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「Blank Envelope」ーNulbarichの実体と空白

『H.O.T』のNulbarichは、一作ごとの成長という甘い常識が、絶対出会うことのないもしもの世界の中だけに存在するモノだった。そして新作『Blank Envelope』で、彼らは”もしも”から”実態社会”へその存在を見事に移動させた。

二律背反が生み出すなめらかな世界観

逸脱した輝きが眩しくない「All to Myself」


ここまでたたみかけるようにメロディーを収納しながらも、アーティストからの”達成感のサイン”が全く出ていないのは、彼らが持つ魔法の箱のせいだろう。

許容できる音楽的耐性があまりにも絶対的であるため、多量 多彩が起こす眩しさを放つことなく、音の一つ一つは、ただエモーショナルな方向にだけ歩いていくことができる。心地よい音楽の概念を覆した革新的な一品だ。

過去へのスリップがかっこいい「JUICE」


70年代風ドラムイントロからストリングスへの入りが本当にイカしている。「How you doing?」から「This is my request」まで大人の停滞気味の駆け引きで持っていき、「Going back in my memories」から焦らず慎重に加速していき、ディスコサウンド系ギターソロが絡んでいく。

築き上げた音は確かに昔に後退しているが、そこにノスタルジアな意図はない。後退することによって、過去の音楽が持っていた未知数を今ここに再現しているのだ。未完成なおしゃれ感。その成熟が見事だ。

半端ない緊張感がさわやかな「Focus On Me」


背を向けた状態でアクティブに進んでいくメロディーライン。そしておそらくサビだろう、「Even if it’s gone」から「and we will curry on」のボーカルともコーラスともつかない音のシャワーに圧倒される。

それ以下でもそれ以上でもない、人間が必死で求める”適当”。そのライン限界に貼りつくようにJQは「なんとなくうまくいかないこと」をつぶやいている。彼にとって歌うことは歌うことではない。最良な道へと向かう攻撃的放棄なのだとさえ考えてしまう。陰鬱と爽快がスイートルームに対峙しているといった作品だ。


方向性の乖離に圧倒される後半の2曲

ブランクなイズムが生んだディスコサウンド「Super Sonic」


70年代ディスコサウンド。ただ当時の音をまるごと持ってくるのではなく、アレンジはハイレベルなスピード感で攻め、逆にボーカルは普段通りの冷静さを保つことで、”今を生きている作品”に仕上げている。

これまでのNulbarichの作品には珍しい、エロく退廃的な香りがするが、とってつけたような新鮮味はなく、「なにも変わらない これからも」という空白のイズムが見て取れる。ビビットな音に潜む彼らの底知れぬ深みに酔う。


音の構築が創る音の解放「Stop Us Dreaming」


壮大なサウンドスケープに圧倒される。それは大草原をみて自然の美しさに感動するのとは違う。計算しつくされた音の構築が何もない”無”となっているのだ。

核となるフレーズ「Ooo Ooo Ooo Ooo Ooo Ooo」は、音だけ拾えば実に不快で不吉なメロディーでありながら、あとに続く「Yeah yeah」の不揃いな人間臭い”コール”のせいで、”すべての人類に付きまとう縛りや、ルールからの解放への”音”に昇華している。

音楽に背負わされた種別、文化といった枠が取り外され、音の流れのみが、たった一滴のしずくとなって、この手のひらに残った瞬間の喜びを感じる傑作である。


実体ある覆面バンドNulbarich。彼らは今後も己の影を見せないまま活動を続ける。それは音楽は名前(アーティストの格)で聴くものだった時代の終焉を意味する。



音楽はもっとシンプルでなければいけない。しかしNulbarichの音楽は緻密で解読不能だ。シンプルであり複雑。この矛盾がNulbarichそのものなのだ。

TEXT 平田悦子

シンガー・ソングライターのJQが (Vo.) がトータルプロデュースするNulbarich。 2016年10月、1st ALBUM「Guess Who?」リリース。 その後わずか2年で武道館ライブを達成。即ソールドアウト。 日本はもとより中国、韓国、台湾など国内外のフェスは既に50ステージを超えた。 生演奏、またそ···

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