『FRIENDSHIP』というアルバム
──収録したどの楽曲も、日常に近い視点で物事を歌詞に記していません?
伊藤ふみお:そうですね。もちろん、全体的に聴いてて気持ち良い音楽として、言葉も、リズムも重視しています。
──だから曲調にも幅を持たせたわけだ。
伊藤ふみお:そうなんです。
──『Lonely Shadow』のような、ダブの要素を活かした楽曲も格好いいですよね。
伊藤ふみお:楽曲の合間にダブの要素を入れたことで、すごく良くなった。そのダブの演奏も、エンジニア任せにするのではなく、各プレイヤーがライブでちゃんと再現出来るようにと、それぞれに出来る範疇の中、ダブ的なアプローチを行いながら録っているんですよ。
──収録したのは、どれもライブを想定しながら作った曲たちだったんですね。
伊藤ふみお:バンド編成で作った曲に関しては、ほとんどオーバーダビングをしてないどころか、スタジオで一発録りのライブ録音をしています。しかも、クリックもカウントもなしで録りました。
──その臨場感が大切だったわけだ。
伊藤ふみお:そうですね。2トラックしかない60年代のジャマイカのスタジオでレコーディングをしている雰囲気になるべく近づけるようにしました。
──アルバムの流れも良いですよね。
伊藤ふみお:適度に踊れて、適度に聴けて。そんなアルバムを作りたかったんだけど。同時に、一人で聴いてるときにも「伊藤ふみおを側で感じれる」、そんなアルバムにしています。
──『POSITIVE』はアコギとパーカッションのみのシンプルな編成。にも関わらず、熱いエナジーあふれる音楽として響いてきました。
伊藤ふみお:演奏したメンバーたちも、作曲してくれたKEMURIのベースの津田くんも、伊藤ふみおのことをよくわかってくれている人たち。それによる効果も大きかったんじゃないかな。『FRIENDSHIP』というアルバムは、参加した人と人とが予想以上に深く繋がりあえたことで生まれた作品ですから。
いろんな人が集まって、『FRIENDSHIP』といういろんなリキュールを混ぜ合わせたカクテルが出来たように、とっても美味しいお酒が生まれた気持ちです。
──演奏面でも、参加したプレイヤーの方々がいい味を出していますよね。
伊藤ふみお:もう最高でしたね。ドラマーの山口美代子(BimBamBoom)ちゃんは、僕のわがままを快く受け入れ、キャノンタムという細長いタムを「わたし叩いたことないけど」と言いながら叩いてくれて、何事も前のめりに捉えて参加してくれたし。ギターの岡愛子ちゃんはテレキャスターにこだわって弾いてくれた。
その真ん中に、たっちゃん(tatsu(LÄ-PPISCH))がいてくれたのも頼もしいこと。彼は僕のこともよくわかっていますから、上手くバンドをまとめてくれたのが本当に大きかったですね。3人とも16ビートをきちっと表現出来る人たち。何より、出している音にすごく共感出来る人たちと出会えたのはとても嬉しいことでした。
──最高のチームワークで制作していたんですね。
伊藤ふみお:ホント、そうです。みんな、そのときの瞬間を切り取ってくれた。それがいい按配按配で出来たなという。なんかいろんな人が集まって、『FRIENDSHIP』といういろんなリキュールを混ぜ合わせたカクテルが出来たように、とっても美味しいお酒が生まれた気持ちです。
──1曲目に収録した『Rusty Nail』にも、「Rusty Nail」という名前のカクテルが登場します。それも、実際にあるカクテルなんですか?
伊藤ふみお:実際にあります。リキュール系の少し甘めなお酒とスコッチウィスキーを混ぜて作る、ちょっと甘くて強い、僕の好きなカクテルです。最後のシメとして、ガツンとお酒のデザート変わりに、甘めのお酒として呑んだりもしています。
その人との繋がりでしか出来ないことをやっていきます
──歌詞に関しても、アルバムでは肩肘張らずに。むしろ日常を切り取り、そこへスパイスを加え書いている内容が多いですよね。伊藤ふみお:ほんと、そうですよ。KEMURIを再結成する前から、それこそ10年前くらいに子供に『Pizza Margherita』という曲を作るという約束してから10年くらい経った、そのすべての時間を詰め込んだアルバムなので。
──本人としては、いろんな想いを詰め込んだ作品になったわけですね。
伊藤ふみお:そうですね。『Brave Heart for Glory』は、個人的に友達(プロラグビーの堀江翔太(パナソニックワイルドナイツ)選手)に贈った楽曲。それを、こうやってアルバムに入れさせてもらえる。友達に対する本当に純粋な応援の言葉が。自分自身に対する励ましの言葉になってもいるように、いろんな刹那の想いが詰まったアルバムになっているなと思います。
──このアルバムを手に、次はライブでしっかり詰め込んだ想いを消化していく形だ。
伊藤ふみお:そうですね。何より、KEMURIはKEMURIで、伊藤ふみおのソロは伊藤ふみおのソロで、よしこれでやっていこうと、いろんなことが、このアルバムを作ったことですごく明確になりました。
──今後も、KEMURIと伊藤ふみおソロというスタンスをしっかり保ちながら、上手く分けて表現し続けていくわけですよね。
伊藤ふみお:そうしていきます。その人との繋がりでしか出来ないことを、ソロで作る音楽に関してはライフワークとしてやっていきます。
──ぜひ、お勧めの歌詞も教えてください。
伊藤ふみお:いろいろあるんですけど、『Rusty Nail』の歌詞を読みながら、ぜひRusty Nailというカクテルにトライしていただけたらいいなと思います。他にも、けっこう「食べる」「飲む」「楽しむ」系の楽曲が多いです。ぜひ『Pizza Margherita』はマルゲリータ王女に想いを馳せながら聞いてください。
人って、食べたり呑んだりすることが何よりも楽しいと思えるときじゃないですか。でも、人はそういうときばかりではなく、気持ちが落ち込んだりするときもある。そういうときは『Brave Heart for Glory』を聴きながら、「まだまだいける」と自分に言って欲しいですね。
──まさに、日常の中でのいろんな気持ちに当てはめることの出来る曲たちばかりなんですね。
伊藤ふみお:そうですね。いろんな心の状態がありますけど、「こんな想いをしている人もいるんだ」と感じながら聴いてもらえたらなと思います。
好きな酒から何から全部口に出して歌っています
──完成したアルバム『FRIENDSHIP』、今のふみおさんにとってどんな作品になりましたか?伊藤ふみお:次の10年をすごく感じさせる1枚になったと思います。長い間、音楽をやっていると、自分が歳を取った気持ちになる瞬間ってあるんですよ。でも、その気持ちを打ち負かすような。それこそ『Brave Heart for Glory』の歌詞で連呼しているように、「まだまだいける」「まだまだ次の10年くらいいけるな」と感じさせるアルバムになりましたからね。もともとは、友達に「まだまだいける」と言いたくて書いたんですけど。その言葉は、何時しか自分にも言ってる言葉にもなりました。
──アルバムを作りながら、自然と自分も鼓舞していた形だったのでしょうか?
伊藤ふみお:そうですね。無理やりというよりは、ほんとに自然にそう思えていた部分が大きいですね。
──KEMURIとソロの場合では、歌詞を書くモードは違いますよね。
伊藤ふみお:ぜんぜん違いますね。KEMURIの場合は、自分だけのことを考えた歌詞は書かないです。KEMURIとしてこういうことを言っていいんだろうか。津田くんの書いた曲に対して、こういうことを言って本当に説得力があるんだろうかなど、いろいろ考えたうえでメッセージしていますから。
──より、外へ向けてメッセージしてゆくのがKEMURIにおける歌詞を書くときのスタイルだ。
伊藤ふみお:そうですね。ソロは、自分の言いたいことを全部言っている形。好きなお酒から何から全部口に出して歌っている感じです(笑)。
──アルバム『FRIENDSHIP』には、ふみおさんの芯となる音楽の姿勢やルーツが貫かれています。それがあるからこそ、多岐に渡ったジャンルを表現してもぶれずに聞けるんだなとも感じました。
伊藤ふみお:そう言っていただけるとすごく嬉しいです。ホントに、そこがねぇ一番大変かなぁと思っていたことだったので。アルバム『FRIENDSHIP』は、英語の歌詞も日本語の歌詞もと、けっこう雑多に散りばめられたミスクチャーなアルバムだと思うんですよね。まさにカクテルなアルバムというか、そこを味わってください。
──4月7日には新代田FEVERでライブを行います。
伊藤ふみお:アルバムに参加してくれている岡愛子、山口美代子、tatsuと一緒にライブをやります。翌週にはKEMURIのツアーも始まりますし、まずはそこで伊藤ふみおの活動にしっかり区切りをつけ、そのうえで、またタイミングを見計らってソロワークも継続していきます。
Interview 長澤智典
Photo 愛香