「シャンプーハット」はチームしゃちほこの曲です。
チームしゃちほこは名古屋のグループ、ももくろの妹分にあたります。さすがスタダアイドルだけあり、これまでも「首都移転計画」「いいくらし」などコミカルな楽曲を歌っています。
そんなしゃちほこの楽曲の中で、ちょっと変化球で来た「シャンプーハット」。作詞作曲はゲスの極み乙女。の川谷絵音です。
アレンジは元電気グルーヴのメンバーでもあるCMJK。エレクトロな音の波の中にストリングスを入れて結構凝ったアレンジをしています。
歌詞は「シャンプーハット」「濡らさないで」という表現で巧みにアイドルソングを作っています。色々な妄想がしやすい作りなんですね。
例えばアイドル番組は、アイドルにバナナを食べさせたりプリンを口にふくませたりさせる。これは視聴するファンの妄想を巧みに刺激しているわけです。そしてたとえ卑猥なものに見えるという批判があったとしても「なに変な妄想してるんですか、これは純粋にバナナやプリンを食べてるだけです」と言い逃れできる余地を残しているんですね。
この曲も「シャンプーハットを濡らさないで」(シャワー、風呂、裸などを連想させやすい)という歌詞でありながら「純粋に歌詞の中の少女が想像しているだけです」と言える余地を残しています。
サビ終わりの「シャンプーハットは外さないでね ダメよ」と歌う箇所。ここでシャンプーハットが「外さない」ものとして「コンドーム」の比喩であると、とらえることも出来るのです。わざわざ「ダメよ」と念を押していることに加え、サビ前に「An An An An An」を入れていることから、その狙いがわかります。
かつて80年代におニャン子クラブが「セーラー服を脱がさないで」と歌いました。「シャンプーハットは外さないでね」というフレーズで、間接的に同じようなことを表現しているのです。
しかし、あくまでも表向きは歌詞の中の少女のストーリー。シャンプーハットは「私はさ、 何故かシャンプーハットで隠れてるの」という心理を隠すアイテムとして使われています。少女の片思いのストーリーであるということを「私の斜め前に座る真面目そうな男の子」といった細かい描写で示す作り。
この曲は更に後半のラップの箇所で「君はこのあと屋上で漫画みたいに友達と焼きそばパン食べるんでしょ?」と情景を細かく伝えています。「何ならジャンケンで負けてみんなのパンを買いに行って途中で私を見つけるんでしょ?」という怒涛のような凄いたたみかけ。川谷絵音らしい言葉のつめこみ方です。
この歌詞の中の少女の想像力のたくましさと、アイドルファンの妄想力のたくましさが呼応しているんですね。少女が好きな男の子に対しての想像をどんどん膨らませていくのと同時に、アイドルファンがアイドルにどんどん妄想を膨らましていくのですが「結局シャンプーハットは濡れなかった」というオチがくる。 妄想をさせた上で一気に現実に引き戻すという技を使っているのです。
そして歌詞の中の少女の気持ちをたどると、シャンプーハット(帽子ほどでない頭にかぶるもの=表情や本心を見られたいような・見られたくないような微妙な気持ちの表れ)で顔を隠していた子が「ハッピーエンドを作りたいから これから覚悟して」と前向きになる純粋にまぶしい曲でもあるのです。だから巧みなんですね。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)