「ロック界の奇行師」アルカラとは?
アルカラの代表曲『キャッチーを科学する』。アルカラは実力派バンドです。2002年に神戸で結成。2010年以降は東京に出てきて活動しています。自称「ロック界の奇行師」。ボーカルの稲村太佑はライブ中、常に首にタンバリンをかけています。
「キャッチー」なメロディという言葉があるように、この曲はキャッチーなメロディを研究している作品。サビの「ぐるぐるぐるぐる」という歌詞が頭に残りやすい曲です。まさにタイトル通りキャッチーなメロディを科学的に解釈して作っている作品。
しかし歌詞の内容はもっと壮大です。まず歌いだしから魅力的。
キャッチーを科学する
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文明 開明 聡明 木火土金水 操って
結合 融解 発明 繰り返した
闇に光浴びせ 笑顔もたらし
時に武器にして 傷つけ合ったとさ
それを歴史という名前で呼んで
頭につめ込みお受験戦争
≪キャッチーを科学する 歌詞より抜粋≫
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これは人間が歩んできた文明の歴史を歌詞にしています。韻を踏みながらきちんと意味あるものにし、次に来る「それを歴史という名前で呼んで」につなげています。
特に「木火土金水」はサビに出てくるフレーズの伏線になっています。また「傷つけ合った」が「お受験戦争」にかけてあるのは勿論、後半の歌詞の伏線にもなっているのもポイント。
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3.141592653589(3.14以後 急にロックが降参 ゴーヤ食う)
794(鳴くよ)ウグイス 894(白紙)にもどそう
水兵リーベ僕の船 七曲りシップ クラーク先生
≪キャッチーを科学する 歌詞より抜粋≫
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学問の覚え方を歌詞にしています。円周率の覚え方良いですね。
そしてサビ。
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水.金.地.火.木.土.天.海.冥 中には曜日の名前になって
ぐるぐるぐるぐる 定義された世界で
水.金.地.火.木.土.天.海.冥 中にはギリシャの神話になって
ぐるぐるぐるぐる定義された世界で 今宵もまた歌う
≪キャッチーを科学する 歌詞より抜粋≫
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「水.金.地.火.木.土.天.海.冥」をリズミカルに歌うのも良いですが、これを「中には曜日の名前になって」「中にはギリシャの神話になって」と表現しているのがポイント。
まず、サビ前から来ている学問の覚え方として今度は「すいきんちかもく…」が出てきます。天体の順序ですね。さらに天体、暦、神話の関係を示しています。科学と歴史をここで結んでいるんですね。
これに人が「発明 繰り返した」材質「木火土金水」も入れています。科学も歴史も学問の覚え方も全て人が「定義」した「世界」であると言っています。
散りばめた伏線をサビで一回回収しているんですね。
天体が「ぐるぐる」回っている「世界」で、人はこの世界を解明するために来る日も来る日も「ぐるぐるぐるぐる」と色々なものを「定義」していく。そういった壮大な人の世界の営みを「すいきんちかもく」「ぐるぐるぐるぐる」とあくまでも「キャッチー」に聴かせています。
男女の物語で身近な世界にも近づける
同時進行で「男の子と女の子」のストーリーが進む展開が来ます。
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冬の公園ベンチ 凍え座ってる男の子と女の子
愛を語ってるのか 感動的なワンシーン
出会って別れを繰り返す
≪キャッチーを科学する 歌詞より抜粋≫
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ここで歌詞が身近な世界観になります。壮大な人の歴史や学問の世界と身近なストーリーを対比させているんですね。
そして「歴史や科学」の学問の世界と「男の子と女の子」は次のフレーズでつながります。
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何故ゆえ二人が出会ってしまったのかを
歴史や科学で分かるなら
嫌だ 嫌だ
≪キャッチーを科学する 歌詞より抜粋≫
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この歌詞で壮大な世界と身近な世界がつながる見事な構成。
キャッチーさの奥には、作り込まれた歌詞があった
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君がいて僕がいる それだけで笑顔
それは人智を超えた化学反応
だから だから だから
傷つけ合うためだけじゃ
嫌だ 嫌だ 嫌だ
≪キャッチーを科学する 歌詞より抜粋≫
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さらにラストはこう終わります。最初に仕込んでいた「傷つけ合ったとさ」の伏線を見事回収しているんですね。
学問だけではどうしても分からない身近な幸せを「それだけで笑顔」というフレーズで表現。
キャッチーなメロディを科学しつつ、人の心がなぜ「キャッチー」されるのか「科学」している人類を詞にしています。かなり練られた詞とメロディなんですね。
TEXT:改訂木魚 (じゃぶけん東京本部)