ボカロ流行のきっかけとなった曲
『千本桜』はボーカロイド(通称:ボカロ)というジャンルで瞬く間に広がりました。
パソコンで楽器の音を打ち込んで楽曲を作れるようになった中で、唯一まだ人間の「声」は試されていませんでした。
そこで2000年初頭にボカロの開発が始まり、初めてボカロが発売されたのは2004年ごろ。
発売当初はコーラスや仮歌の利用を主として作られたそうですが、技術を重ね2007年頃にはリードボーカルを作成できるようにまでなったそうです。
そして2011年。
クリエイターである黒ウサの作詞・作曲によるボカロ曲に初音ミクをボーカルに起用し「千本桜feat初音ミク」という形で動画サイトへ投稿し、瞬く間に日本のみならず世界で人気を得ました。
『千本桜』が持つ魅力のひとつに、日本を表す「桜」を題材にしていることです。
また音階も日本の古典曲で多く使われている「ファ」と「シ」の音を抜いた音階も使っていることから、より「和」の雰囲気が表現され、それをポップス調の音楽で構成しています。
さらにMVは可愛い和テイストのイラストで描かれており、視覚でも聴覚でも和と洋の融合を楽しめますよ。
時代を象徴する言葉の意味
「千本桜」は日本語の1音に入れる言葉の多さを上手に利用しているように感じます。ボカロ曲は息継ぎを考えなくても良いことから、思いっきり歌詞を詰め込み表現できますね。
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大胆不敵にハイカラ革命
磊々落々反戦国家
日の丸印の二輪車転がし
悪霊退散 ICBM
環状線を走り抜けて
東奔西走なんのその
少年少女戦国無双
浮世の随に
≪千本桜 歌詞より抜粋≫
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百戦錬磨の見た目は将校
いったりきたりの花魁道中
アイツもコイツも皆で集まれ
聖者の行進 わんっ つー さん しっ
禅定門を潜り抜けて
安楽浄土厄払い
きっと終幕は大団円
拍手の合間に
≪千本桜 歌詞より抜粋≫
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この曲はイラストも併せてみると時代背景は明治〜大正を描いていると思われます。怒涛の時代を生きた人や情景をアップテンポに合わせて歌い上げる様は圧巻ですね!
歌詞の中にはその時代の象徴ともとれる「花魁道中」や「将校」といった言葉がある中で、「反戦国家」「悪霊退散」「断頭台」といった不穏な言葉も曲全体に散りばめられています。
これだけでこの時代は激しかったということが読み取れます。この時代を生きた人たちは何を思って生きていたのか。それを考えると少し胸が切なくなります。
テンポアップの曲中で描かれる繊細な千本桜
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千本桜 夜ニ紛レ
君ノ声モ届カナイヨ
此処は宴 鋼の檻
その断頭台で見下ろして
三千世界 常世之闇
嘆ク唄モ聞コエナイヨ
青藍の空 遥か彼方
その光線銃で打ち抜いて
≪千本桜 歌詞より抜粋≫
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サビの中で表されている切なさと残酷さの情景が多くの人たちに刺さるのではないでしょうか。
君の声も届かないほど風が吹き、千本桜の花びらが散っていく。
これはリアルに届かないことも描いていますが、心の声も届かないという二重の意味があると解釈できます。この一文だけで切なさがグッと込み上げてきますね。
「断頭台」は耳に馴染まなかった言葉だったのですが、調べてみると「罪人の首を切る台・ギロチン」とありました。
断頭台の足元で宴が繰り広げられている、でもその宴自体も「鋼の檻」と綴られているように閉ざされた世界というように読み取れます。
断頭台と宴、どちらがこの時代にとって幸せなのでしょうか。その後に続く「三千世界」は仏教でいう「宇宙」、「常世之闇」は「死後の闇」となり「真っ暗な闇」を表しているのでしょう。
そんな場所で「嘆ク唄モ聞コエナイヨ」と言われたらただただ不安でしかないですよね。ですが、その後にその風景を「光線銃で打ち抜いて」と歌っています。
不安はあるけれども強く生きる人々の行動を描いているように思えます。表現が荒々しいですが、この曲の時代背景と合っていて妙に納得しました。
ボカロの曲を歌う難しさ
ボカロ曲は先述のように息継ぎを考えなくてもいいため、実際に人が歌うととても難易度が上がります。ですが、この『千本桜』を含めボカロ曲を歌ったアルバムでデビュー当初から一躍有名になったのが和楽器バンドです。
彼らのスタイルである和楽器と洋楽器の融合が、『千本桜』そのままを表していますね。
ヴォーカルの鈴華ゆう子は彼女の得意とする詩吟を使ってこの曲を3次元で演奏することに成功しました。それがさらに『千本桜』を世界へと導いたと思います。
怒涛の時代を生きた日本人たちを強く繊細に表現した一曲。時代が変わっていってもきっと語り継がれるのではないでしょうか。