「ドラマツルギー」を徹底解剖
『ドラマツルギー』は、2017年10月10日にニコニコ動画で公開された初音ミクを使ったボカロソングです。
11日には作詞作曲者であるEveによる歌唱バージョンがYouTubeで公開。
歌ってみた、踊ってみた、MMD映像など、ファンによる派生動画も数多く投稿されている人気曲です。
曲もさることながら、MV自体のクオリティも高く、見応えがあります!ラフなタッチの動き、踊るキャラクターたち。
これも『ドラマツルギー』の人気の理由のひとつです。
作曲者は歌い手としても人気のEve
作曲者であるEveは、2009年に歌い手としてニコニコ動画デビューし活動を開始。少年のような歌声が特徴的です。
現在はいくつもの歌ってみた動画が100万回再生をこえている、超人気歌い手です!
ボカロPとしては2016年12月に『sister / 初音ミク』を初投稿。
代表作は『ナンセンス文学 / 初音ミク』や『アウトサイダー / 初音ミク』などが挙げられますが、もちろん『ドラマツルギー』もそのひとつです!
シンガーソングライターとしてメジャーデビューもしており、さらにはデザイナーとしても活躍。
自身のアパレルブランドも立ち上げています。
非常に幅広い活動をしている、マルチな人気クリエイターです!
タイトルの意味を深堀り
まず、とにかくじっくり味わって頂きたいのが歌詞です。
『ドラマツルギー』は英語で書くと「Dramaturgy」という綴りになります。
意味としては演劇や戯曲についての創作方法論であり、また、社会学のひとつでもあります…と書かれても、難しいですよね。
端的に言うと「生活している中で、みんながみんな、何かの役になり生きている」という考え方のことを指します。
例えばコンビニの店員さんは「コンビニ」の「店員」という役として働いています。
でも「家」に帰ると「一人息子」、「学校」に行けば「男子高校生」という役になります。
すごく乱暴な説明で申し訳ないですが、簡単に言うとそういう意味合いです。
そんな哲学的とも言える考え方が、歌詞にぎゅっと詰め込まれています。
ということで、歌詞をじっくり読み込んで、その意味、そして自分の生き方に照らし合わせてみて欲しいのです。
するともっと、この曲が好きになるはずです!
MVのアニメーションがお洒落
さきほども書きましたが、MVのクオリティがとても高いです。
荒く、ラフなタッチで描かれたキャラクターたちが画面中を動き回ります。
中にはマスコット的な生き物(?)も登場して、動画のコメントでも「かわいい!」と評判です。
特に見て頂きたいのが、最後のサビの部分。
手で形作った空間にズームアップを繰り返し、どんどん場面が変わっていきます。
ダイナミックな演出とともに、曲も最高潮へ。
心奪われてしまいますね。
配色センスも素晴らしい。
黒、白、灰色を基調に淡い水色や赤が使われています。
曲のヨーロッパ的な雰囲気、レトロな空気感を上手く表現していますね!
ボカロPとしても非常に人気のあるMahが映像制作を担当しています。
じっくり味わって欲しい世界観
ではここからは歌詞を紹介しつつ、曲に込められたメッセージを見ていこうと思います。まずは冒頭から。
不安や悩み、苦悩が表現されている冒頭
哲学的な始まりですね。
上にも書いた通り、『ドラマツルギー』という言葉は社会学の用語のひとつです。
ここの歌詞だけだとその内容までは読み取れませんが、「人間の形は投げだしたんだ」というフレーズからは、何かから開放されたような気持ちが伺えます。
社会で生きていて、言い換えると生活している中で、何か不安や悩みがあるのでしょうか。
「劇場」と歌詞には書かれていますが、ルビは「はこ」。
劇場やコンサートホール、ライブハウスなど、ステージのある施設のことを「箱」と呼ぶ、専門用語のような言葉選びです。
そしてそこから「出らんない」「逃げ出したい」。
つまり、「劇場」は「生活」のことで、そこから「逃げ出したい」。
でも逃げられずにみんながみんな「演じていたんだ」。
ここで「ドラマツルギー」という言葉の意味合いが出てきますね。
先に書いた、誰しもが何かの役柄を演じながら生きている、ということ。
生活を劇に例えて、そこから抜け出せない苦悩を表現しています。
みんなが何かしらの役柄を演じているので、傍観者、観客はいません。
しかも役を演じている、ということで、自分が自分ではないような気持ちを、この曲の主人公は感じています。
「自分が何者なのか」誰しもが一度は考えたことがあることではないでしょうか。
モラトリアムに似た思いですね。
生活している中では様々な人と関わり合います。
そうすると、本当に色々な出来事が起きますよね。
嬉しい楽しいばかりじゃなく、「言の愛憎」とあるように、憎しみなんかも生まれてしまいます。
そうやって周りと励み、ぶつかり合ううちに「何者でもない自分」の人生がドラマチックな展開にならないかな…と主人公は考えているようです。
そして、周りの人たちも同じように考えているのです。
誰しもがドラマチックな人生を欲している。
だから「君には無理なんだ」と人に言い、自分のことは守る。
人を蹴落として自分が主役になる!というような、薄暗い気持ちが綴られています。
畳み掛けるように展開していく歌詞
そして歌詞は畳み掛けるように展開していきます。
薄暗い気持ちなんて持ちたくないですよね。馬鹿でもいいから、とにかく「前線上に立って」必死に生きていこう。
そういう気持ちをみんなが持つと「ドラマチックな展開はドットヒート」していく、と書かれています。
しかし、色んなことを考えすぎて心が折れそうになっている曲の主人公。
そこで現れたのが「アンタ」です。
具体的に誰のことを指しているのかは、歌詞の中には出てきません。
他人なのか、もしかしたら自分自身なのか。
ただそれが誰であっても「呼吸を整えてさあさあ」というフレーズからは、決意のような気持ちが伝わってきます。
曲の主人公が演じている役柄は、今「アンタ」からどう見えているのか。しかし考えても仕方ない。
嘲笑われても必死に生きるしかないんだ!こんな思いが感じられませんか?
何も同じ役柄なんてない
曲の最後の歌詞です。
前半は1番のサビから登場しているフレーズですね。「君」も一緒だ、役柄を演じているんだ。不安を抱えていて、心がざわついているはずだ。
でも必死に生きて、先に進もう。その先には「黒幕」がいるから。
ここで言う「黒幕」は、単純に悪役のことを言っているようには感じられません。
不安の原因のことではないでしょうか。
生きていく上で、自己確立をするなかで、それを阻む存在。
「その目に映るのは」で曲が締めくくられていますね。
不安の原因は人それぞれ違います。
あなたの目に映った「原因」はなんだった?という風に取れるフレーズです。
このように、読み解けば読み解くほど深い内容です。
もちろん、この歌詞を読む人によって、違った解釈も生まれるはずです。
人によって解釈が変わる…それがこの曲の重要なポイントのように感じます。
「人それぞれ」って便利な言葉ですけど、何十億人もいる人間を、その言葉だけで括るのは難しいですよね。
誰もが役柄を演じていて、そして同じ役柄なんてない。
あなたもぜひ、自分の「役柄」は何なのか考えてみませんか?
TEXT 荒木若干