとっては今までとなんら変わりはないよね」とくる。
そうだよなあ、これが現実だよなあみたいなことを言われちゃう。もう「バカヤロー!」って叫んで走りたくなりますよね。
ムツムロ:ありがとうございます(笑)。
──こういった歌詞は、どこから生まれるんですか?
ムツムロ:この『席替え』なんてもう4年前とかに作った曲なんで、どんな気持ちで書いたかっていうのはあんまり覚えてないんですけど(笑)。ただ、『席替え』っていう着想自体は、『学園天国』っていう曲のアンサーソングにしたかったんですよ。
『学園天国』って席替えする前のワクワク感を歌ってる曲なんですね。「あいつもこいつもあの席もただ1つ狙っているんだよ」から始まるんですけど、この『席替え』って曲は席替えしたあとの、例えば、中間考査から期末考査までの間の期間中、好きな子の後ろの席に座れたけど、結局何もできなかったっていう失望感を歌いたくてつくった曲なんです。
なので、どのようにできるのかは曲によるんですけど、この『席替え』に関してはそういうテーマ設定からつくったかもしれないですね。席替えのワクワク感を歌ってる曲はあるけど、席替えの絶望感を歌っている曲はあんまりないだろうなと思って。
でらし:そういう絶望感を味わったことあります?
ムツムロ:めちゃめちゃあるよ(笑)。
でらし:だからできるんですよね。
ムツムロ:あるだろ?
でらし:ありますあります。
──近くにいきたかったのに!みたいな?
ムツムロ:(笑) そうですね。でも、近くにいけたけど何もできなかったっていう絶望感のほうが僕の中に残ってるんですよね。いけなかったことより、自分の無力感というか。
──2番には学園天国の歌詞も入ってますもんね。
ムツムロ:そうですね。そうそう!
──それでなんですね。この『席替え』っていう歌もそうなんですけど、どちらかというと青春時代というか、そういう胸をくすぐるような歌がハンブレッダーズには多いイメージがあります。
だから今、そのときを生きてる学生だったら絶対共感できるし、大人の方でも聴いて、そうだったなあと懐かしんだりできる。そこがハンブレッダーズの魅力の一つと思うんです。
実際今までのファンの方からは、どのような声が届いてらっしゃいますか。
でらし:どっちかっていうと、歌詞に共感してくれているのって、学生というよりも学生が終わった人たちの反応のほうが見えやすいのかな、もしかしたら。
ムツムロ:なのかな。どっちなんだろうな。
でらし:僕だったら、例えば、『席替え』の歌詞とかでも、そういうのが終わって、「ああ、そうだったな」っていうふうに思うことのほうがあるのかなと思いましたけど。
ムツムロ:端的に言えない話なんですけど、歌詞以上に、歌詞と同じくらいにメロディーのキャッチさっていうのをすごく重視してて、そこに惹かれてくれる中高生の人っていうのはすごく多いと思うんです、われながら。でも中高生だけってわけじゃないもんね。
でらし:そうだね。
ムツムロ:でも中高生も共感してくれてるんじゃないかなあ。というのも中高生のお客さんが多いんです。
でらし:これ、繰り返しになっちゃうんですけど、『席替え』に関してはどっちかっていうと男のほうが共感できると思うんですよ。
ムツムロ:男目線で見てくれる人は、こんな青春あったなっていう感じで見てくれるのかもしれないですけど、女目線で見るときは、こういうこと思ってる男の子かわいいなっていう目線になっているのかもしれないですね。
──みんな、自分の経験を思い出しちゃうんですね。
でらし:逆に共感したいっていう人も、いるのかなと思います。こういう学園がテーマのものだと余計に。
ムツムロ:そう。どっちかっていうと青春してない人に好かれる傾向にあると思います。
──自分は経験できなかったけど、そこに理想の自分を投影して共感する感じですね。
ムツムロ:そうです、そうです。
でらし:だからライブ会場とか見ても、高校生の頃の自分っぽいやつを見つけた時は、ちょっとグッとくることもありますね(笑)。
ムツムロ:うんうん。
──お二人は高校生のときは、どちらかというと、おとなしめな青春を過ごされた方なんですか。
でらし:そうですね。
ムツムロ:いや、もうすさまじいですよ。それはもう(笑)。
でらし:僕以外の3人は中高一緒だったんでいろいろそういう話を聞いてるんですけど。僕、そもそも男子校だったんで悶々とした3年間を過ごしてきていて。行きたくても行けないみたいな、イケイケになれないみたいな。
ムツムロ:高校は共学なんだっけ?
でらし:ううん、中学は共学でしたけど、ごみのような青春を送って。
ムツムロ:中学では女の子の気を引きたくて好きなアニソンずっと歌ってたんだよね、しかも教室で(笑)。
でらし:教室にCDカセットを持ってきて、焼いたミックステープを流したりして。アニソンとか。
ムツムロ:恥ずかしい!
でらし:ああ、もう!(笑) ってこともありましたね(笑)。だから僕はそういう高校生たちに、お前らはこういう青春は送るんじゃないぞ!っていうことを伝えたいんだけど…。
ムツムロ:警鐘を鳴らしてるわけね。
でらし:でもやっぱりそういうのって男子高校生とかって絶対やっちゃうじゃないですか。ばかじゃないですか、やっぱり(笑)。でもそれをこうやって曲にされると腹立ちますよね。この野郎!と思って。
ムツムロ:そうなの、そうなの(笑)。
でらし:ほじくり返すなよって思っちゃう。
──『席替え』の裏にそんな深いテーマがあるとは思いませんでした。
ムツムロ:そうですね。あと、でらしは痛いとこを突かれるとよくしゃべります(笑)
新しいハンブレッダーズを感じさせる、今回のアルバムについて
──そんな世界観を持つハンブレッダーズですが、今回のセカンドアルバム『イマジナリー・ノンフィクション』について聞かせてください。今回のアルバムは先ほど話していたような世界観の歌と、ちょっと違う攻め方をされているなと感じました。そのコンセプトとか、つくられた想いなどを教えてほしいです。
ムツムロ:これは結構長い話になるんですけど、1月にリリースした『純異性交遊』っていう1枚目のアルバムをレコーディングしたのが、昨年の8月だったんですよ。このセカンドアルバムをレコーディングしたのが8月なんですね。だから、ちょうど制作期間というと1年ぐらいあったんです。
前回はアルバムを出すことで、ハンブレッダーズっていうバンドがここにいるんだよっていうことをいろんな人に知ってほしかったんです。そのためには歌詞に共感してもらえることが一番の方法なんじゃないかなと思っていて、共感してもらえる曲を今までずっと書いてきたんですよ。
そして『純異性交遊』をリリースして、全国各地にツアーに行って、初めてのワンマンライブが今年3月にあったんですけど、そういうライブを経てみて、思っていたほど自分って孤独じゃないんだなっていうか、自分達のバンドを知ってくれている人がこんなにいるんだっていう有り難さだったり、気づけたものがすごくありました。
だから、俺たちを知ってくれっていう気持ちがなくなったわけじゃないんですけど、人に共感してもらえるアルバムじゃなくて、この人たちがこれ聴いたらどう思うかなとか、世の中の人達が僕らハンブレッダーズの曲を聴いてどう思うかなっていうことが気になって。共感じゃなくて思考してもらえるようなアルバムをつくりたくなったんですよ。
好きになって終わりじゃなくて、この歌詞ってどういうことを言ってるんだろうみたいに、聴いている人の中で疑問符がつく音楽のほうがやっぱり自分の頭の中に残るものになっていくし、長生きするなっていうのはずっと思っていて。
だから、自分の経験だけじゃなくて、思想を歌いたかったっていうのがすごく大きいと思います。
──歌詞も結構そういう内容があります。このアルバム『イマジナリー・ノンフィクション』では、結構きつい言葉が選ばれてたりしますよね。今回聴いていて思ったのは、一つの楽曲の中に両面が出てくる歌が多いのかなと。
善と悪とか、収録されている『エンドレスヘイト』にしても、そういう行為をやってる側と聞いてる側の両方のことが書かれているように感じました。
ムツムロ:相手っていうものはすごく意識しました。あと、自分たちがちょうど子どもから大人に変わる中間地点の24、5歳っていう年齢で、僕ら4人ともイケイケで行こうぜって全部取っ払って楽しめる人間でもないし、いやいや全部真面目にしちゃおうよって傾けられる人間でもない。
その中途半端でもあるし、いろいろなことの中間にいるっていう自覚があったんですよ。それが影響してるのかなあと思います。
──そういう楽曲をムツムロさんが作られて、でらしさんはどう思われましたか。
でらし:最初にそういった共感じゃなく思想を歌うっていう点において、すごい不安はあったんですけど。
やっぱり持ってくる曲も歌詞も今までのハンブレッダーズが通してきた筋から全くそれているわけではないし、僕は不安とかには全然ならなかったですね。
──今回、いろんなテーマ、社会で起こったことについて歌われている中で、アルバムのリード曲でもある『弱者の為の騒音を』は、新しいハンブレッダーズというか、バンドの意気込みみたいなものが入っているのかなと感じました。
ムツムロ:実は前作のリード曲『DAY DREAM BEAT』は、自分たちが青春時代に聴いてきた音楽への愛を歌った曲なんです。
『弱者の為の騒音を』は逆に、自分たちが今の中高生に何を伝えたいか。今の大人に何を言えるのかを考えてつくった、いわばシュプレヒコールみたいな曲ですね。
でらし:でも、この歌詞1つだけ取っても捉え方はいっぱいあると思うんですよ。
歌詞にある「こどものままでおとなになろう」っていうのも、誰かに訴えかけてるのか、それともこれは自分たちのことを歌ってるのかとか、そういう意味でもすごく今回は共感っていうよりも、より深みの出た感じになったのかなって。
ムツムロ:それは以前のインタビューで俺が言ったことだけど(笑)。そうだね。
でらし:今日はしゃべるんだよ、俺は!(笑)
──でらしさんが冗舌で僕も嬉しいです。この曲は聴いたら考えますよね。自分はどうなんだろうとか。
ムツムロ:そうですね、ほんとに何事においてもなんですけど、行間っていうものが足りない世の中だと思っているんですよ。分かりやすい映画が流行る、分かりやすい音楽が流行る、分かりやすいお笑いが流行るっていうことに対して腑に落ちない自分がいて。
音楽っていうものは、ちゃんと相手の人に聴いてもらって1つの作品になるんだっていうことを改めて意識して、これはどういう意味なんだろうっていうのをその人に考えてもらって。
例えば10年後20年後にその曲を聴いてもらったときに違う意味に聴こえるかもしれないっていう、そこまでが曲の奥深さなのかなというふうに思って書きました。
でらし:それ、次のインタビューで僕言っていいですか。
ムツムロ:いいよ、全然いいよ(笑)。
──そしてまた違う感じの楽曲もあります。『エンドレスヘイト』は、より社会的な意思表示のような楽曲に聴こえました。
先ほどの『席替え』とかとは違って、ハンブレッダーズは社会問題を歌うところに挑戦しちゃうのかっていうふうに感じるファンもいるのかなと思ったんですけど、いかがですか?
でらし:これ、僕は初めて聴いたときに、でかい対象がいるわけじゃないと思ったんですよね。誰か対象がいるっていうよりも、もうほんと自分が思っていることをただ吐き出してるだけの歌詞なのかなって。
今の僕たちは、こういうふうにやって行こうぜ!みたいなのを大々的に呼びかけられるような人間でもないのかなって僕は思ってるんです。
だから、この歌詞を見たときに、これ、なんだ、ただ吐き出しているだけなんだなっていうふうに解釈したんですけど、どうなのかな?
ムツムロ:それはでも、そう捉えてくれたのならそうなのかなあと思います。
──そういう考える事が生まれてくることは、嬉しいことですものね。
ムツムロ:まあでも、社会的なっていうのがすごく難しいですね。社会的な思想が自分にめちゃめちゃあるかっていったらそうでもないんですけど、ただ、考えてはいるんですよ。考えないっていうことに対してすごく腹が立つ自分がいて。
だから、例えば、選挙があったときに自分なりに考えて選挙に行こうっていうのはあるし、そういう意味で社会的っていうのはあるんですけど、自分にイデオロギーがあって、それを語ろうっていう曲ではないかもしれないですね。
──そんな社会派な曲と思いきや、詞を読んでいくと韻を踏んで遊んでるところもいっぱいありますよ。そこは上手なマイルド感になっているのかなっていうのは、すごい感じました。
ムツムロ:そう、キャッチーなんですよね。アルバム全体を通しての振れ幅っていうものはすごく考えました。
例えば、これは社会的なメッセージっぽい、これはおとぎ話っぽいみたいな、いろんなことができることや、できるようになりたいっていう想いもあって、バンドでしなきゃいけないことっていうたがが、どんどん外れてきてるっていうのはあります。
昔は青春のことを歌いたいっていうのがあったけど、今は別に社会問題も歌おうと思えば歌えるし、韻踏み遊びもできるし、どこまで自分のたが外してハンブレッダーズっていう音楽になれるんだろうっていう、そういう遊び心はすごくありました。
──そうすると、このアルバムを聴いてもらった時のファンの方の反応がすごい楽しみですね。
ムツムロ:めちゃめちゃ楽しみです、それは。