全米ナンバー1『thank u, next』
アリアナ・グランデ(Ariana Grande)初の全米ナンバー1ヒットとなった『thank u, next』。元カレたちの名前をあげながら「ありがとう 次に行くね」と歌うセンセーショナルな内容でリリース当初から大きな反響を巻き起こしました。
アリアナ自身またファンにとって特別な意味合いをもつ1曲となった『thank u, next』。
なにがこの曲を唯一無二のものにしているのでしょうか?
それを知るためにアリアナ(Ariana Grande)の足跡をふり返ってみましょう!
デビューと運命の出会い
アリアナ・グランデ(Ariana Grande)は、1993年6月26日生まれ、アメリカ・フロリダ出身。15歳にしてブロードウェイの舞台に上がったアリアナ・グランデは、ミュージカルドラマ出演を経て、2013年にアルバム『ユアーズ・トゥルーリー(Yours Truly)』で全米アルバム・チャート初登場1位という華々しいデビューを飾ります。
同作からはのちに交際相手となるラッパーのマック・ミラー(Mac Miller)をフィーチャーした『ザ・ウェイ(The Way)』がヒット!続く2ndアルバム『マイ・エヴリシング(My Everything)』(2014年)も全米1位を獲得し、順調にトップスターへの階段を上っていきます。
Ariana Grande - The Way ft. Mac Miller
10代から“ネクスト・マライア”と呼ばれたソプラノボイスに加えて、天使のようなルックスとチャーミングなキャラクターを兼ね備えたアリアナは、人気者になるために生まれてきたような存在。
当然、言い寄る男も多く恋のうわさが絶えないアリアナは、相手が変わるたびにスクープされてしまいます。
そんなアリアナに運命の出会いが訪れます。2016年8月頃から『ザ・ウェイ』で共演したマック・ミラーと本格的に交際スタート!「出会う前から互いのファンでリスペクトしていた」という2人はベストカップルとしてメディアをにぎわせることになります。
マンチェスターでの…
順調なプライベートを反映するように3rdアルバムの『デンジャラス・ウーマン(Dangerous Woman)』(2016年)をリリース。ニッキ・ミナージュ(Nicki Minaj)やフューチャー(Future)など大物ゲストをフィーチャーし、大人の雰囲気を前面に押し出した傑作アルバムをひっさげて過去最大規模のワールドツアーへ向かいます。しかし、そこには悲劇が待ち受けていました。
Ariana Grande - Into You
2017年5月22日、イギリス、マンチェスターでのコンサート終了直後。会場アリーナに爆発音が鳴り響きました。23人が死亡、59人が負傷する自爆テロが発生。ツアーは中止を余儀なくされます(その後再開)。
broken.
— Ariana Grande (@ArianaGrande) 2017年5月23日
from the bottom of my heart, i am so so sorry. i don't have words.
(和訳)
「打ちのめされた。心の底から残念に思ってる。何と言っていいかわからない」(事件直後のツイッターより)
大きなショックを受けたアリアナ。テロの惨劇を乗り越えるのは決して簡単ではありませんでしたが、そこで大きな支えになったのがマック・ミラーの存在。マンチェスターで開催されたチャリティーコンサートでも、アリアナのそばにマックが寄りそう姿が世界中に報じられました。
別々の道そして2枚の傑作
白人でありながらR&Bやヒップホップを愛し、自ら楽器を操ってトラックメイク、プロデュース、デザインまで手がけるマックは他のラッパーたちから一目置かれる存在。アーティストとしてのアリアナを深く理解するマックとは互いをソウルメイトと呼びあえる関係でした。
Mac Miller - My Favorite Part (feat. Ariana Grande)
一方で、マックはアルコール依存症とドラッグの問題を抱えていました。交際当初から何度も依存症をやめさせようと試みてきたアリアナ。一時は断ち切ることに成功しますが、しばらくすると戻ってしまう日々。その中で起こる恋人同士のすれ違いと倦怠期。こうして2人は別々の道を歩むことになりました。
マックと別れたアリアナはコメディアンのピート・デヴィッドソン(Pete Davidson)と電撃婚約し、ファレル・ウィリアムズ(Pharrell Williams)を共同プロデュースに迎えたアルバム『スウィートナー(Sweetener)』をリリース!
ふっきれたような『ノー・ティアーズ・レフト・トゥ・クライ(No Tears Left To Cry)』やトラップのリズムにソウルフルなヴォーカルが融合した『ゴッド・イズ・ア・ウーマン(God Is A Woman)』など、アーティストとしてネクストレベルに進んだことを感じさせる同作は3作目の全米ナンバー1を獲得します。
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Ain't got no tears left to cry
So I'm pickin' it up, pickin' it up
≪no tears left to cry 歌詞より抜粋≫
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(和訳)
もう流す涙は残ってない
だから上を向いて立ち上がるの
Ariana Grande - no tears left to cry
アリアナを失ったマック・ミラーは2018年8月にアルバム『Swimming』をリリース。深みのあるメロウなトラックと内省的なリリックは傑作と呼ぶにふさわしい内容でしたが…
thank u, next
ふたたびアリアナを悲劇が襲います。2018年9月7日、マック・ミラーが薬物の過剰摂取により死亡。26歳でした。あまりに早すぎる死に多くのセレブが追悼コメントを発表。沈黙を守っていたアリアナも、マックとの日々をふり返るようにインスタにコメントを投稿します。
(和訳 ※一部抜粋)
「19歳ではじめて会った日から、あなたのことが大好きだった。あなたがもういないのが現実とは思えない。私はいますごく怒っているし、悲しくて途方にくれてる。あなたは長い間ずっと誰よりも最愛の親友だった。あなたを治してあげられなくて、痛みを取り除いてあげられなくて本当にごめんなさい。どうか安らかに」
ピートとの婚約も解消したアリアナは、一時は何をする気力も湧かず、ツアーもキャンセルするつもりだったと言われています。
そんなアリアナを救ったのは音楽でした。親しい友人やプロデューサーたちとのセラピー代わりの曲づくり。そこから生まれた1曲が『thank u, next』でした。
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Thought I'd end up with Sean
But he wasn't a match
Wrote some songs about Ricky
Now I listen and laugh
Even almost got married
And for Pete, I'm so thankful
Wish I could say, "Thank you" to Malcolm
'Cause he was an angel
≪thank u, next 歌詞より抜粋≫
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(和訳)
ショーンといっしょになるつもりだった。
でも合わなかった。リッキーのことで曲を書いたの。
いま聞くと笑っちゃうけど、あと少しで結婚しそうだった。
ピートには感謝してる。
もし叶うならマルコムにありがとうって言いたい。
彼は天使になってしまったから…。
これまでにつきあった元カレの名前をあげて「ありがとう 次に行くね」と歌うサビのインパクトはすさまじく、リリースからしばらくは反響が止まりませんでした。それもそのはず、トップクラスの人気を誇る歌姫がゴシップをすべて自分から認めたのですから。
歌には亡くなったマック・ミラー(マルコム)や婚約破棄したピート・デヴィッドソンも登場し、あまりに正直すぎる歌詞として絶賛されます。
しかし『thank u, next』が突き抜けている理由は実はこの後のパートにあります。
悲劇のヒロインにはならない
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One taught me love
One taught me patience
And one taught me pain
Now, I'm so amazing
Say I've loved and I've lost
But that's not what I see
So, look what I got
Look what you taught me
And for that, I say
Thank you, next (Next)
Thank you, next (Next)
Thank you, next
I'm so fuckin' grateful for my ex
≪thank u, next 歌詞より抜粋≫
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(和訳)
ひとりは愛を
ひとりは忍耐を
ひとりは痛みを教えてくれた
そうやって私はとびきりの自分になった
愛して失った
でもそれは私が学んだものじゃない
私が手にしたものを見て
それはあなたが教えてくれたもの
だから私はこう言うの
ありがとう 次に行くね(次に)
元カレ達にクソほどの感謝を
Ariana Grande - thank u, next
決して元カレたちをディスっているわけではありません!たび重なる失恋や愛した人との永遠の別れ。20代半ばのアリアナも相当なダメージを負ったはずです。
しかし「愛して失った」ことは自分が学んだものではないと言い切っています。ではアリアナは何を手にしたのでしょうか?
その答えは、元カレたちが教えてくれた「愛」「忍耐」そして「痛み」。皮肉のように聞こえますが、その結果、自分はこんなに強くすばらしくなれたんだと歌うのです。
困難に遭遇してもアリアナは自分を見失わなかった。だからこそ元カレたちにも「クソほどの感謝」を贈ることができるのです。
後半では自分自身との出会いとそこから学んだものを歌っています。
「他責」でも「自責」でもなく、すべてを受けとめながら軽やかにそれらを“過去”に変えて進んでいく、運命さえも超えていく強さ。
そうでもしなければ乗り越えられないような逆境だったとも言えますが、そこに悲壮感はなく笑い飛ばすような余裕さえ見せます。
2010年代の女性アーティスト、ビヨンセ(Beyonce)やテイラー・スウィフト(Taylor Swift)たちが音楽を通して訴えてきた女性の権利。アリアナ(Ariana Grande)はそこから一歩進んで、とびきりの自分自身になるという新しいカラーを加えました。
まさにアリアナにしか歌えなかった1曲が『thank u, next』。
2019年3月から開始される『Sweetener World Tour』では、スタジアムを揺るがすような大合唱と最高のスマイルを目撃できるはず。
来日決定を楽しみに待ちたいと思います!
TEXT 石河コウヘイ
Ariana Grande(アリアナ・グランデ)は、1993年生まれのアメリカ合衆国の歌手であり俳優である。 幼少期から歌うことを楽しみ、サウスフロリダのフィルハーモニーに入団し活動していた。 8歳の頃にはアイスホッケーのゲームでの国歌斉唱でTVデビューをし、10歳でグループ”Kids Who Care”を結···